スマートフォン版へ

池江泰寿調教師が語る『ディープインパクトとオルフェーヴル』

  • 2012年09月25日(火) 18時00分
 ウオー! 行けー!

 っと、TVの前で釘付けになり大声で声援を!(いつもはグーグーいびき中の愛犬がびっくりし飛び回っていました)

 ヤアーヤアーやってくれましたね。(パチパチ)

フォワ賞を快勝(撮影:沢田康文)

フォワ賞を快勝(撮影:沢田康文)

 9月16日、オルフェーヴルが前哨戦のフォワ賞で、世界デビューを勝利で飾ってくれました。フランスのロンシャン競馬場、芝2400mは本番と同じコース、そこでの勝利は大きかったと思います。嬉しいです。

 みなさん見られましたか?

 前半少し折り合いをつけるのに苦労したみたいですが、スミヨン騎手を背に最後方から内をついて抜け出し堂々と1着。10月7日 世界制覇が楽しみです。

 フランスへオルフェーヴルと共に凱旋門賞へ挑む前に池江泰寿先生に直撃し、意気込みをたっぷりお聞きしています。9月は9日間しか日本にいないと言う貴重な一日でした。(感謝)

池江泰寿調教師と

池江泰寿調教師と

常石 :凱旋門賞とは先生にとってどんなレースですか?

池江 :凱旋門賞へのチャレンジは、オリンピックのようなものですね。その権利を取るのも大変でしたからね。やっと挑戦することができました。

 いろいろあったからね。宝塚記念では能力の違いをきっちりだし、いい結果が出たので、迷いはなく世界最高峰への挑戦できます。

 やっぱりこの仕事に携わった者なら、一度は挑み、叶うものなら世界一の馬を作りたいですね。日本代表として恥ずかしくないレースをしたいと思っています。

 2006年に父の(池江泰郎)厩舎で調教助手をしていた時に、ディープインパクトと共に凱旋門賞に挑戦しましたが、3着に破れその後まさかの失格。

常石 :ディープの強さは証明されましたよね。

池江 :そうですが、とっても残念でしたね。初めてのことだったので現地の様子やコミュニケーションが上手く取れなかったんですね。どんな経緯でああなったか未だに分からないが、余計にディープとの経験は大きいし貴重ですね。あの時の経験を十分に活かしたいと思っています。

 お世話になる厩舎も日本人として初のフランスの調教師となって開業している小林智厩舎に入厩させてもらいます。昨年は、ヒルノダムール・ヴィクトワールピサもお世話になり今回で3頭目だから日本の馬のこともよくわかってくれているのでうちにとっては大きな戦力です。

 小林調教師は「馬房をお貸しするだけで何もできません」と控えめに話されるのですが「日本馬の活躍はやっぱり嬉しいですよ!日本馬にとって一番難しいと思うのはレースの展開が違うところかな?フランス競馬特有の緩やかなペースの流れに乗ることができ普段どうりの力を発揮できたら勝負ありだと思います」とアドバイスも頂いています。

 追いきりをする調教場の手配やスミヨン騎手との通訳もしてくれ長期滞在するものにとっては最高の手助けになってくれています。

 馬だけではなく同行する人もまずは安心して健康で過ごせるように現地を歩きアパートを見つけてきました。人も馬も居場所がないと落ち着かないから大事なことだと思います

凱旋門賞用に作ったゼッケン

凱旋門賞用に作ったゼッケン

常石 :いろんな面で気配りされ先生は大忙しですね。向こうの馬場はどんな感じですか?

池江 :現地ロンシャンの馬場を歩いてきましたが芝が密集して太くて長いので力が要る馬場です。ぼこぼことへこんで脚をとられたりするのでいきなり走ると脚に負担がかかったり怪我をしたり戸惑ってしまうので現地の馬場になれることが一番でしょう。

 日本の芝はかなり整備されていて良すぎるんでしょうね。あまりソフトに芝を作りすぎると、開催期間中もたないんでしょうね。気候の風土の違いもあると思う。ロンシャンは自然の中で競馬をしているような感じですよ。いきなり行って走ると戸惑ってしまうので、環境にも慣れるように今回はたっぷり日にちをとって出かけます。

常石 :ヨーロッパの馬はどんな感じですか。

池江 :走るフォームとか力の付き方が違いますね。現地に3週間滞在し調教すれば、体が変わってきます。日本馬にない筋肉が付いてくる。後ろ脚のトモに筋肉がつく感じですね。馬体全体が柔らかいのかな? 実際に跨ってないので見た感じだけですが。

 まずは、9月16日に本番と同じ条件のフォワ賞に出走し、10月7日に行われる凱旋門に行きます(フォワ賞前の取材)。ノーザンファームしがらきでリフレッシュし、8月18日にトレセンの出国検疫厩舎に入厩。

 しがらきはでは良いリフレッシュができましたね。近いので毎日様子を見に行っていました。連携をとるのが大事なので、サッカーみたいなチームプレイですね。

 ポジションを上手く守ってつなぎ 追い切りはゴール前のストライカー。最後にシュートするのは騎手。どれぐらい仕上げたらいいのか1頭1頭把握している素晴らしいスタッフが揃っていて、こういった牧場の力は大きいです。

 随分助けてもらっています。スッタフも環境も日本一じゃないですか。立場は違ってもみんながゴールを目指しているんですよね。一緒に行く帯同馬アヴェンティーノも一緒に調教しています。

常石 :仲間が居るのはオルフェーヴルにとって心強いでしょうね。ちょっと淋しがり屋っぽいオルフェーヴルの新馬の印象はどんな感じでしたか?

池江 :新潟の新馬戦で仕掛けた時のラスト1ハロンの蹴り脚の動きが違いましたね。ドリームジャーニー以上の動きを見ました。「この馬を負かせる馬はいないだろうな」と思ったくらいの気迫を感じた。

 優等生の賢い馬なんですが、競馬になるとテンションが上がり気合が入りすぎるんですが、レースが終わってから向正面まで走っていくんですよ。そんな馬はいないでしょう。流す馬はいるが、全力で走っていくんだから「すごいな」と感じましたね。

 さすが血統だな。父がステイゴールド、母はオリエンタルアートだが、この母がメジロマックイーンの仔なんですよ。ディープ産駒とステイゴールド産駒は池江厩舎(父)ゆかりの血統ですね。

常石 :それじゃあ、育て方のノウハウはバッチリですね。

池江 :うちの勝ち鞍のほとんどが、この2頭の産駒の馬なんです。大きな財産ですね。育て方も知っていますからね。父は今でもアドバイザーとして助けてくれています。馬は生きている躍動感を感じるそうですよ。他に里見オーナーの相談役をしています。

 面白いのは浅見国先生の厩舎で修行した父なんですが、相羽厩舎で育った兄弟弟子だったんです。だから馬を育てる貴重なレシピをもらっているんだけど いやいやそれがまったく上手く行かないんですよ。

 言葉では言えないですが、肌で感じた感覚や身に付いたものがあるので自然と活かされてると思います。今は師弟関係が少なくなり個人主義になって淋しいなと感じる時代になりましたね。

 だから今一番大事にしているのは、馬を大事にするのは勿論ですが、良い馬を育てるには関わるスタッフも育てなければいけない。力のあるスタッフだからチームワークも良いので、厩舎スタッフが勝つ喜びや感動を味わって、家族にも伝えて味わってもらいたいと思う。僕は大きな家族を抱えている責任もありますからね。

常石 :先生ってスタッフみんなのお父さん的存在ですね。

池江 :そうそうだから頑張らないとね。

常石 :最後にオルフェーヴルの強さを教えてください。

池江 :元々気のもろさを持っている馬でしたが、だましだまし競馬をしながらいろんなことを教えていった。オルフェーヴルが走りやすいレースをしてきていたら、ロンシャンで暴走したかも知れませんね。

 何処で判断するのかは難しいですからね。いろいろな批判や意見があるというのは、注目されているということだと思う。良い思いもいっぱいしているので元気をもらえる。話題にも上がらなくなった方が恐いですね。

 強さは瞬発力ですね。筋肉が柔らかいので、フワッと出る力がすごいですね。最も重要なのは脚の回転なんですよ。1完歩も大きいがピッチも早い。

 ディープもオルフェーヴルも筋肉があまりついてないんですよ。というより余分な筋肉がない。必要な筋肉だけあればいいんです。筋肉が多すぎると関節の稼働率が低い。筋肉もとっても柔らかい。心肺機能も強い。

 追いきり後心拍数が100を切るのにどれくらい時間がかかるかを測定するのですが、3分くらいで戻ります。GI級の馬は大体これくらいですね。息の入れが良いというのはこんな馬なんですよ。オルフェーヴルは200あるんですが、戻るのに3分かからないですね。過酷な状況でも動じなく動ける馬が残っていくので、精神力が大人になるというのは大きなことです。

 あと、外国で勝つために、フランスの馬場を良く知りレース経験の豊かなスミヨン騎手に手綱を任せることになりました。調教にも何回か跨ってもらう予定です。

 池添騎手がいろいろ教えてくれたことも無駄にならないように頑張ってきます。ファンの方からも応援の手紙など沢山頂いています。オルフェーヴルがこれからも話題になり、競馬が盛り上がってくれるように力を出してきます。応援してください。

ダービー優勝のパネル

ダービー優勝のパネル

常石 :ありがとうございました。楽しみですね。ここの部屋にはオルフェーヴルグッズがいっぱいですね。

池江 :そうだね。(パネルを見ながら)これはダービーで…。

常石 :キャップに☆がいっぱい付いていますね。

池江 :そこに金星つけたいですね。つねちゃんもキャップかぶってよ。ファンの方にもっと非日常的な空間を知ってもらい、沢山来てもらえるとうれしいですね。こんな空間はなかなか体験できないですからね。

オルフェキャップをプレゼント

オルフェキャップをプレゼント

常石 :うわぁー、嬉しいです(作戦成功)ありがとうございます。(というわけで、お土産に頂いてきましたので、今回のみオルフェーヴルのキャップ限定1個プレゼントします。詳しくはページ下で!)

池江 :競馬ファンや競馬に携わるのみなさんためにも、世界に挑む意味があるんです。

 オルフェーヴルの誕生には深いつながりがあることを知りました。奥が深いですね。馬の血統も調教師の血統も感じました。馬は1日にしてならず…か?

 10月7日午後10時から放送されます世紀のレースを見逃さないでくださいね。気持ちだけフランスロンシャン競馬場でーす。ボンジュール。常石勝義ことつねかつでした。[取材:常石勝義/栗東]

◆次回予告
「競馬の職人」凱旋門賞特集のフィナーレを飾るゲストは、名手・武豊騎手。ディープインパクト共に挑んだ凱旋門賞について、常石勝義さんが直撃します。公開は凱旋門賞週の10/2(火)18時。ご期待ください。
【お知らせ】
池江泰寿調教師ご提供のオルフェーヴルキャップを、抽選で1名様にプレゼントいたします。ご応募は>>こちら<<から。マイラー。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング