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デビュー戦で重賞制覇、天才2歳馬誕生か!?

  • 2012年08月08日(水) 12時00分
 アメリカで、デビュー戦でいきなり重賞競走を走り、しかもすでに重賞を勝っていた馬を含む7頭のライバルを退け、勝利を収める馬が現れた。

 大物誕生かと話題を呼んでいるのは、8月5日にカリフォルニア州のデルマー競馬場で行われたオールウェザー6.5ハロンのG2戦ベストパルSを制した、ノウモア(牡2、父ライオンハート)である。

 ベストパルSは、1967年に3歳以上の芝の競走として創設されたバルンボアSを前身とする。1972年から2歳限定戦となり、1974年からダート戦に条件変更。90年代前半に出現したカリフォルニア産の名馬にちなみ、95年からレース名をベストパルSに変更。07年にデルマーのメイントラックがオールウェザーに生まれ変わって以降は、オールウェザーを舞台に開催されている競走である。

 70年代のフライングペイスター、80年代のサラトガシックス、そして90年代のベストパル自身など、後世に名を残した名馬がキャリアの早い時期に制していたのがこのレースだ。その後も、95年のG1プリークネスS勝ち馬ティンバーカントリー、最近では10年のG1プリークネスS勝ち馬ルッキンアットラッキーらが、2歳夏にこのレースを制している他、ベストパルSから後のG1勝ち馬が複数出現。西海岸における出世レースの1つに数えられている。

 そのベストパルSを、デビュー戦でいきなり制してしまったノウモアは、ジョセフ・ラクーム・ステーブルスによるケンタッキー産馬だ。母シアトルキー(その父シアトルスルー)は、現役時代2戦していずれも着外に終わったが、繁殖牝馬としてはなかなか優秀で、ノウモアの半兄にG2サンヴィセンテSやG3ハリウッドジュヴェナイルCSで3着になっているクラシックスルー(父バーンスタイン)がいる。

 祖母キービッド(その父スペクタキュラービッド)は未出走馬だったが、その産駒には、G2独オークスを制した他、G1ガネイ賞で2着になっているケベル(その父シアトルダンサー)がいる。

 ノウモアの父ライオンハート(その父テイルオヴザキャット)は現役時代、2歳G1のハリウッドフューチュリティ、3歳夏のG1ハスケル招待と、2つのG1を制覇した他、G1ケンタッキーダービー2着の成績を残した馬だ。ノウモアが5世代目の産駒となり、これまで、G1アーカンソーダービー勝ち馬ラインオヴデイヴィッド、G1BCターフ勝ち馬デンジャラスミッジといった活躍馬を輩出している。

 ノウモアは1歳の9月にケンタッキーで開催されたキーンランド・セプテンバーセールに上場され、代理人のレッドウィングス・エンタープライズ社が13万ドルで購買。翌春、いったんはファシグティプトン・フロリダセールにエントリーしたものの、上場を取り消された後、5月にカリフォルニアで行われたバレッツ・メイセールにエントリー。上場番号51番を割り振られた同馬は、公開調教で1F=10秒フラットの好時計をマーク。代理人のデニス・オニールに、セール2番目の高値となる21万ドルで購買された。

 デニス・オニールは、カリフォルニアを拠点とした調教師ダグ・オニールの兄で、弟のクライアントの多くから馬選びを任されている目利きだ。つい最近も、デニス・オニールによって市場で発掘され、ダグ・オニール厩舎所属馬となったアイルハヴアナザーが、ケンタッキーダービーとプリークネスSの2冠を制する活躍を見せたばかりである。

 そんな背景もあって、バレッツ・メイで購入された上場番号51番の牡馬も、アイルハヴアナザーと同じポール・レダム氏の所有馬となり、ノウモアという競走名を与えられて、デビューに備えることになった。

 オニール調教師によれば、調教で良い素質を見せている2歳馬が厩舎に3〜4頭おり、これらを使い分けることを考えているうち、中でも最上の動きを披露していたノウモアを、重賞でデビューさせるプランを考慮しはじめたという。試みに、トップジョッキーのギャレット・ゴメスに調教で騎乗してもらい、その上で、重賞デビューの意向を伝えたところ、ゴメスが「レースでも騎乗したい」と答えたことで、ノウモアのG2ベストパルS出走が決まった。

 そんな、厩舎の期待馬ではあったが、ノウモアに対するファンの評価は、オッズ9.6倍で8頭中の4番人気だった。

 オッズ2.0倍で抜けた1番人気になったのは、シアラーマジック(セン2、父ドネレイルコート)。6月14日にハリウッドパークで行われたメイドン(AW5F)を7.1/4馬身差で制してデビュー勝ちを飾った後、7月14日に同じくハリウッドパークで行われたG3ハリウッドジュヴェナイルCS(AW6F)も2.1/2馬身差で制し、無敗で重賞制覇を果たしてここへ臨んでいた馬だった。

 ハリウッドパークでメイドン(AW4.5F)と特別(AW5.5F)を連勝した後、G3ハリウッドジュヴェナイルCSこそ6着と敗れたものの、巻き返しが期待されたアマリッシュ(セン2、父スキャットダディ)が5.4倍の2番人気。7月1日にハリウッドパークで行われたメイド(AW5.5F)で、若駒とは思えぬ落ち着いたレース振りでデビュー勝ちしたエアオヴストーム(牡2、父ワイルドキャットエア)が6.6倍の3番人気だった。

 レースを引っ張ったのはアマリッシュで、大外の8番枠から出たノウモアは、中団の外目を追走する形となった。勝負どころの3〜4コーナ過ぎ、鞍上ギャレット・ゴメスが追い出しにかかると、いったい何をしたらいいのか判らぬと言わんばかりに、戸惑う仕草を見せたノウモアだったが、取りあえずは一生懸命走って3番手で直線へ。ここでも、終始内にもたれ加減になるという、若さを目一杯見せた走りながら、一完歩ごとに先頭との差を詰め、残り70m付近でついに先頭に立ってゴールイン。初出走にして重賞制覇という離れ業を完成させた。

 半馬身差の2着が、前走ハリウッドパークで行われた芝のメイドン(6F)で4馬身差のデビュー勝ちを果たしてここへ臨んでいたエアキティ(牝2、父ワイルドキャットエア、10.9倍の6番人気)。前走ハリウッドパークの特別(AW6F)が3着だったミスエンパイア(牝2、父エンパイアメーカー、17.4倍の7番人気)がここでも3着で、エアオヴストーム4着、シアラーマジック5着、アマリッシュ6着と、人気馬は総崩れとなった。

 一躍、全米注目の若駒となったノウモア。次走の候補には、9月5日にデルマーで行われるG1デルマーフューチュリティ(AW7F)が挙がっているが、実際に使うかどうかは、今後の馬の状態次第とのことだ。

 大目標は言うまでもなく、来年春のケンタッキーダービーになるが、6月20日のこのコラムでお知らせしたように、来年からケンタッキーダービーの出走馬選別方法が、これまでの重賞における獲得賞金順から、ポイントシステムに変わるため、いかにして効率的にポイントを得るかを重視したローテーションが組まれることになる模様だ。

 いずれにしても、今後しばらくは、ノウモアの動向から目を離せないことになりそうだ。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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