■半分あきらめていた、中央でのGI制覇
小牧騎手が『あの勝利がなかったら、今はなかったかもしれない』と振り返るレジネッタでの桜花賞制覇。今回は、 “中央・小牧太”に転機をもたらした、記念すべきGI初制覇を振り返ります。
──騎乗馬によるところが大きいと思いますが、ユーザーから『逃げ・先行・差し・追い込みのうち、小牧さんがもっとも得意とされるのはどの戦法ですか?』という質問がきています。
小牧 騎手の立場からいえば、先行、好位差しが一番いいでしょうね。得意というより、安心して乗れるから。行く馬がいなければ行って、行く馬がいれば2、3番手で、っていうね。騎手はみんな、そういうタイプが一番いいと思ってるんじゃないかなぁ。後ろからの競馬は、どうしても道中の不利がつきまとうからね。ただ、個人的には、追い込みは好きですよ。やっぱり、追い込んで勝つのは気持ちがいいからねぇ。
──前々回では、逃げ馬についてお話を伺いましたが、小牧さんといえば、胸のすくような追い込みにも定評がありますよね。豪快ですものね。
小牧 普段は大人しくて、謙虚なんやけどねぇ(笑)。
──小牧さんの追い込んでの競馬といえば、やはり、レジネッタでの桜花賞制覇がまず最初に浮かびます。以前に『あの桜花賞勝ちがなかったら今ごろは…』なんて、おっしゃってましたが。
小牧 あの1勝がなかったら、今ごろは開き直ってたかもしれんね。GIを勝って、ホントに気持ちが変わりましたから。大きな大きな1勝でした。
──レジネッタは、桜花賞の前にフィリーズレビューで3着。本番は12番人気でしたが、人気がなさすぎたようにも思います。
小牧 んー、もともとあまり人気を気にしないほうやし、あのときは相手もそろってたんでね。それに、フィリーズレビューのときに、これ以上ない競馬をしたつもりなんですよ。それでも勝てんかったからね。正直、これで勝てんのやったら、本番は厳しいかな…と思ってました。
──では、レース前の手応えとしては…。
小牧 もちろん、いいレースができればいいなぁとは思ってましたけど、まさか勝てるとは思ってなかった。なにしろ、僕自身がGIを勝ったことがないジョッキーやったからね。
──ゴール前では、自然と手が挙がった感じでしたね。ゴールした瞬間の率直な気持ちは?
小牧 焦りました(笑)。というか、必死やったね。“もうGIは勝てないのかなぁ”って、半分あきらめてたころでね…。ホントにまさか勝てるとは思ってなかったので、うれしかったですね。
──ちなみに、曾和先生にはどのタイミングでご報告されたんですか?
小牧 その日の夕方に。僕から報告したというか、調整ルームに戻る前に『太、ほら電話』って、誰かに電話を渡されて。『もしもし?』って言ったら、曾和先生でね。泣いてました。めずらしいですよ。最初で最後…、あ、僕の結婚式のときも泣いてたわ(笑)。
──曾和先生と小牧さんは、本当に親子のようですね。
小牧 結婚式の最後に、僕が師匠に手紙を読んだんです。そのときにね、泣いてらして…。まぁ、僕もボロボロ泣いてたんですけど(笑)。
──そういえば、桜花賞のときも涙を流されていたような…。
小牧 はい。僕は涙もろいので…。あのときは“今日は絶対に泣かんとこ!”って決めて、検量室のところまで戻ってきたんやけどね。無理でしたわ(笑)。
──レジネッタでは、その後、オークス(3着)、秋華賞(8着)をはじめ、翌年の夏までコンビを組まれて。やはり、クラシックを一緒に戦った馬というのは、思い入れが強いものですか?
小牧 そうですね。やっぱり、レースのたびに、どうにかして勝たせてあげたいと思うので。いや、勝たせてあげたいんじゃないな、自分が勝ちたいんやね。だから、もうちょっとこう乗ったほうがいいんちゃうかとか、普段はあんまり考えない僕でも考えますからね。レジネッタ、それからスマイルジャック。この2頭には、いろいろ教えてもらいました。2頭とも少し掛かる馬だったので、それを踏まえてどううまく乗るか、ホントにいろいろ考えましたから。それがね、今につながってると思ってるんですよ。
【次回の太論は?】
スマイルジャック、ワンダースピード──小牧騎手いわく『一緒に成長してきた』と振り返る競走馬たち。次回は、彼らとの日々を回顧しつつ、相性のいい馬やコースについて語ります。
【質問コーナー】
■ 園田時代、仲が良かった騎手、よく飲みに行ったりした騎手は誰ですか?
小牧 今は調教師になられた平松(徳彦)さんですね。あとは、園田時代は、赤木くんともよう飲みに行きましたわ。中央に来てからは、飲みに行く回数自体は減ったけど、彼も橋口厩舎を手伝ってるんでね(11月20日付で騎手を引退。橋口厩舎の調教助手に転身予定)。いっつもしゃべってますよ。