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サマーセール開幕

  • 2003年07月28日(月) 22時00分
 馬産地日高にとって最大の市場は、毎年この時期に行われる8月市場だ。今年は「サマーセール」と名前を変え7月28日に始まった。これ以後29日、30日と続き、4日間の休日を挟んで来月4日から6日までの合計6日間開催である。

 その初日、牡121頭、牝66頭の計187頭が上場され、取引されたのは、牡22頭、牝11頭の計33頭にとどまった。売却率17.64%。売り上げ合計は1億9467万円(税込み)。

 「売れ行きは芳しくないだろう」と一様に生産者は予想していたものの、蓋を開けてみると、やはりかなり厳しい数字である。因みに昨年の数字はというと、全体で上場1078頭のうち、266頭が売却され、売り上げ合計は15億7685万円余、売却率で24.68%だった。

 昨年、この結果に愕然として先行きに大きな不安を感じた私たち生産者は、今年さらに落ち込むであろう市場の結果を、果してどんな覚悟で受け止めなければならないのだろうか。

 「こんな時代になってしまっては、もう普通の繁殖牝馬に普通の種牡馬を配合していても、まず売れないと思わなければならない」と友人の一人は表情を曇らせる。だが、多くの生産者にとって、牧場経営を支えてきたのは、こんな「普通の馬」である。急速に日高の生産馬のレベルが低下したのではなく、むしろ、原因は購買する側にある。とにかく、市場で1歳馬を求める人々が少な過ぎるのだ。

 なぜか。理由はただ一つ。市場で1歳馬を買い求めても、もはやメリットがなくなっているから。もっと言えば、馬を所有することそのものに、魅力がなくなってしまっているのだろう、という気がする。

 とりわけ、その傾向は、地方競馬に著しい。下がり続ける馬券売り上げにより、賞金や出走手当などが減額され、預託料を厩舎に支払うことすら難しい状態に陥っている馬主が多いのである。せめて、毎月の預託料分くらいはレースで稼いで欲しい、というのが本音だが、実はそれすら困難なのだ。

 こんな状況では、新たに消費を喚起することは無理だろう。現に、初日の大口購買者は、JRA日本中央競馬会(12頭)と、(有)ビッグレッドファーム(5頭)で、計17頭を落札した。

 33頭中17頭である。争う相手がいてこその「せり」なのであって、仮に希望の馬がいたとしても、自分一人ならばほとんど一声で落札できることになる。それどころか、市場を通さずに、後で値切って「庭先」で購入すれば、消費税さえ要らないことにもなる。

 来月6日までの6日間で、どれくらいの売り上げが上げられるだろうか。このままでは、本当に未曾有の不景気が生産地を襲うことになるだろう。由々しき事態と言わねばなるまい。

 「客がいないねぇ」「参ったな」「これはどうにもならんわ」「まったくこれからどうなってしまうものやら」。会場のあちこちで交わされる言葉はだいたいこんなもので、相変わらずの肌寒い気候もあって、何とも寒々としたセール初日の風景だった。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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