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日本ダービーが終って

  • 2003年06月02日(月) 19時37分
 第70回日本ダービーは、ミルコ・デムーロ騎乗のネオユニヴァースが見事に優勝、皐月賞に続き二冠馬となった。終ってみれば、社台グループの“社内運動会”のような結果となり、改めてサンデーサイレンスの偉大さと、圧倒的な「社台ブランド」の底力を見せ付けられた思いである。

 今回、馬産地の老舗、日高の牧場で生産された出走馬は18頭中9頭。ちょうど半数にとどまった。そして結果は周知の通り。否が応でも、日高の“地盤沈下”を追認せざるを得ない。その日高の生産馬とて、筆頭格ともいうべきサクラプレジデントもまた、サンデーサイレンス産駒だったことを考えると、何とも複雑な心境だ。

 今更とは思うが、日高の生産馬をここでもう一度列挙してみよう。サクラプレジデント(谷岡牧場)の他、スズカドリーム(稲原牧場)、チャクラ(天羽牧場)、エースインザレース(千葉飯田牧場)、ラントゥザフリーズ(豊郷牧場)、タカラシャーディー(酒井孝一牧場)、マーブルチーフ(設楽牧場)、コスモインペリアル(富田恭司牧場)、マイネルソロモン(中本牧場)。結果はというと、サクラプレジデントが7着、スズカドリーム15着、チャクラ6着、エースインザレース13着、ラントゥザフリーズ16着、タカラシャーディー11着、マーブルチーフ12着、コスモインペリアル14着、マイネルソロモン18着。まさしく完敗としか言いようがない。

 ところで、私が個人的に注目していたのは、タカラシャーディーである。ホッカイドウ競馬出身で、地方在籍時は6戦1勝の成績しか残せなかったが、中央移籍後は4戦2勝、2着2回とパーフェクトの連対で、これならばダービーでもかなり期待できるのではないか、と思っていた。父シャーディー、母オオクラダンサー(その父ナイスダンサー)という血統も、いかにも日高にはざらにいそうな地味なもの。生産は静内の酒井孝一さんという小規模牧場。この年、酒井さんの牧場で生まれた唯一のサラブレッド(他にアラブが4頭生産されている)というのも、サクセスストーリーを感じさせる要素に思えた。

 酒井さんの牧場は、孝一さんご夫妻だけで営まれている日高の典型的な家族経営である。私が個人的に肩入れしたくなるのも、小規模生産者同士の、いわば「仲間意識」のような感情が働くからである。

 だが、どうにも、最近は牧場の規模や血統など、徐々に日高の個人牧場はダービーで良績を残せなくなってきている。平成9年のサニーブライアン(浦河、村下ファーム)あたりを最後に、それ以降は苦戦の連続だ。

 所詮は「浪花節」の世界かも知れないとは思うが、しかし、競馬の持つ意外性のような要素がなければ、人気を盛り返すのが難しいのではないか。負け惜しみにしかならないのを承知で書くが、またしても、社台グループのサンデーサイレンス産駒が頂点に立ったのは、確かに偉業ではあるものの、「名門牧場で生まれたエリート」でなければ大物に育たないという図式は、競馬全体の人気からすると決してプラスにはなるまい。

 雑草、草魂、野武士、などなど、いわゆる地方出身馬を形容する言葉がこれまでいろいろに使われてきたが、何人もの人が指摘している通り、ハイセイコーとオグリキャップの存在の大きさに改めて思い至る。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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