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『ゴールドシップの負ける姿は見せたくない』担当今浪厩務員の仕事に迫る

  • 2013年04月23日(火) 18時00分
 春のGI競走も中盤になり、盛り上がってきましたね。桜花賞も皐月賞も関東馬に乾杯!

 しかし、完敗ムードの関西馬の逆襲です。天皇賞・春はこの馬しかいないでしょう! と確信を持って取材。須貝厩舎のゴールドシップです。須貝先生も「文句なし」と。その根拠を探りに、担当の今波厩務員に迫ってきました。

常石:天皇賞・春に向けていよいよ動き出しましたね。今日(4月17日)の動きは?

今浪厩務員とゴールドシップ

今浪厩務員とゴールドシップ

今浪:坂路でクリーンエコロジー(古馬オープン)と併せ馬。1馬身後方から馬なりで追走し、残り2ハロンで馬体を併せ、ゴール前で2馬身半先着。時計は後で聞いたんだけど、4ハロン52.2〜12.5でした。良い走りをしていると思う。先生も「時計も動きも文句なし。やっぱり走るね」と言っていましたよ。

 最後にグイッと力が出て、前に出る走りはシップの持ち味なんですよ。そろそろスイッチが入ってきた感じですね。自分で体をしっかり作っていく馬なので分かってきているんだろうね。胸前の筋肉が古馬になってからくっきり浮いてきたし、今までにつけてきた筋肉が本物になってきましたね。シップは人に頼らないし、人が大嫌いなんです。すごい馬やろ(笑)。

 毎日見ている僕でも寄せ付けないんだよ。馬房に入ると奥の隅っこの方へ行き、いつもお尻を向けています。失礼なやつやろー(笑)。手入れの時も立ち上がってポーンとジャンプして蹴りに入って、僕がビューンと飛ばされるかと思う。暴れた時は大変です。じゃれていると言うか遊んでくれと言っているのか、ヤンチャぶりを出してる。この人はいけるか? って、試されてる感じがする。すごい賢いので、人をよく見ているよ。

 35年も馬をやってきたけど、共同通信杯を使う前に暴れた時は恐かったな。初めて馬を恐いと思った。オレみたいなちっちゃな体でよく抑えられたと思うわ。良かったです。口取り写真の時は馬が肩掛けにびっくりして、地下道で暴走寸前だった。上手に走ったからもうええやろって感じやったな。

 これもシップの持ち味なんですけどね。精神面は不安定やけど、豪快な走りを見せてくれる。シップと付き合えば付き合うほど面白いし、魅力ある馬やと思う。このレースの後から落ち着くようになってきたように思う。24日に最終追いきりだけど、、先生は、この日は前走同様の調整だけと思っていると思うよ。

常石:35年間も馬と付き合っているんですか? 中尾正先生(元調教師)がおしゃっていましたが、地方競馬のアンちゃんだったそうですね? 実は中尾先生に、今波さんの印象をお聞きしてきたんです。

今浪:えっー! どきどきですね。

【中尾元調教師のコメント】
今波はなかなか良い競馬をしてたで。馬当たりも優しいし、真面目で丁寧に馬の世話をするので馬も応えてくれるんだろうね。それに苦労してるからな。地方時代は1人で6頭くらい調教し厩の仕事も全部やってたからな。朝2時3時ごろから起きてたんと違うかな? 確か調教師と2人しかいないと言ってたな。

 ゴールドシップのような豪快な馬と出会えるのはそうそうないから、今までにやってきた経験を活かして、もっと成長させてあげて欲しい。まだまだ若いから今波自身も経験が豊かになったらええな。老後のために貯金もしとかなあかんでー。今がその時期やと思うよ。

今浪:恥ずかしいなー。若さは先生に負けるよな。元気な先生だから、オレも健康に気をつけたいと思います。競馬のことや馬のことをいっぱい教えてもらいました。一番嬉しいのは、今僕の馬を応援してくれていることです。感謝。

 名古屋競馬の騎手見習いをしていたんですが、当時は人手が足りなくて、調教師と俺と奥さんと3人しかいなくて、寝るのも食事もみんな一緒で家族ぐるみでやっていました。中央に入ってから内藤厩舎に6年、その後中尾正厩舎に入り、つねちゃんに出会ったんだよね。

常石:僕は、今波さんには会わせる顔がないんですよ。迷惑ばかりかけてしまいましたから。

今浪:だからってお尻向けて座らんでもいいやろ(爆笑)。

常石:ごめんなさい(ペコリ)。

今浪:中尾厩舎では、1986年シングルロマンでの京阪杯で、初めて重賞を勝ったのが一番印象に残っていますね。つねちゃんもビッグエンデバーで2勝してくれたな。

常石:僕が一番印象に残ってるのは、マサヒコクイーンです、確か俳優の津川雅彦氏の馬でしたね。沢山乗せていただいたのに2着がやっとで勝てなかった。ローカルでは面白い競馬をしてくれたんですがね。面目ないです…。

今浪:いやいや。それも競馬やな。勝った時は嬉しいけど、そんな馬を覚えてくれているのも嬉しいですよね。これだけ多くの競走馬がいる中で、勝ち上がっていくのはとっても難しいことやから。

常石:強い馬を作る秘訣はなんですか?

今浪厩務員の丁寧なケアの賜物

今浪厩務員の丁寧なケアの賜物

今浪:秘訣かー。何もないよ。ただ、毎日きれいにすると言うより、スキンシップを大事にしている。馬体や脚を丁寧になでると言うよりこすっていることで、マッサージ効果があると思う。その時にちょとした変化にも気が付くので、毎日一生懸命やっています。

 特に脚は命やから、股から爪までマッサージをしています。毛艶は一年中変わらないし、毛も伸びないね。真っ白でもなく調和のとれたきれいな芦毛の馬体は好きやな。一番難しいけど、健康で無事に競馬に送り出すことが僕の仕事だからね。その後に結果が付いてくると嬉しいね。

常石:レースの時、ゲートでゴールドシップのそばにいますよね。

今浪:ゲートで大きく立ち上がり遅れるときがあるので、落ち着いてスムーズにスタートを切れるようにギリギリまでシップに「チャンと出るんやで」と話し、可能な限りリラックスさせることに専念しています。

 レースから引き上げてくる時も、検量室前に並んだ報道陣をできるだけ避けていますね(取材の方、ごめんなさい)。先生が「恐がりな仔やから、ごめんね」とカバーしてくれるので助かります。暴れると皆さんに迷惑かけて大変やし、シップも怪我したらかわいそうやからね。だからできるだけの配慮をしています。

 乗り役の内田騎手もこの馬のすべてをよくつかんで、上手く乗ってくれますよね。感謝です。シップとよく会話をしています。「今日はゆっくりいこか」「まだやで。まだ行ったら早いで」とか、一瞬フワッとするようなときは内田騎手が「そんなことしたらダメやで」と話しかけ肩鞭を入れる。シップと一体になって乗ってくれています。

 シップも内田騎手に話しかけていますよ。「もう行ってもいいか?」と聞いてから、3コーナーから4コーナーを回る時に息を入れ、そこから伸びて得意のラストスパートをかけていくんですね。無事に走って勝った時も、ウイニングランをしようと思ったら「もういいやろ」って、ぴったり止まってしまった。内田騎手も無理に行かせようとしなかったのがすごいと思いましたね。

 枠も関係ないし、長く良い脚を使えるのでどんな競馬もできるし、坂でも平坦でも走り方が変わらないのがこの馬の強みなんですよね。根性も走りも、とにかくすごいわ。この馬の負ける姿は、想像できないというより見せたくないですね。もし負けることがあったら「何処が悪かったんだろう」と悩んで、寝込んでしまうかも分からないですね。

常石:いつからシップが走ると感じましたか?

前走の阪神大賞典は完勝

前走の阪神大賞典は完勝

今浪:ここに入ってきた時、爪の形がとってもきれいで4本揃っていました。今までに見たこともない爪やなと思ったんです。爪が良いと馬体のバランスが良く安定しているんですよね。脚元が悪いとなかなか良い走りでができない。500キロ以上あるんだけど、安定しているね。メンタル面が弱かったけど、古馬になって落ち着きを見せるようになってきたので、ゴールドシップの良い走りを見せられると思う。

常石:細かいところまでいろいろ見ているんですね。

今浪:この馬と出会えて、楽しみがどんどん大きくなっていきます。GIに出すだけでも大変なことなのに、GIを3つも勝ったんですよ。いろんな夢をかなえてくれています。須貝先生は、馬を見る目が違うんだよ。馬を使うローテーションもバッチリはまるのはすごいと思う。

常石:最後にファンへのメッセージをお願いします。

今浪:無事に出走させることが僕の仕事だから、そのために毎日シップをなでている。どれだけ大きくなってくれるか楽しみなんです。目標は日本のNO.1ホースになることです。大事にしていきます。皆さんも楽しみにしてくださいね。

常石:ありがとうございました。僕の知らないシップのこと、今波さんのことがいっぱい聞けて、ますます応援したくなりました。

 今、シップの妹のポイントキセキやベロム(仏語で男前)も手がけているそうで、この子達もなかなか良い競馬をし、活躍が楽しみだそうですよ。それでは、週末に京都競馬場のウイナーズサークルでお会いしましょう。つねかつこと常石勝義でした。[取材:常石勝義/栗東]

◆次回予告
古馬長距離GIの次週は、3歳のマイル王決定戦・NHKマイルCです。そこで次回の「競馬の職人」は、赤見千尋さんが美浦の有力馬陣営に直撃。耳より情報をお届けします。公開は4/30(火)18時、お楽しみに。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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