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「調教名人」高田潤騎手、師匠・松田博師から教わった“障害の極意”

  • 2013年07月16日(火) 18時00分
 夏競馬真っ盛りですが、みなさん楽しんでおられますか?

 今年も日本最大のセレクトセール2013が7月8、9日に北海道のノーザンホースパークで行われましたね。ディープインパクト産駒の人気は衰えませんね。池江泰郎元調教師がディープに一番よく似て特徴も出ている「アルペンサの牡馬」にオーナーと共に活躍を期待しているそうです。

 競走馬として日本の競馬史に名を残したヴィクトワールピサが種牡馬としても人気になっていましたね。早くも3年後のダービーが楽しみです。

 ヴィルシーナやマジンプロスパーのオーナーの佐々木主浩氏も参加されたが、一頭も落とせなくて今回は残念だったけど、「じっくりと隠れた良血馬を探したい。その馬をダービーへ」と言われていたのがとっても印象に残りました。どんな種牡馬を見つけてくれるのか楽しみですよね。

 さて今週のゲストは高田潤騎手です。デビュー2年目から障害レースに騎乗し障害レースが大好きな潤です。

障害レースを愛する高田潤騎手

障害レースを愛する高田潤騎手

常石:障害騎手にリレーでずっとお話をお聞きしているのでよろしくお願いします。

高田:つねさん、障害といえば僕でしょう…?(爆笑) おんなじ大阪出身やもんね。

常石:そうそう堺市だったな。大阪は馬と縁が薄いとこやけど、乗馬はやってましたか?

高田:競馬学校を受験しようと決めた年の半年間くらい行きました。乗り方よりも馬の扱いや手入れなどが役に立ちましたね。

常石:競馬学校の卒業記念冊子に「有馬記念と中山大障害を勝ちたい」と書いていたそうですね。

高田:そうそう。デビューの時から障害レースに乗りたかったんです。師匠の松田博資先生に言うと「障害をなめるな! 馬にまともに乗れないのに言うな」と叱られましたよ。松田先生は「障害の松田」と呼ばれ、障害レースが上手い先生だったんです。障害レースで150勝もしているんですよ。

デビューの時は松田厩舎所属だったから、障害レースに騎乗の時は「なんちゅう乗り方してるのや」と注意され、アドバイスをしてもらうことができてうれしかったです。障害レースに乗っていた調教師は少ないので、アドバイスが的確なんですね。僕は恵まれています。感覚や感触の違いを見つけるきっかけなど参考になります。乗ってる者にしか分からないですよね。

馬に聞いてみたいです。「何をしたいの?」「何を思ってるの?」、これは永遠のなぞですが、そこらへんを上手くコンタクトを取っていくのが僕らの仕事です。

2008年念願の中山大障害を勝利

2008年念願の中山大障害を勝利

常石:平地と障害レースの違いは?

高田:まずは、走るリズムが違う。走り方も違う。馬の持ってる特長をまず見つけてつかむ。息をいかに入れて走っているか(有酸素運動)。人間で言うと、100m競走とマラソンランナーとのペース配分や走り方のリズムが違うのと同じ。テンポ良く走りたい気持ちを大事にしながら走らせるのが、僕らの技なんですね。

平地レースで特に短距離のレースは、まずスタートから失敗が許されないでしょう。勿論失敗はダメだけど、障害レースは距離が長い・跳びが入る・コースに変化があるので、挽回できて建て直しができる。それだけに面白い。馬に助けられることが多いですよ。平地で活躍できなかった馬が障害レースで力を発揮するケースも多いですね。

短距離馬が障害で活躍すると言われることが多いけど、短距離の馬が障害レースの長丁場と飛越をしたことで目立つんですね。統計を取るとどちらとも言えないですね。先日、中京競馬場で2010年の菊花賞馬ビッグウィークが障害戦デビューし、初勝利をあげましたね。だから面白いんですよ。

常石:障害馬は障害騎手が作っていくでしょう。特にこだわっていることはありますか?

高田:それは、企業秘密で言えませんね(爆笑)。

常石:「調教名人」とかの「仕上げのプロ」と呼ばれている高田騎手、是非教えてほしいですね。

「調教名人」と言われる高田騎手

「調教名人」と言われる高田騎手

「美しく競技をする」がモットー

「美しく競技をする」がモットー

高田:つねさんがそれだけ言うなら! とにかく時間をかけてじっくり作っていく。これは松田先生に教わりました。「ちょっと不安は残るがこれくらいで…」って言うのは無いですね。不安があるまま次へ行くことは無い。何処なのか、何が悪いかきっちり見極め、治るまで調教をする。

気性が荒いと狭い馬場で落ち着かせる。恐がる仔は、広いところでのびのび走らせる。馬の力に合わせていろんな飛び方を教える。例えば 常歩のまま跳ばせる。キャンターから跳ぶ。人間で言うと走り幅跳びで助走しないで飛んだり助走の仕方を変えるのと同じなんですね。

いろんな飛び方ができるから、跳びに自信が持てるんだと思う。対応ができる。スタミナをつける。馬が持っている力や得意なことを見つける。素直でコントロールしやすい馬が良いけど、引っかかる馬でも強い馬もいる。競馬場によってコースや飛びの形が変わるので、いろんな形で跳べるのは大事なことですね。これ以上はいえませんね(笑)。

常石:2001年に小倉サマーJで障害重賞初勝利。2010年は新潟ジャンプSを勝って、6競馬場での障害重賞レース制覇という史上初の記録を出しているんですよね。その時に乗ったコウエイトライは障害重賞を8勝し、レコード記録も持っているでしょう。僕なんかGIの中山大障害を1つ勝っただけでも感慨無量だったのに、こんなに勝ってるって凄いですね。夢はありますか。

高田:未勝利戦でも重賞でも、みんな同じです。ひとつずつ勝つのが嬉しいです。馬券を買っていただいてるファンに少しでも還元したいです。僕たちは見て頂いている仕事だと思うので、少しでもきれいに美しく競技をし、その上で勝つのは嬉しいです。

今年は障害レースのリーディングを狙っています。同期の武英智騎手が引退したから、彼の分まで頑張りたいですね。まずは、彼の担当する馬で1勝したいです。騎手は辞めたけど、作る側に回ってくれたので、一緒に馬を作っていけるのが嬉しいです。

常石:児童福祉施設にも訪問しているんですね。

高田:子供たちが大好きなんです。若手と一緒に楽しんでやっています。いつも子供たちにエネルギーをもらっています。

常石:ありがとうございました。最後にファンの方へメッセージをお願いします。

高田:ジャンプレースを盛り上げる会などを作り、イベントなどもしています。ジャンプレースの面白さを皆さんに伝える手段を考えています。先日もフランスへ武者修行に行っている藤岡佑介騎手から、フランスの障害レースの馬場の写真が送られてきました。高低差が大きく、自然の林の中で行われ自然そのものって感じでした。是非そこで障害レースにチャレンジしたいと思っています。障害レースを応援してください。

 この取材の日は、雨でどろんこでした。ずっと丁寧に長靴(チョーカ)を磨き、道具を大切にする高田騎手です。服が大好きで、買ってきてももったいなくて着ないで大事にしているとか、こんなエピソードもあり、茶目っ気たっぷりの潤騎手です。常石勝義ことつねかつでした。[取材:常石勝義/栗東]

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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