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須貝尚介調教師(1)『厩舎訓は“愛情、感謝、責任”』

  • 2012年08月06日(月) 12時00分
今月のゲストは須貝尚介調教師。開業4年目の今年、2年連続での函館リーディング獲得、現在全国リーディング5位(8/6現在)と絶好調。そして何と言っても、ゴールドシップでの皐月賞制覇の栄冠が甦ります。今最も旬な須貝調教師に、厩舎躍進の秘密とクラシックホースの秋の展望を伺います。

赤見 :須貝厩舎は今年が開業4年目となりますが、今年のご活躍はものすごいですね! 開業してこれだけ早くに結果を出されたのはいかがですか?

須貝 :いやいや、今だけかもしれないですよ(笑)。この仕事は、馬主さんの理解を相当得られなければできないですからね。そういう理解してくださる馬主さんが僕の周りにはいらっしゃるから、そこには本当に感謝しますよ。だから馬主さんのために、1つでも多く勝てたらと思ってがんばっていますけど、その結果というのは本当に、馬とスタッフががんばってくれているからで、僕なんて何も。ただガミガミうるさいだけ(笑)。

おじゃ馬します!

仕事に関してはうるさいですよ

赤見 :先生はどういうことにうるさいんですか?

須貝 :仕事に関しては、逐一うるさいですよ。やっぱり馬主さんの財産を預かっていますし、一つの命を預かっているわけですからね。その仕事に対しては慎重に、厳しくやらせてもらっています。

赤見 :厩舎が順調に進んできているなというのは感じられますか?

須貝 :早い時期からいい競馬をさせてもらっていますけど、やっぱり物事というのは、それがずっと続くわけではないですから。多分これからは、本当に解決が難しい問題もどんどん出て来ると思いますので、その時のためにも日々勉強しなきゃなというのはあります。でも、本当にありがたいことに、こうして調教師として注目されるようになって。今度は成績ばかりが先に来るんじゃなくて、自分は調教師としても人間的にもまだまだお子ちゃまなので、そういうところももっと成長していければいいかなと思います。

おじゃ馬します!

騎手時代、キタサンヒボタンでファンタジーS勝利

赤見 :先生はジョッキーを経て、現在の調教師という職があるわけですけれども、競馬の世界に入られたのはやっぱりお父さん(須貝彦三元調教師)の影響で?

須貝 :まあ、生活していたのが競馬の中でしたからね。馬がとにかく好きでしたし、自然とそういう形になったんじゃないかなと思います。

赤見 :物心ついた時からこの世界に入ろうと。

須貝 :そうそう。というか、他にもやりたいことは何個かあったんですけど、勉強するのがあまり好きじゃなかったので(笑)。ただ、調教師になるためには本当に勉強しなきゃならないと思ったから、それは必死のパッチでしたよ。減量して競馬に乗りながら勉強…あの時代にはもう戻りたくない。

赤見 :一番そこがきつかったですか。

須貝 :いや〜、きつかったですね。一番きつかったのは調教師試験に受かる3年ぐらい前からかな。本当、何回も逃げ出そうと思いましたから。でも、人生の過程においてそういう時代があった方が、今思うと良かったかなと。ありがたい経験という捉え方をした方がいいんじゃないかなと思いますよ。

赤見 :その時、支えになったものは何だったんですか?

須貝 :支えというか、それはもう、自分との戦いでしょうね。「どうしても調教師になるんだ」という。やっぱりある程度年齢が達してきたら、例えば野球で言うと、選手から監督になってみたくなる。自分のさじ加減が勝負を左右する、そういうところで監督もいいんじゃないかなと。そう考えて、僕には調教師しかないのかなというのでがんばったんですけどね。そうしたらありがたく合格して、今現実となっているんですけど。ただ、なってからが大変だというのは身にしみて知っていますので。これからだと思います。

赤見 :厩舎の形を作っていくところで、気をつけられたことはありますか?

須貝 :「温故知新」という言葉がありますが、スタッフには自分よりも歳の多い方もいるし、10も20も離れた子もいるわけだから、若い子たちの意見を取り入れながら、なおかつベテランスタッフの意見も聞いて、それを吟味しながらやることがすごく大切だと思っているんですね。ありがたいことに今はもう全員すごく仲がよくて、うまく意見交換もできています。そうやって厩舎の体制は形ができてきたんですけど、やっぱり馬は生き物ですからね。いい時ばっかりじゃないし、しゃべれないのでそこをどれだけ察知してあげられるかが大事です。

おじゃ馬します!

先生が赤ちゃん言葉を!?

赤見 :先生は馬とジャレて遊ぶのが趣味だとか!?

須貝 :そうそうそう! 赤ちゃん言葉でね(笑)。

赤見 :えーっ(笑)!? 見てみたいです!

須貝 :そう(笑)? 厩舎や牧場で馬を見る時、「おりこうさんにしてたのぉ〜?」ってやって。牧場スタッフなんかは、最初はキョトンとしただろうけど(笑)。

赤見 :あはは(笑)。先生、意外な素顔です。でもそれだけ愛情を注いだら、馬も返してくれそうですね。

須貝 :厩舎で馬たちと遊んでいるでしょう。そのうち、なめてくる馬もでてくるんですよ。馬ってそこまで人のことを覚えますから。うちの厩舎のスタンスとして最初に掲げたのが「愛情、感謝、責任」って、これが厩舎訓なんですけど、馬に愛情を持って、馬に感謝して、周りのスタッフに感謝して、自分が今ここで働いていることに感謝して、それで人に「ありがとう」と言えたら、それだけ自分に責任がかかってくるわけで、そういう人間にならなきゃいけないし、それに応えなきゃいけない。それが責任。そういう姿勢が今スタッフに表れているから、ありがたいと思いますよ。

赤見 :馬を叱らなきゃいけない場面もありませんか?

須貝 :馬には怒らない。

赤見 :怒らない?

須貝 :はい。馬はしゃべれないから、悪いことをしている意識がないですからね。逆に馬を怒ったスタッフを、僕がメチャメチャ怒ります。馬が何を訴えているのかを先に理解してあげなきゃいけないのが人間ですから。極論ですけど僕らの仕事って、「感謝」と「謝罪」しかないんですよ。

赤見 :感謝と謝罪。

須貝 :馬は競馬であんなに叩かれて、それでも一生懸命走る。しかもサラブレッドというのは、人間がつくったものでしょう。人間のエゴのためにつくられた動物なんですよね。そういうことを考えればいじめられないし、本当に「ありがとう」と「ごめんなさい」しか言えない仕事ですから。

赤見 :はい。

須貝 :だから、勝たせてあげないといけないんです。女の子であれば2つ3つ勝つことで、いい種をもらう条件になる。男の子は重賞獲らせて、GI獲らせて、種馬という目標に到達するまでがんばらなきゃいけないし、それが延命につながりますから。その延命につながることをやらなきゃいけないんです。馬は道具じゃないので。そういう気持ちでやっていかなきゃ、バチが当たると思いますよね。まあ、そういうきれいごとだけでは済まされない世界ではありますけどね。

赤見 :ジョッキー時代からそういう思いだったんですか?

須貝 :いや、ジョッキーの時は「こんな走らん馬」とか思っていましたよ。でも、調教師になったらそういう気持ちは全部捨てて、今度はちょっとでも延命につながるように勝たせていくのが僕らの仕事じゃないかなという気持ちでやらせてもらっています。やってるんじゃない、やらせてもらっているんですよね。(Part2へ続く)

◆次回予告
開業4年目の今年、例年以上に勝ち星を量産している須貝尚介厩舎。出走回数は多くなく、それでいて高い勝率を叩き出す。特に複勝圏内率は4割に届く勢い。関西圏に偏らず全国の競馬場を舞台に、まさに「一戦必勝」態勢。調教師・須貝尚介の手腕に迫ります。

◆須貝尚介
1966年6月3日、滋賀県出身。父は元JRA調教師の須貝彦三。競馬学校第1期生として85年に騎手デビュー。90年ハクタイセイできさらぎ賞を制し、重賞初勝利。08年、調教師免許取得、騎手を引退。通算成績は4163戦302勝、うち重賞4勝。09年栗東で開業。12年、ゴールドシップで共同通信杯を制し、調教師として重賞初勝利を挙げる。同年、同馬で皐月賞も制し、開業4年目でクラシック制覇を果たした。通算成績は896戦92勝、うち重賞4勝(8月6日現在)。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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