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ピッチャーに似ているスポーツアナウンサー

  • 2012年07月14日(土) 12時00分
 14日から夏の新潟競馬が開幕。今年も例年どおり、8週間にわたる新潟出張が始まりました。

 私の場合、ほぼ時を同じくして高校野球埼玉大会の中継がスタート。さらに今年は、都市対抗野球の中継も重なり、おかげさまでしばらくは大忙しの日々が続きます。

 というわけで、われわれスポーツアナウンサーの仕事はハッキリ言って体力勝負。とくに、夏の暑さに負けるわけにはいきません。その点はスポーツ選手と同じです。

 そして、とにもかくにも、アナウンサーが喋らなければ何も始まらないのです。これは、野球で言えば先発完投が求められるピッチャーと同じ。アナウンサーには“目立ちたがり屋”が多いと言われることがありますが(私はそういうタイプじゃないんですけど)、グランドの中でひときわ目立つ一段高いところ(つまりマウンド)にいて、「自分が投げなきゃ試合が始まらない」という立場のピッチャーによく似ています。

 その分、大事なところで“痛打”されたときの目立ち方もハンパじゃありません。

 バッターは3回に1回ヒットを打てば立派な強打者。その日、3打席3三振していても、3点リードされた9回裏に満塁ホームランをかっ飛ばせば大ヒーローになれます。ところがピッチャーは、9回ツーアウトまで完璧な投球をしていても、“あと1球”の失投で敗戦投手になっちゃうかもしれないんです。

 アナウンサーの仕事もそう。競馬の実況で言えば、いかに道中をスムーズにさばいていても、ゴールのところをしっかり締めくくらなければ、聞いている方をガッカリさせちゃいます(『オマエにはそういうことが多い』ですって?どうもスミマセン!)。

 とはいえ、見事9回を投げ切って完投勝ちしたときの気分はサイコーでしょう。そう簡単にはそういう気分を味わえないというところも、共通点のような気がします。

 一方で、スポーツ中継には解説者の存在も欠かせません(時にはアナウンサーの一人喋りというスタイルがありますが)。この場合、アナウンサーは解説者のタイプによって話の中身を変えていく必要がありますから、今度は野球で言えばキャッチャー、競馬で言えば騎手の役割が求められるわけです。

 これもなかなかタイヘン。ピッチャーの意識のままでいたら、解説者に喋ってもらわなければいけない話を自分で先に喋っちゃうことになります。かといって遠慮ばかりしていると、競馬で言えば競走馬のほうに主導権を握られて、理想とする展開のレースができなくなってしまいます。聞いている方が心地よくなる中継は、解説者とアナウンサーの息が合っていないとできないもの。このへんは、ピッチャーとキャッチャー、競走馬と騎手の関係に似ているでしょう。

 さぁ、今年もまた、自分を鍛える夏が始まりました。ガンバローっと!

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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