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一番牧草収穫開始

  • 2003年06月23日(月) 19時17分
 いよいよ今年も牧草の収穫がスタートした。参考までに昨年のこのコラムを読み返してみたのだが、同じようなことを書いていて、つくづく私たちの仕事は「年中行事」のように毎年同じことの繰り返しなのだなぁと、ふと思ってしまう。

 家族経営の小規模牧場にとって、この時期の牧草収穫作業は、かなりの負担になる。通常の作業(給餌、手入れ、放牧、馬房の掃除、敷き藁の天日乾燥等)を普通にこなしながら、それと平行して行わなければならないからだ。

 しかも、天候に合わせての刈り取り作業である。日中の大半をトラクターの上で過ごすことだって珍しくはない。折しも、季節は夏至。太陽光線に合わせて作業を進めていると、労働時間もまた、かなり過重となってくる。

 今は牧草もすべてロールで仕上げるのが標準になったが、その昔はコンパクトベーラーという機械で梱包していた時代が長かった。たぶんどこかでご覧になったことがあるのではないかと思うが、要するに、乾草を蜜柑箱二つ分程度の大きさに圧縮して紐で縛った状態にして収穫するのである。

 私の牧場でも、昭和の時代にはこの方法で作業をしていたものだ。一個あたりの重量はだいたい12〜14キログラム。それを200個ほどトラックに積み込むのだ。トラックの上では、その頃若かった母親が一つずつきちんと並べて行く。そして限度ギリギリまで積み込んで、採草地から厩舎まで運んでくる。今度はトラックから厩舎の二階にベルトコンベアで搬入し、端の方から順番にまた積み上げて行く。それを多い時には一日で600個から700個ほども収穫した。もちろん、手作業である。

 今思い返してみると、よくあんなことができたものだとゾッとする。夜は文字通り綿のように疲れきって泥のように眠った。「早く牧草が終らないものかな」といつも考えていたことを思い出す。辛い季節だったのだ。

 当時から比べると今は、ロールでの収穫になったお陰で、確かに体は楽になった。せいぜい厩舎の二階でロールを転がして収納する時にうっすらと汗をかく程度である。コンパクトベーラーの梱包20個分がロール一個に相当するくらいなので、扱う数も大幅に減った。だいいち、ロールは1個200から250キログラムにもなるので、人間の手で持ち上げられるような代物ではない。せいぜいが平らな場所を転がすくらいが関の山なのだ。

 直径130〜140センチ。高さ120センチの円柱形がロールの大きさだから、例えば斜面になっている採草地などでひとたびこの塊が転がり出すと、人間の手で止められるものではない。近所の牧場でも、このロールが転がり落ちて、牧柵を壊してしまったり、絶対に拾いに行けないような谷底に落してしまったというような話を時々耳にする。

 さて、刈り取りから収穫までだいたい晴天で4日かかるのは今も昔も同じこと。これからせめて今月末までは何とか晴れる日が続くことを祈りたいところだ。

 あとはトラクターを始め、付随する各種の作業機をなるべく故障させないように気をつけること。10年前には、私も乗っていたトラクターを一台、廃車にしてしまったことがある。配線がショートして発火し、見る見る間に燃え広がってついに全焼してしまったのだ。消火作業が終った時にはただの鉄屑に化けていたのを見て、泣きそうになったのを思い出す。こんなこともごく稀に起こるのだ。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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