有馬記念を制したシンボリクリスエスは、世界的に見て日本との相性だけが極端に良いヘイルトゥーリーズン系サイヤーラインが生み出した、新たなるスーパースター候補だろう。ヘイルトゥーリーズンの系統が日本で繁栄したのは、伝説の大種牡馬サンデーサイレンスと、偉大なるナンバー2・ブライアンズタイムのおかげであることは言うまでもないが、タイキシャトル、グラスワンダーといた近年の名馬がともにこの系統から出たことを考えると、よほど日本の競馬に合うものをこのサイヤーラインが持っているとしか思えないのである。
そしてまた、シンボリクリスエスである。
この馬は、シンボリの和田孝弘氏がアメリカで生産した馬だ。98年11月のキーンランド・ノヴェンバーに上場された母ティーケイを、和田氏が30万ドルで購買。翌春に生まれたのがシンボリクリスエスで、同年にキングマンボを受胎させたティーケイを、和田氏は99年11月のキーンランド・ノヴェンバーで26万ドルで売却しているから、まさしくシンボリクリスエス1頭をとるためだけに母ティーケイを入手したことになる。受胎していたクリスエスによほどの思い入れがあったのか、或いは、ティーケイとクリスエスの配合に人知れぬ妙味を見いだしたか、結果としてキングマンボの種付け料4万5千ドルと、売り抜けの損益4万ドルの合計8万5千ドルでシンボリクリスエスを作り上げたわけだから、馬産家として鮮やかな手腕と言わねばなるまい。98年・99年といえばアメリカの競走馬市場がバブルのピークにあり、10万ドルに満たない予算でイヤリングセールや2歳セールで将来のチャンピオンを購買することなど、ほとんど不可能だった時代だったである。
シンボリクリスエスの血統的魅力の1つが、欧米で隆盛を極めるノーザンダンサーもネイティヴダンサーも内包していない点だろう。将来は社台SSでの種牡馬入りが決まっているようだが、サンデー牝馬にも交配できるし(ヘイルトゥリーズンの4×4)、エルコンドルパサーやアグネスワールドの牝馬と交配してシアトルスルーのインブリードを作っても面白い。特に、クリスエスの1つ下の牡馬(現在2歳)の競走成績如何によっては、キングマンボの直子エルコンドルパサーの牝馬との配合に大きな妙味が生まれよう。あるいは、クリスエスが3代目に所有するカナダ2歳牝馬女王クイーンルーイーを活かした配合なども試みて楽しそうである。