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『人が育つと馬も育つのです』ダービー2勝トレーナー松田国英調教師の信念

  • 2012年12月25日(火) 18時00分
 有馬記念、今年最後の締めくくりにふさわしい、盛り上がったレースになりましたね。皆さんは、ゴールドシップのサンタさんにプレゼントをいただきましたか?(赤白の勝負服) 最後方からグイグイと上がってくる走りっぷりは、まさに芦毛の怪物! 力強くゴール版に飛び込んでいきました。強かったですね。来年の活躍が楽しみです。

 年末には、もうひとつびっくりするニュースが飛び込んできました。関西の騎手5人関東の騎手1人が引退され、それぞれ新しい道へすすんでいくそうです。去る人あれば来る人ありで新調教師に石橋(守)・飯田騎手が合格。おめでとうございます。

松田国英調教師

松田国英調教師

 今週は「馬作りは人作りから」と話す松田国英調教師に、名馬と人作りの話をお聞きしてきました。

常石 :沢山の活躍馬を育ててきていますが、こだわりはどんなところでしょうか?

松田 :クロフネやフサイチリシャール、タニノギムレット、キングカメハメハなどダービーも2勝しているけど、まだ日本の競馬は世界に比べると蚊帳の中だと思う。世界でも通用する仕事のシステムにしなければいけないと思う。

 そのためにも イノベーションを作るためにもどうするかというと、自分は今62歳になるんですが、これまで馬の仕事しかしていないが、馬の世界でやってもらって嬉しいことを何倍にも大きくして人にやってあげる。自分の弟子たちには「あーだこーだ」と注文はつけないが、やってもらって嬉しかったことは、何倍もにして伝えたり、またやってあげなさい。

 それは、力でするのか周りの雰囲気でするのか区切りはないが、自分のところから巣立った人間が調教師だけではなく、沢山の人が自分を介して大人になってくれているので嬉しい。

 弟子の角居・友道・高野・村山調教師は時間を共にして、いろんなことを経験しながら自分から巣立っていったが、調教師だけではなく、厩務員や助手たちもレベルアップをしています。うちの厩舎でGIを勝ってる厩務員は6人います。

02年ダービー優勝タニノギムレット

02年ダービー優勝タニノギムレット

 馬も、キングカメハメハやクロフネ、タニノギムレットなどGIなどで勝つことも勿論ですが、種馬になっていい仔を沢山産出することも大事なことでしょう。牡馬だけではなく、牝馬ダイワスカーレット、ダイワエルシエーロなども無事に牧場に帰せるように余裕残しの調教に徹しています。繁殖という第二の馬の余生も強く意識して育てています。

常石 :クロフネの仔どもたちはよく走っていますね。カレンチャン、ホエールキャプチャなどもGI馬ですよね。芦毛の馬が多いですね。それから真っ白なユキチャンもいました。ダイワスカーレットとウオッカ対決の秋の天皇賞がすごい話題になりましたね。

松田 :レコード決着の写真判定に13分もかかりました。負けましたが牝馬最強と呼ばれました。年末の有馬記念を制覇できたのは、あの負けがあったからかもしれません。

常石 :ウオッカは角居厩舎ですよね。師弟対決と言われていたように思いますが?

松田 :愛弟子が成長してくれたということでしょう。いやいや、馬同士の対決です。

 角居は、いつもチャレンジというか挑戦を恐れない調教師になってくれています。今角居に話を聞いていても、若くして調教師になり、海外への挑戦を積極的にやっている。オーストラリアのメルボルンカップで1、2着のきわどい競馬をさせたり、ドバイまでもって行き、優勝に導いて日本を代表する馬を作っている。そんな風に、ある程度めどをつけたら外国へ向けてチャレンジしていく姿勢が嬉しい。基本は日本の貿易国としてのステータスだと思う。日本人として挑戦する角居は誇りに思う。若く可能性は大きいので、まだまだ期待したい。いい風が吹いているんじゃないかなと思う。

 手前どものうまもGIを勝つとか、中央の重賞だけで51勝あるが、いろんな人たちが自分の周りにいて感謝しつつだが、人のレベルアップにつなげています。

名牝ダイワスカーレットの初仔

名牝ダイワスカーレットの初仔

 ダービーにこだわった馬作りをめどに、牧場から生まれた馬を丁寧に、ベテランを若い厩務員が作業を見習っている。基本に忠実にし、ダイワスカーレットとダイワエルシエーロの2頭を扱っていた厩務員が、馬に乗れないからできないではなく、馬の手入れはとても丁寧で、それぞれのできることを仕事を分割して共同作業に徹底している。1、2人だけが重賞を勝つのではなく、みんなにチャンスがある。人を育てるから馬も育つ。

 11月21日に開業して16年になりましたが、4年間で100勝。手前どもの一年は、ダービーに始まりダービーで終わる目標を立てています。

 運動して厩舎に入るときは、左回りで入ってくると跳び込む習性があるので、真っ直ぐ入れるのではなく半巻き右に大きく回まわって脚元に故障がないかなどをチェックする。まずは馬房の中で牧草を食べたり水を飲んだりおしっこをしたりし、毛穴が開いているので閉じるまで待ち、馬房のなかで馬自身がクールダウンするのを待つ。毛穴が開いているので雑菌が入ったり菌が繁殖しやすくなるのを防ぐ。

 人も馬に乗ってる時は、怪我の無いように緊張し疲れているので、人もクールダウンを待つ。リラックスするために軽くパンやコーヒーなどを飲む時間を作り、休憩を取るようにしてもらっています。その後で作業に入るので、馬も人もリラックスしているので、手入れの作業が愛情をもってスムーズにでき、怒ったりすることもなくスムーズにできる。

常石 :今乗馬をやっているのですが、なかなかスムーズに動いてくれないので困っています。愛情を持って接することを忘れていますね。

松田 :今置かれている状況を素直に受け入れなければならない。ゆっくりなのかスピードがあるのかは分からないが、あきらめることなく生きることが素晴らしいと思う。素直に受け入れ、コツコツぶつかっていこう。我々もスピードを上げる仕事なんですが、ただスピードを上げるのではなく、ゆっくりいくのかどうするのか考えていかなければならないと思う。日本人は優秀だから、期待し安心して見ていられます。人が育つと馬も育つのです。

 松田国英先生、ありがとうございました。一年の締めくくりにふさわしいお話が聞け、心が豊かになりました。皆さんはいかがでしたか? よいお年をお迎えください。2013年の競馬は、1月5日金杯から始まります。常石勝義ことつねかつでした。[取材:常石勝義/栗東]

◆次回予告
当コラムの2012年度の更新は、今回で終了となります。2013年度は1月8日から更新いたします。次回はの担当は赤見千尋さん。美浦から旬な情報をお届けします。お見逃しなく!

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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