スマートフォン版へ

日本ダービー

  • 2012年05月28日(月) 18時00分
 Cコースに移動したが、前週のオークスに続いて高速の芝コンディション。先手を取ったゼロスを、トーセンホマレボシが4コーナー手前から早めにかわしに出るロングスパートをかけた結果、レース全体の流れはオークス以上に厳しくなった。

▽オークス 「59秒1-1分11秒0-1分35秒7-2分00秒0…」=2分23秒6
▽ダービー 「59秒1-1分10秒8-1分35秒4-1分59秒4…」=2分23秒8

 オークスを制したジェンティルドンナは、なだめて進み、4コーナー手前から父ディープインパクトと同じような一気のスパート。リズムに乗った直線、5馬身差の独走だった。

 日本ダービーを抜け出したディープブリランテはこの流れを早めに仕掛けて出て、歴代3位の2分23秒8。前半はほぼ同じようなペースながら、オークスより0秒2遅い勝ち時計になってしまった。だが、これは牝馬ジェンティルの素晴らしい能力を示すと同時に、父ディープインパクトの良さを全面的に受け継いだ産駒は、前半なだめて後半ロングスパートする「ディープ.パターン」にはまったとき、父と同じようなレースが可能でもある。それを示したレース運びのモデルケースと考えたい。だから、能力最大限に爆発の5馬身差の独走なのである。まだ、ディープインパクト産駒の可能性や、全容がみえてきたたわけではない。あのタイムで乗り切ったジェンティルドンナのレース運びが暗示するところを大切にしたい。

 ダービーの勝ち時計は、ほぼ同じようなペースで展開しながら、わずかとはいえ、オークスのそれに並べなかった。ただ、オークス2着のヴィルシーナは2分24秒4であり、ダービーではまったく圏外だった9着ベールドインパクトが2分24秒4である。単に勝ち時計を比較して、ダービーよりオークスの方が速かった(強かった)とか、独走のジェンティルドンナはダービー上位組と比べ、総合能力互角以上とか、そういうものでもないだろうとは考えたい。

 ディープブリランテは折り合いの難しさを出し、3歳になって3連敗。この中間、岩田康誠騎手が同馬に付きっきりで意志の疎通をはかることに徹したことで知られる。だから、日本ダービーを勝てた、などというほど短絡の勝利ではないのは矢作調教師の談話通りだが、こういう難しい馬、難しいからこそ類まれな能力を秘めているわけで、ダービーを快走する馬は(もともとの主戦騎手ならともかく)、急に乗り替わったりした馬ではない、ということも意味している。

 高速の芝はみんな分かっている。12Rの目黒記念2500mも、8Rの青嵐賞2400mもそうだったが、少しオーバーペースと思えても「いつもより早め」に動かなければ、また「いつもより前に」いなければ勝負にならなかった。ここまで高速の芝ができ上がってしまった(用意してしまった)のは、あまり歓迎すべきことではなく、これは多くの騎手や調教師が指摘するとおりだが、これに対応できなかったのは、急に慣れないレース運びを強いられた陣営だった。自分の形を崩さなければならないからだった。

 1番人気のワールドエース。敗因はいくつもあるだろうが、もし、気楽な立場で前出のジェンティルドンナと同じようなレース運びに徹することができたなら、「ジリジリとしか伸びなかった」と振り返るレースではなかったかもしれない。しかし、高速決着に対応すべく、いつもより前に付けたから、---といっても自身の前半1200m通過は1分13秒台だから、決してハイペース追走でもないのだが---、慣れないレース運びで後半の切れを失ったのは明らかである。ふつうのレースがどんなスローで展開しようが、結果が出ればいい。だが、ここ1番のGIのビッグレースで、たとえばトーセンホマレボシが象徴するような、死に物狂いの、肉などいくら切らせてもいい。しかし、骨は断ちたい。そんなレースを展開されてしまうと、ふだん緩い流れのレースしかしていない馬は対応できないのである。別にスローのレースが悪いことなどない。でも、GIを勝ちたいなら、その過程で苦しい厳しい流れのレースも経験させておかなければ、肝心なときに大変な死角が生じてしまうのである。

 ゴールドシップは高速馬場に対応すべく、スタート直後から激しく気合を入れなんとか好位のインを取ろうとしたが、残念ながらこちらは、もともとスピード系ではない弱みが出た。スローの共同通信杯では好位のインにおさまったが、当時とは他馬のダッシュ力が違った。もまれて行けず、本意ではない位置取りになったが、人気の皐月賞馬。動かないで待っていては凡走はみえている。前方のトーセンホマレボシがスパートしたのと同じ3〜4コーナーで、同じように脚を使わされてしまった。ワールドエースと同様、大きく置かれすぎたわけでもないが、あれでも高速の芝では圏外だったのである。

[これでフルゲートが18頭立てになり、能力接近の激戦ダービーになって20年以上、ふつうは好枠とされる中ほどの「6〜9番」の馬だけが1頭も勝てない記録が続く。偶然ではない。けっして些細な枠順うんぬんでもない。ふつうに出たのでは挟まれて下がりかねない辛い枠順だから、自分の形を崩して仕掛けて出ないとダメだからである。ジャパンCでさえ同傾向である]

 フェノーメノは、ゴールドシップと同じステイゴールド産駒だが、母方の特質がタフなスピード血脈に近いこともあって、先行策もとれる自在型。この強みが大きかった。理想のポジションで、持てる現時点の能力は余すところなく出し切った。最後、よれるまで死力をふりしぼった。あと一歩の惜敗はたまたまの微差にすぎないが、レースは日本ダービー、このハナ差は陣営にも蛯名騎手にも、あまりに大きすぎる。モンテプリンスや、エアシャカール、ナリタトップロード、ローズキングダムのように、この後ビッグタイトルを手にすることにより、ダービー2着が戦績の中に埋もれてしまうくらい、大活躍しないといけない。

 C.ウィリアムズ騎手のトーセンホマレボシと、勝ったディープブリランテは、スピード色を前面に出すディープインパクト産駒のひとつの特徴を、最初から先行力として生かしてきたのが今回のダービーでは強みだった。とくにトーセンホマレボシの先行力は別格。前回2200mの日本レコードは馬場だけではなかった。このペースで先行し、4コーナー手前からロングスパートをかけ、たった0秒1しか負けずに2分23秒9。新しい時代を築くディープインパクト産駒は、先行力を生かすタイプに育てても大変な逸材を生みそうなのである。たとえば、サイレンススズカ型の…。

 グランデッツァは、同じ位置にいたグループがみんな好走しているから、これは距離適性としか考えられない。ヒストリカルは、木曜発表の事前馬体重が446kg。初の遠征で、もともと小型に近い馬が当日は426kg。ちょっとかわいそうだった。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング