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有馬記念

  • 2012年12月25日(火) 18時00分
 オルフェーヴル、ジェンティルドンナなど体調整わず、また激戦の連続したあととあって回避したため、当日は断然の1番人気になった3歳ゴールドシップ(父ステイゴールド)だが、同馬のファン投票最終順位は、第6位だった。

 だれもが大外をぶん回る破天荒なレース運びで菊花賞を3分02秒9(レコードと0秒2差)で圧勝した能力は認めている。でも、チャンピオンとしてはあまりに未完成であり、レース運びも荒削りすぎると感じていた。だから、ファン投票は6位にとどまったのである。

 しかし、ゴールドシップはすべての人びとに、本当は「こんなに強かったのか」と、改めて感嘆させるレースを展開したから素晴らしい。立ち姿を写真にすると、まるで完成期に達した5〜6歳のメジロマックイーン(その父メジロティターン)の落ち着きを連想させたりするが、パドックや追い運動のゴールドシップは、まるでぬいぐるみのようにぼってり見せたかと思えば、突然、立ち上がりたくなる衝動を隠せなくなるなど、ステイゴールの産駒(ドリームジャーニー、オルフェーヴル兄弟など)に珍しくない怪しい一面も思わせる。

 まだ、3歳馬。きっと本当に強くなるのはこれからなのだろう。メジロマックイーン(春の天皇賞には4歳時から3年連続出走して、(1、1、2着)の牝馬に、春秋の天皇賞に7歳時までに7回も出走したステイゴールドの組み合わせは、同じ配合パターンのオルフェーヴル兄弟より、おそらくゴールドシップのほうがもっとたくましく、タフに成長し、長く活躍してくれそうな安心を伴うかもしれない。

 中山の2500mで、みんなの目線が大きく立ち上がって出負けしたルーラーシップに集まったとき、ゴールドシップもダッシュつかず、内田博幸騎手が激しく気合を入れたがついていけない。仕方なく後方追走になった。アーネトリー(福永祐一騎手)が作り出したペースは「前半1分13秒1−(6秒3)−後半1分12秒5」。もっとス緩急のある難しい流れも予想されたが、きわめて落ち着いた平均ペースそのものである。ふつうは流れに乗れないと苦しい。

 大きな動きもなく向こう正面に入ると、ゴールドシップは最後方追走になっていた。残り800mのハロン標識に差しかかったあたりから、やおら馬群の一番外に回ったゴールドシップは、外々を回ってグングン進出。そのまま大外を回って力ずくでねじ伏せてしまったからすごい。

未勝利戦や500万条件ではない。チャンピオン級の揃った有馬記念である。中山の内回りで3コーナー手前から大外をぶん回って進出し、それで勝つなど、ゴールドシップが圧勝したからいえることで、また、天下の内田博幸騎手だからいっても差し支えないが、だいたいは下手な騎手の、拙騎乗の見本のようなレース運びである。

確かに、ひとたび加速がついたら、スパイラルコースに近い中山では変にブレーキを踏むことなくそのまま外を回った方がいい場合もある。でも、それは明らかに相手の力量が下のケースであり、多くの場合はコースロスにつながる。今回は、有馬記念史上でも、豪快という点ではまれな勝ち方だった。ゴールドシップは間違いなく、まだこれから完成期の強さを発揮するだろう。同じステイゴールド産駒のチャンピオン=オルフェーヴルとの対決が楽しみである。

 ルメール騎手のオーシャンブルー(父ステイゴールド)は、鮮やかなレース内容だった。少し全体に時計がかかる最終週の芝で、タフで、したたかな底力を求められたら、種牡馬ステイゴールドの産駒が台頭する。ちょっと前にはローカル競馬の馬券の金言だったが、有馬記念で1、2着独占だから素晴らしい。巧みに折り合って馬群の中で我慢。破天荒なゴールドシップを別にすれば、勝ったにも等しい内容だろう。3頭の出走で、もう1頭のナカヤマナイトも7着の善戦健闘だった。

 ルーラーシップ(父キングカメハメハ)は、一度立ち上がりかけたあと、うまくスターターが合わせてくれたように見えたが、ゲートの開く瞬間、同時に立ちあがり、ジャンプしてスタート。あのロスがあって、天皇賞・秋と同じように少差の3着。ジャパンCとも同じように3着。もう簡単には直らないだろう。ゲートボーイのいる国で出走したい。

 エイシンフラッシュ(父キングズベスト)の乗り替わりが伝えられると、あちこちで悲鳴が上がった。仕掛けのタイミング、スタミナの温存など一番難しいのがこの馬であり、デムーロ騎手や、ルメール騎手が乗っても簡単には全能力発揮とはいかない馬である。それを考えると、突然の乗り替わりは非常に厳しいと思えたが、馬群のインで巧みに折り合い、直線に向くといったんは勝ったのではないかと思わせるシーンまであったから、三浦皇成騎手、負けはしたが会心の好騎乗である。

 ダークシャドウ(父ダンスインザダーク)は逆に、ムーア騎手にチェンジしたため、あまりに正攻法の優等生のレース運びになってしまった。難しいものである。クセや特徴は伝えることができても、はまったときにのみ一発逆転のタイプであることは伝わらなかったのだろう。

 ルルーシュ(父ゼンノロブロイ)は、平均ペースのスキのない流れに持ち込まれてしまったから、策を用いることもできずに完全に力負け。これを糧にパワーアップしたいこれからの馬である。

 自分でペースを作る手に出るかとも思えたビートブラック(父ミスキャスト)は、肝心の大一番で、お利口さんのよそ行きの競馬をしてしまった。これだと着は拾えるが、フルにスタミナを生かす形には持ちこめないので、控えた時点で勝機は遠のいてしまっていただろう。

【お知らせ】
2012年度の更新は今回で終了となります。2013年度は1月7日から更新いたします。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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