3月4日(火曜日)に、カリフォルニア州のフェアプレックスパークで行われた『バレッツ・マーチセール』は、最近のアメリカにおけるブラッドストック・マーケットの動向をストレートに反映する結果に終わった。
すなわち、高価格帯はヒートアップ。景気の変動には関係のないごく一部の大金持ちたちが、金の卵を狙って派手な争奪線を繰り広げた一方で、中間価格以下は大きく下落。市場におけるプレーヤーの不足は深刻で、下見の段階でも厩舎エリアが混雑することもなく、上場馬のうち新たな馬主を見つけることが出来なかった馬が半数近くにのぼるという、憂慮すべき事態となった。
まずは、明るい方の側面から。
上場番号107番の父シーオヴシークレッツの牡馬が、2歳市場としては歴代のワールドレコードとなる270万ドルで購買されたのだ。昨年のこの市場でも、ほとんど無名の種牡馬ストーミーアトランティックの牝馬が、牝馬としてのワールドレコードで購買されたが、今年のシーオヴシークレッツも同様に種牡馬としての評価は『ほとんどない』のが実情だ。現役時代は西海岸におけるケンタッキーダービーへむけた前哨戦の1つG2サンヴィセンテSを勝った後、3冠戦線は故障で棒に振った馬で、この世代が初年度産駒という若手種牡馬である。
107番は馬の作りが抜群な上に、1回目1F=10秒2、2回目2F=21秒6と時計を揃え、コンサイナーも仕入れ値が3万ドルの割りには希望小売り価格を25万ドルに設定するという強気の戦略に出たが、この馬がリングに上がるや、アーロン・ジョーンズ、ロバート・ルイスという超大金持ち2人がともに譲らずにどんどんと値が高騰。更にはここに、カナダ人馬主のチャールズ・フィプキー氏が加わり、遂にはフィプキー氏が入手に成功したのである。管理するのは、ボブ・バファート調教師の予定。
こんな馬ばかりだったら誰もがハッピーになれるのだが、現実はさにあらず。総売り上げこそ前年より頭数が多かったため11.6%増となったが、平均価格は5.2%減の142,186ドル、中間価格は33.3%減の6万ドルとなった。そんな中、日本人によると見られる購買は、前年と同数の11頭だった。
ただし、昨年の日本人購買馬の平均価格が133,727ドルだったのに対し、今年の11頭の平均価格は203,636ドル。マーケット全体は落ち込んだのに、日本人購買馬だけの平均は5割以上上がったということは、それだけ今年の日本人購買馬の質が高いことを意味する。POG戦略上で言うと、絶対マークが必要なのが、今年のバレッツと言えるだろう。
日本人購買馬の最高価格は、全体でも3番目の高値となる70万ドルで購買された、上場番号119番の父イクスプロイット、母トゥーパンチリルの牡馬。1回めの公開調教が10秒1という1Fの最速時計。2回めも2F=21.5秒と好時計をマークしたのだが、この際の1Fの通過タイムがなんと9秒8!。2歳トレーニングセール史上、ダートの1Fにおけるワールドレコードが記録されるという、とんでもない追いきりを披露したのである。この馬が5月15日生まれで、まだ成長途上というのだから、末恐ろしい大器である。
既に真っ白と言っても過言ではない芦毛の馬体を見て、現地に集まった日本人関係者から奇しくも『クロフネの再来』の声がかかったこの馬の動向には、ぜひ御注目いただきたいと思う。