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炭鉱王ネイサン・ティンクラー氏が所有馬を大量放出

  • 2012年08月22日(水) 12時00分
 オーストラリアの大馬主で、日本のセレクトセールでも購買実績のあるネイサン・ティンクラー氏が、所有馬の大量放出を行うことが明らかになった。

 炭鉱業で巨額の財をなしたネイサン・ティンクラー氏が、パティナック・ファームという組織名の下で競馬の世界への参画をはじめたのは、2007年のことだった。2008年のマジックミリオン・イヤリングセールで1900万ドルを投じて59頭ものまとめ買いを行ったのをはじめ、オーストラリア国内だけでなく、北半球を含めた世界の主要馬産国で大規模な購買を続け、競馬産業界の風雲児と呼ばれるようになった。

 北海道・苫小牧市で開催される日本競走馬協会主催のセレクトセールにも、2008年に参戦。父アグネスタキオン・母シルクプリマドンナの牝馬を1歳セッションでは2番目の高値となる6400万円で購買したのを筆頭に、1歳・当歳合わせて6頭を、総額1億6250万を投じて購買。セレクトセール創設当初、シェイク・モハメドが代理人のジョン・ファーガソン氏を通じて大きな投資をして以来となる外資の本格参入に、社会的にも大きな話題を呼んだことをご記憶の読者も多いと思う。

 ティンクラー氏の投資は徐々に実を結びつつあり、この7月をもって終了した2011/12シーズンにおける、フレッシュマンサイヤー・ランキング1位のカジノプリンスと2位のフッソンは、いずれもパティナック・ファーム繋養種牡馬であった。

 そのティンクラー氏が、10月30日から4日間にわたってクイーンズランドのゴールドコーストで行われる「マジックミリオンズ・ナショナル・ホーシーズ・イン・トレーニングセール」に、350頭もの所有馬を上場させることが決まったのだ。

 内訳は、繁殖牝馬が200頭前後、3歳馬が50頭前後、2歳馬が56頭、現役馬が40頭前後になる予定だ。

 ティンクラー氏の所有馬は現在、現役・繁殖を含めて1000頭余りと言われているから、所有馬の1/3を一気に整理することになったものだ。

 実はこのところ、競馬業界の一部で囁かれていたのが、「ネイサン・ティンクラー氏が馬をやめるかもしれない」という噂だった。

 理由の1つは、採算性の悪さだ。再び、この7月をもって終了した2011/12シーズンを例にとるなら、ティンクラー氏が所有する現役馬が獲得した賞金の合計は550万ドルだった。一方、ティンクラー氏の競馬組織に必要なランニングコストは週あたり50万ドルと言われており、これを年額に直すと2600万ドル以上になる。年間で2000万ドル以上の赤字を出し続けては、さすがの炭鉱王も組織の見直しを迫られる状況を迎えたのである。

 なおかつティンクラー氏は、資産を競馬だけに投じているだけでなく、ナショナル・ラグビー・リーグのナイツや、Aリーグ(サッカー)のジェッツのオーナーでもある。最近は、競馬よりもラグビーやサッカーに肩入れする場面が多く見られていたこと。

 そんな背景があって、「ティンクラー氏が馬をやめる」という噂が飛び交うことになったのだ。

 マジックミリオン・セールへの上場が確定する以前、業界を駆け巡っていたのが、カタールの王族で、昨年のメルボルンCをデュナデンで制したシェイク・ファハド・アルターニが、ティンクラー氏の組織・馬・施設を一切合財まとめて購買するのではないか、との噂だった。購買金額は2億ドルという、具体的な金額まで表に出ていたのだが、どうやらこの話がご破算になり、せり市場を通じた売却が決まったようだ。

 パティナック・ファームやマジックミリオンの関係者によると、上場馬は全て「ノーリザーヴ(最低希望販売価格なし)」で出て来る予定だ。

 放出する350頭が、いくらで誰の手に渡るのか。残った競馬組織を今後、ティンクラー氏がどのように運営していくのか。あるいは、残りの所有馬も順次売却していくのか。その行方がおおいに注目されている。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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