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須貝尚介調教師(3)『ダービーは納得していない』

  • 2012年08月20日(月) 12時00分
須貝尚介厩舎(S.R.S=Sugai.Racing.Stable)に初重賞タイトルをもたらしたゴールドシップ。皐月賞では、内田博幸騎手の絶妙なコース取りで見事に勝利。クラシックの栄冠も手にしました。日高の小さな牧場で生まれた芦毛のスターホース、実は幼少期にハードな経験をしていたんです。(8/13公開Part2の続き)

赤見 :ゴールドシップって、本当に先生に縁のある馬ですよね。お母さんのポイントフラッグを管理されていたのがお父さんの須貝彦三元調教師で、騎手時代に先生が手綱を取った馬ですし、先ほどもお話に上がりましたが、日高の牧場で生まれた、馬産地の期待を背負っている馬。こういう馬で厩舎重賞初勝利を挙げたというのは、うれしいことですね。

須貝 :やっぱりそういう良い縁を大事にしていかなきゃいけないですし、そこには感謝がありますよね。だからこの馬がデビューする時、「走らせなきゃアカン!」って思ったんです。偶然的にもオルフェーヴルやドリームジャーニーと同じ血統背景だというのは分かっていたので、もしかしたら化け物級になるんじゃないかなという期待もありました。

赤見 :ステイゴールド×メジロマックイーンの「黄金配合」で。

須貝 :はい。お母さんは、見た感じも乗った感じにもちょっと硬かったんですけど、ゴールドシップは、息が長くて心肺能力が高いというステイゴールドのいいところと、メジロマックイーンの肌のいいところをよく引き継いでいる馬なんです。ただ、やっぱりステイゴールド産駒なので…暴れたら聞かないし、やり出すときついですね。それを知っているから、慎重にやっていますよ。

おじゃ馬します!

優勝レイはかけないですよね

赤見 :優勝した時のレイを肩にかけられないんですよね。いつも隣で持っていらっしゃる。

須貝 :そう、かけられないんです。でも、嫌なんだったら止めようって。抑え込んでまでやる必要はないことですからね。

赤見 :そうですよね。レースではしっかり走りますし。

須貝 :レースは真面目、それがこの仔の偉いところなんです。だから馬が嫌だっていうことは、何で嫌なのかを考えるのと、やらなきゃいけないことなのかどうかを考えて。そう考えれば、レイをかけるのは無理にやらなくてもいいことですからね。ゴールドシップはあれが嫌なんだって(笑)。

赤見 :それを無理やりさせることは。

須貝 :そうそう、させることはないんです。この仔がすごいのはね、多分2歳で一番輸送を経験しているんですよ。

赤見 :輸送ですか??

須貝 :デビュー前に、北海道浦河の吉澤ステーブルから福島の天栄に持って行ったんです。ほかの2歳よりも本当に成長が早かったから持って行こうとなったんですけど、そうしたら震災に遭って。福島に着いてから1週間もしないで、浦河に帰ってるんです。それから1か月も経たないうちに、今度は浦河から石川の小松に持って行って、そこから栗東のうちの厩舎に入れて、新馬戦でまた函館ですもん。だからこの馬はタフですよ!

赤見 :また、新馬戦からすごい競馬をしましたよね。前が残るかというところを、メンバー最速の上がりで豪快に差し切って。

須貝 :新馬戦は、結構自信があったんですよ。「秋ちゃん(秋山真一郎騎手)、ちょっと太く見えるけども、この馬は上のクラスまで行くからがんばって」って。まあ、秋ちゃんは途中で乗り替わりになったんですけどね。彼にはカレンブラックヒルもいて、「どっちに乗る?」「じゃあ、カレンがいるので」って。あの時は悔しい思いをしたんですけど、まあ、正解ですよ。カレンブラックヒルでGIを獲れたんですからね。

赤見 :それで3戦目の札幌2歳Sから、安藤勝己騎手になったわけですか。

須貝 :そうそう。それで札幌2歳SとラジオNIKKEI杯で2着に来て、次の共同通信杯の時に安藤さんが同じ日の京都記念でウインバリアシオンに乗ることになっていたから、オーナーと相談して内田(博幸)君で行こうと。そこで内田君との縁ができたんですよね。

赤見 :内田騎手にはレース前にどんな話をされたんですか?

須貝 :「どんな競馬もできるけど、1800mでしかも逃げ馬がいないから、ペース判断だけを気をつけて。あとはがんばれると思うよ」って。彼はやっぱり一流だから、その辺を分かってうまいことやってくれましたよ。

赤見 :先生、レース後に「ああいう競馬をして欲しかった」っておっしゃっていましたもんね。ゴールドシップって、追ってから納得すれば伸びてくるんでしょうか?

須貝 :ん〜、この馬に関しては、いつも鬼ごっこをしているんですよ。いつも自分が鬼になっているでしょう? 2戦目のコスモス賞なんて、前の馬を捕まえて抜けちゃったら、そこでレースを止めようとしていましたからね。

おじゃ馬します!

大事に乗り過ぎたんですよ

赤見 :はい。

須貝 :そういうところがずるいというか、ある意味ナメてるんですよね。ただ、ダービーの騎乗は、ある種納得はいっていない。たしかに勝ったディープブリランテは強かったんですけど、5着というのは、内田君も大事に乗り過ぎたところがあったなと思いますよ。

赤見 :上がりはメンバー最速でしたが。

須貝 :ええ。 こっちは33秒8の脚で、レースの上がりは36秒1でしょう。その差は何をしていたんだっていう話になりますから。やっぱりゴールドシップにしてもワールドエースにしても、大事に乗り過ぎたんですよ。2400mのダービーで33秒台の脚を使って、やっぱりあの時は、上がってきてから一番疲れていました。ほかのレースはそうでもなかったんですけどね。

赤見 :あの皐月賞もですか!?

須貝 :皐月賞も、そうでもなかったですね。

赤見 :あの皐月賞はすごく印象的なレースでしたけども。みんなが馬場の悪いところを嫌って外に出す中、ゴールドシップは内を突いて抜け出すという、驚きの騎乗でしたが?

須貝 :あれもはっきり言って80点ですよ。内田君に「道悪は上手だからね」とは言っておいたんですけど、さすがに中山の最後方からはきついでしょう。まあ、ああいう選択をしたっていうことは臨機応援に対応できたんでしょうけどね。まあ、皐月賞は結構自信はありましたから。日々のケアも最高にできていましたし。ただ、ダービーはもっと自信があったんですけどね(苦笑)。

赤見 :先生の中でダービーは、相当悔しいものなんですね。秋はどのようなローテーションになりますか?

須貝 :馬の状態を見てからですけど、路線的には神戸新聞杯から菊花賞です。鞍上は、ダービーはああいう結果になりましたけども、そこはやっぱり一流騎手なのでもう分かっているでしょうし、このまま内田君で行くと思います。内田君もこの馬は離したくないと思ってくれているでしょうし(笑)。

おじゃ馬します!

皐月賞馬、秋はどんな走りを

赤見 :これだけの馬ですもん! 夏を越えてどんな成長を見せてくれそうですか?

須貝 :成長ですか? 今度聞いてみます、ゴールドシップに(笑)。

赤見 :あははは(笑)。何て言いますかね(笑)?

須貝 :この馬、僕と遊ぶのが好きなんですよ。「シップ〜ッ!」って呼んでいるんですけど、ムニムニムニーッって(笑)。

赤見 :かわいい〜っ!! あの気性を見ると、結構強そうですけど。

須貝 :本当は寂しがり屋ですよ。でも、気に食わぬことをやったら、やってきますけどね。そこがやっぱり難しいところ。そこを担当のスタッフがよくがんばってくれています。ありがたいですよ。(Part4へ続く)

◆次回予告
須貝尚介調教師インタビューの最終回。2012年上半期は絶好調だった須貝厩舎、この勢いは秋も続くのか。「史上最速100勝達成」の記録がかかる今秋への意気込みをお届けします。公開は8/27(月)12時、ご期待ください!

◆須貝尚介
1966年6月3日、滋賀県出身。父は元JRA調教師の須貝彦三。競馬学校第1期生として85年に騎手デビュー。90年ハクタイセイできさらぎ賞を制し、重賞初勝利。08年、調教師免許取得、騎手を引退。通算成績は4163戦302勝、うち重賞4勝。09年栗東で開業。12年、ゴールドシップで共同通信杯を制し、調教師として重賞初勝利を挙げる。同年、同馬で皐月賞も制し、開業4年目でクラシック制覇を果たした。通算成績は908戦94勝、うち重賞4勝(8月20日現在)。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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