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ウォーエンブレム、種付け苦戦

  • 2003年03月10日(月) 13時34分
 こんな見出しとともに、3月7日付けスポーツニッポン紙上にこの名馬の現況が紹介されていた。

 それによると、ウォーエンブレムは、2月中旬からの種付けシーズンを迎えても交配できず、社台スタリオンでは試行錯誤を続けている、というもの。実は、馬産地ではこの噂が、2月半ばを過ぎた頃から徐々に広まり始めていた。同スタリオンの展示会が開催されたのは、17日のこと。その直後あたりからのことである。

 私がこの話を聞いたのも、同業者からの電話によってである。「おい、知ってるか?」という前置きの後に「まだ、だめらしいぞ」という台詞が続いたのだった。他の馬ならともかくも(という表現は失礼か?)ポストサンデーの期待がかかった20億円のアメリカ二冠馬なのだ。これは、大変なことになったものだと仰天してしまった。

 その同業者によれば、ウォーエンブレムは、試験種付けの際には、まったくペニスすら出さなかったという。周知の通り、馬のペニスは普段(例えばレースの時など)完全に引っ込んだままの状態になっている。それが、発情のある牝馬を前にすると、勃起して、伸びてくるのだが、最初はその兆候すら見せなかったというのだ。

 大半の種牡馬が、ごく当り前のように“通過”する初種付けの儀式をこの馬は、未だに済ませていないということになると、今後のことが心配になってくる。一説によれば、ここ一ヶ月間にも及ぶ努力の甲斐があって、牝馬の側に近づくと、性的行動の兆候が見られるようになったとの情報もある。すなわち、勃起すらしなかったのが、少しずつペニスも勃起するようになり、徐々にではあるが「良い方向」に向かっていると聞いている。

 だが、「どうも、実際に牝馬にペニスを挿入しようとすると、とたんにだめになってしまう」らしい。こればかりは、実に微妙な精神的な領域ゆえに、簡単に治療で治るような単純な話ではないだろう。とにかく、焦らず騒がず、リラックスさせた状態で何とか“成就”することを祈るばかりである。

 種付け料は、前払いの800万円(不受胎時、全額返還)だから、現在の種付け料ランキングではブライアンズタイムに続くNo.2で、フレンチデピュティと同額である。ポストサンデーというだけあって、この金額からも期待の大きさが伺えるところだ。当然、配合予定馬は、社台グループを中心にかなりの名血揃いだったはずである。

 3月に入ると、それらの配合予定馬が、続々と出産を済ませ、あるいは発情の兆候を見せ始めて、種付けできる状態になってくる。これほどの名馬であれば、他の種牡馬に配合変更するにしても、候補は限られてしまう。返す返すも、昨年のサンデーサイレンス、エルコンドルパサー、エンドウィープといった名種牡馬たちを襲ったアクシデントが惜しまれるところである。

 ともあれ、ウォーエンブレムはまだ4歳。シャイで奥手のタイプだったということなのか。いずれにしても、1日も早く種牡馬としてスタートできる日の来るのを切望する。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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