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フランケル、猛烈リハで復活の狼煙

  • 2012年05月09日(水) 12時00分
 欧州、米国、アジアで見逃せないレースが目白押しだった先週末だが、そんな中、馬券を売っていないのに大きな注目を集めたのが、5月5日(土曜日)に英国ニューマーケット競馬場で行われた「レースコース・ギャロップ」だった。

 レースコース・ギャロップとは、出走経験のない馬や、休養で実戦から遠ざかっている馬を、開催日の競馬場に運び、レースの合間に競馬場のコースを使って調教することを指す。より実戦に近い形で追い切ることで、間近に迫ったレースに向けて心身両面のチューンナップを図るのが目的だ。

 5月5日、第1競走がスタートする少し前、レースコース・ギャロップを行なうためにロウリーマイルに登場した3頭のサラブレッドのうちの1頭が、フランケル(牡4、父ガリレオ)だったのだ。

 4月25日付けのこのコラムでご報告したように、4月11日の調教中に交突を起こして右前脚に外傷を負ったことが、引退騒動にまで発展したフランケル。その後、入念な獣医検査を行なった結果、軽傷であったことが判明し、本格的な調教が再開されていたのだが、復帰戦と言われている5月19日のG1ロッキンジS(芝8F)まで2週間と言う時期を迎え、レースコース・ギャロップが施されることになったのだ。

 当初は5月6日(日曜日)に行なうと発表されたものが、1日前倒しとなって、5日(土曜日)の午後1時半過ぎに、同厩のブレットトレイン(牡5、父サドラーズウェルズ)、ジェットアウェイ(牡5、父ケイプクロス)とともにロウリーマイルに姿を現したフランケル。ボリューム感満点の馬体は相変わらずだが、太いという印象は無い。

 ロッキンジSでもラビットを務める可能性のある僚馬2頭を先に行かせ、差のない3番手にポジションをとったフランケルは、7F標識と8F標識の中間点付近からゆっくりとキャンターを開始。出だしに少し頭を上げる素振りを見せ、鞍上の主戦騎手トム・キーリーの手を煩わせる局面があったが、「折り合い」に概ね問題はなく、充分にリラックスしての追走となった。

 1つ年齢を経たとは言え、昨年幾度か実戦で表面化した「掛かり癖」が雲散霧消するとも思えないが、少なくともひと冬越して落ち着きが増したことは間違いなさそうである。

 さすがの迫力だったのが、残り2Fを切ってキーリーが手綱を緩めた瞬間だった。馬体全体が一瞬、ブワッと膨張したように見えたのは、当然のことながら筆者の錯覚だったが、周囲全体を飲みこんでしまうような圧倒的な威圧感を誇示しつつ、瞬時にして2頭を交わして先頭へ。ロウリーマイルの最後の1Fは峻嶮な上り坂だが、ここを余力充分に駆け上がって、レースコース・ギャロップを締めくくった。

 この動きに、管理するH・セシル師も「大満足」とコメント。「馬がエンジョイしていたのが確認出来たことがなにより。このあと、もう1〜2本追って、ニューバリーのレースに向かいたい」と語った。

 4月3日の第一回登録と、5月1日のフォーファイトステージを経た段階で、ロッキンジSにはフランケルを含めて14頭がエントリー。

 今季初戦のG1ドバイワールドC(AW2000m)は4着だったソーユーシンク(牡6、父ハイチャパラル)の登録があるが、果たして使ってくるかどうか。A・オブライエンが刺客を送り込むとしたら、ソーユーシンクではなく、昨秋のG1ムーラン賞(芝1600m)勝ち馬で、今季初戦のG3グラッドネスS(芝7F)快勝のエクセレブレーション(牡4、父エクシードアンドエクセル)と見るのが順当な線だ。

 昨春、G1英2000ギニー(芝8F)、G1愛2000ギニー(芝8F)でともに2着だったドバウィーゴールド(牡4、父ドバウィー)や、昨年、ニューマーケットのG2チャレンジS(芝7F)を含めて、7Fの重賞3勝のストロングスート(牡4、父ラーヒ)らも、順調ならここが目標になるはずだ。

 昨秋のG1オペラ賞(芝2000m)勝ち馬ナーレイン(牝4、父セルカーク)の登録もあるが、牝馬限定重賞も数多くある中、果たして使ってくるかどうか。いずれにしても、5月19日のニューバリーは、競馬ファンにとって見逃せない開催となりそうだ。

 ちなみに、フランケルがレースコース・ギャロップを行なった3時間半後に、ニューマーケットに登場したのが、フランケルの全弟ノーブルミッション(牡3、父ガリレオ)である。

 この日の第6競走として組まれたLRニューマーケットS(芝10F)に出走すべく、ロウリーマイルコースに登場したのが、兄同様にH・セシル調教師が管理するノーブルミッションだ。

 デビュー戦となった、昨年10月25日にヤーマス競馬場で行われたメイドン(芝8F3y)は、2着に終わった同馬。2歳シーズンはこの1戦のみで切り上げ、4月21日にニューバリー競馬場で行われたメイドン(芝8F)に再登場し、ここを3.3/4馬身差で制して初勝利を挙げていた。

 H・セシル師がノーブルミッションの3戦目に選択したのがニューマーケットSで、ここで10F戦を使うということは、兄とは異なる適性を持っている馬と、伯楽の目に映っているのであろう。

 レースのペースはさほど速くなかったが、5頭立ての4番手で折り合うという、兄にはない資質を発揮したノーブルミッション。残り2F付近から脚を伸ばしはじめ、最後はきっちりと首差差し切って、前走に続く連勝を果たした。

 このレース振りを受け、ブックメーカー各社は一斉に、ダービーのアンティポスト(前売り)におけるノーブルミッションのオッズをカット。スポーティングベット社などはオッズ15倍を掲げて、キャメロットに次ぐ2番人気に推し上げることになった。

 H・セシル師は、ダービーも視野に入っていると語る一方、この馬にはまだ実戦経験が必要として、5月17日にヨークで行われるG2ダンテS(10F88y)参戦の可能性も示唆している。

 兄同様、弟の動向もまた、競馬ファンにはおおいに気になるところである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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