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岩田騎手の豪快な追いっぷりは絶対的な技術の裏返し

  • 2012年06月12日(火) 18時00分
常時、小牧騎手への質問が多数寄せられている当コラム。今回は、そんなユーザーのみなさんからの質問特集です。1番人気で負けた心境や調教でわかる競走馬の能力、そして岩田騎手の豪快な追いっぷりについてなど、ユーザーからのディープな質問に太論を展開します。

■岩田くんは、馬を動かす絶対的技術があるからね

──今回は、ユーザーから難しい質問がいくつかきています。まずは、岩田さんの追い方についてですが、『岩田騎手の直線の追い方は、オーバーアクション気味のすごいパフォーマンスに見えます。本当のところ、重心を変えずに追うのと、岩田騎手のように体を上下させながら追うのと、どちらが馬は動くのですか? 背中の上で動かれると、馬は走りにくくはないのですか?』というものです。


マイラーズC会心の逃げ切り

ブレない騎乗が理想

小牧 ん〜、あくまでも、騎手それぞれのリズムやから。追うリズムっていうのは、人によって違うからね。岩田くんの場合も、あれが彼のリズムなんでしょう。

──正解はないということですか?

小牧 そうです。正解はない。ブレんように追うのが僕の理想やけど、それがいいか悪いかは、馬に聞いてみないとわからん(笑)。ただ、地方出身のジョッキーは、ある程度、体を動かして…っていうことを体が覚えているからね。格好はどうあれ、岩田くんは馬を動かす絶対的な技術を持っているから。なんせ自分のリズムやね。

──現在の岩田さんの追い方は、園田時代から変わらないものなんですか?

小牧 いや、ちょっと違うと思う。

──たとえば、若い騎手が見た目だけ真似をしても、同じように馬は動かないということですよね?

小牧 そうそう。若い子が恰好だけ真似しても、同じように馬が動くとは限らない。馬が動く動かないは、それ以前のものやね。動かすコツが身についているかいないか。岩田くんは、それが身に付いているうえで、ああいうリズムを作っているんじゃないですか。

──小牧さんには小牧さんの、岩田さんには岩田さんのリズムがあるということですね。

小牧 そうですね。いずれにしても、基本ができたうえでの個性やと思うよ。たしかに、岩田くんの真似をしてる若い子もいるけどね。

──あと、追う際に馬の背中にお尻を付く方とそうではない方がいますよね?

小牧 ああ、トントンってね。あれもいいのか悪いのか、僕もよくわからないけど…。お尻を付いたら人間も楽やしね。楽したらアカンのやけど。僕もたまに、無意識にしてることはあるよ。もともと僕ら地方出身の騎手は、深い砂で育ってるから、腰を入れて追うからね。

──奥が深いですよね。

小牧 ホンマやねぇ。どういう風にしたら馬が動くかなんて、教えられへんよね。それぞれの感覚があるから。なにがいいのか悪いのか、わからへんからね。理論的には、あんまり動かんほうがいいような気もするけど…。馬に聞いてみないとわらかへんよね(笑)。

──続いては、『小牧騎手くらいのベテランになると、調教で初めて跨った瞬間、その馬の素質の高さなどはわかるものなのでしょうか』という質問です。

小牧 うん。走りそうやなっていうのはわかるよ。

──でも、いざレースに行ったら走らない場合も…。

小牧 それは何回もあるよ。乗り味はいいのに、走らんなぁ…っていう馬ね、いるいる。そういう馬は、結局、基本的な能力というか、スピードがないんでしょうね。人間だって、もともと走るのが速い人もいれば、どう頑張っても速く走れん人がいるでしょ? 馬も一緒ですわ。

──調教ではもうひとつだけど、レースに行ったら走るという逆のパターンもありますよね? 

小牧 ああ、あるね。それは“気”の問題だと思いますわ。前にも言ったけど、集団で走って初めて、闘争心に火が付くタイプね。あとは、乗り味はあんまり良くないのに、レースに行ったら走る馬もいるしね。おそらくそれは“血”でしょうね。血統ね。心臓がいいんでしょう。

──血統で走るということですか?


競走馬の血統は重要

競走馬の血統は重要

小牧 うん、中身がいい馬は走るよね。最近でいうと、ブエナビスタとかそうだと思う。あんまり見栄えのする馬ではなかったし。心臓がいいんでしょうね。それはもう遺伝でしょう。生まれ持ったものだと思います。やっぱり馬って“血統”やもんね。

──なるほど。これはまた奥が深いですよね。では、最後の質問です。『1番人気で負けたときは、それ以外の人気で負けたときと、気持ちの上で違いはありますか?』。

小牧 人気に関係なく、自分自身でこれは勝てるやろうなと思っている馬で負けたら、ガックリしますよ。あとは負け方によるね。それは自分が一番わかる。たとえば、1番人気の馬でも、完璧に乗って負けたら仕方がないと思えるし。自分の意に反して“えっ? この馬が1番人気?”っていう場合もあるしね。逆に、5、6番人気でも、すごく自信がある場合もあって、それで負けたらやっぱりガックリするし。

──小牧さんは基本的に、人気はあまり気にしないほうだとおっしゃってましたよね。

小牧 そうそう。人気っていうのは、ファンが馬券を買う目安やからね。僕自身は、あんまり気にしてないです。ただ、1番人気になったら、競馬の仕方が変わるっていうのはある。納得してもらえる競馬をせんと、っていうのはあるよね。捨て身のレースはしづらいというか。でも本当は、そういうことを考えずに乗ったほうがいいんでしょうけどね。

【次回の太論は?】
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1967年9月7日、鹿児島県生まれ。1985年に公営・園田競馬でデビュー。名伯楽・曾和直榮調教師の元で腕を磨き、10度の兵庫リーディングと2度の全国リーディングを獲得。2004年にJRAに移籍。2008年には桜花賞をレジネッタで制し悲願のGI制覇を遂げた。その後もローズキングダムとのコンビで朝日杯FSを制するなど、今や大舞台には欠かせないジョッキーとして活躍中。

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