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絞られてきた全米年度代表馬候補

  • 2013年08月28日(水) 12時00分
 アメリカ競馬におけるシーズンの総決算であるブリーダーズCまであと2か月余りとなり、それぞれのカテゴリーにおける勢力分布が固まりつつある。これはすなわち、全米年度代表馬のタイトルを狙える位置にいる馬も、かなり絞られてきたことを意味する。

 年度代表馬について語るなら、まずは、前年に続く2年連続の栄誉を狙うワイズダン(セン6、父ワイズマンズフェリー)から始めるのが筋であろう。

 昨年、1981年のジョンヘンリー以来31年振りとなる、「年度代表馬」「最優秀古牡馬」「最優秀芝牡馬」の3タイトルを獲得したワイズダン。昨年の最終戦となったG1BCマイル(芝8F)から5か月の休養を経て、今季初めてファンの前に姿を現したのが4月12日にキーンランドで行われたG1メイカーズ46マイル(芝8F)で、ここを久々を感じさせない競馬で完勝。5月4日にチャーチルダウンズで行われたG1ターフクラシック(芝9F)、6月29日にチャーチルダウンズで行われたG2ファイアクラッカーH(芝8F)、8月10日にサラトガで行われたG2フォースターデイヴH(芝8F)をいずれも危なげのない競馬で制し、昨年8月から継続している連勝記録を“8”に伸ばしている。

 このあとはおそらく、10月5日にキーンランドで行われるG1シャドウェルターフマイル(芝8F)から、11月2日にサンタアニタで行われるG1BCマイル(芝8F)へと向かうはずで、北米調教馬だけで争われるG1シャドウェルターフマイルではまず負ける要素がなく、G1BCマイルもよほど強力なマイラーが欧州から遠征して来ない限り、前年に続く連覇を果す公算大と見られている。

 今季を6戦6勝で終わり、前年からの連勝を“10”に伸ばせば、2年連続年度代表馬確実かと思いきや、あにはからんや。そうでもないムードが、現在のアメリカには漂っている。

 ワイズダンという馬、近走こそ芝を専門に使われているが、4歳秋にはチャーチルダウンズのダートのG1クラークH(d9F)を3.3/4馬身差で快勝していたり、5歳春にはキーンランドのオールウェザーのG3ベンアリS(AW9F)を10.1/2馬身差で圧勝していたりと、馬場を問わずに能力を発揮出来るオールラウンダーとして知られていた馬だ。そういう背景があるゆえ、6月のチャーチルダウンズではダートG1スティーヴンフォスターH(d9F)に向かうのではないか、あるいは8月のサラトガでは、G1ホイットニーH(d9F)を狙うのではないか、など、ファンにとっては楽しみな噂が飛び交っていたのである。ところが、6月のチャーチルダウンズでも8月のサラトガでも、ワイズダンが実際に走ったのは芝のG2戦だったのだ。

 G2ファイアクラッカーHでは128ポンド(=約58.1キロ)、G2フォースターデイヴHでは129ポンド(=約58.5キロ)という、トップハンデを背負って勝利を収めており、それはそれで称賛に値するパフォーマンスではあるのだが、その一方で、「ワイズダンは弱い相手とばかり戦っている」と、同馬を誹る声も聞こえているのである。

 G1スティーヴンフォスターSやホイットニーHで、昨年のG1BCクラシック(d10F)1、2着馬フォートラーンド(牡5、父イードバイ)、ムーチョマッチョマン(牡5、父マッチョウノ)らとワイズダンが戦う姿を見たかったというのが、アメリカの競馬ファンが抱く本音なのだ。そんなわけで、仮にBCマイルまで勝ち続けたとしても、すんなりと「2年連続」とはいかない雰囲気が出来つつあるのだ。

 このところ全米年度代表馬は、3年連続で古馬が受賞しているが、今年の3歳世代にも、これといった有力候補がいないのが現状だ。

 春3冠は、G1ケンタッキーダービー(d10F)がオーブ(牡3、父マリブムーン)、G1プリークネスS(d9.5F)がオックスボウ(牡3、父オウサムアゲイン)、G1ベルモントS(d12F)がパレスマリス(牡3、父カーリン)と、全て異なる馬が優勝。8月24日にサラトガで行われた“真夏のダービー”G1トラヴァーズS(d10F)も、ここがG1初制覇だったウィルテイクチャージ(牡3、父アンブライドルズソング)が優勝と、世代の中で抜きんでた実績を築く馬が出てきていないのである。

 G1ケンタッキーダービーに加え、G1フロリダダービー(9F)を制しているオーブが、G1BCクラシックを勝てば、年度代表馬の声も上がって来ようが、そうでなければ今年もエクリプス賞最高の栄誉は、古馬のものとなる可能性が高まっている。

 そんな中、現段階で年度代表馬の座に最も近いのは、西海岸の古馬路線を席巻しているゲイムオンデュード(セン6、父オウサムアゲイン)だ。

 今季初戦となった、2月3日にサンタアニタで行われたG2サンアントニオS(d9F)を6.1/2馬身差で快勝すると、次走、春のサンタアニタ最大のレース“ザビッグキャップ”G1サンタアニタH(d10F)をレース史上最大着差となる7.3/4馬身差で圧勝。今年はドバイをスキップし、自国の高額賞金レースG2チャールウタウンズクラシック(d9F)に向かって、ここを白星で通過。続いて、ハリウッドパークにおける最後の開催となったG1ハリウッドGC(AW10F)をモノにすると、8月25日にデルマーで行われたG1パシフィッククラシック(AW10F)でも再びレース史上最大着差となる8.1/2馬身差の圧勝劇を披露。史上2頭目となるカリフォルニア古馬3冠(G1サンタアニタH、G1ハリウッドGC、G1パシフィッククラシック)同一年完全制覇を成し遂げた。

 このままG1BCクラシックまで無敗で駆け抜ければ、まず間違いなく年度代表馬のタイトルはゲイムオンデュードのものとなるはずだ。

 東海岸や中部地区の古馬では、6月にG1スティーヴンフォスターSを勝っているフォートラーンドが、G1BCクラシックで前年に続く連覇を果した時に、年度代表馬という気運が盛り上がる可能性はありそうだ。あるいは、8月にG1ホイットニ−Hを制しているクロストラフィック(牡4、父アンブライドルゾソング)が、G1BCクラシックを含めてあと2つG1を勝てば、そういう声が上がってくるかもしれない。

 だが、東海岸の古馬なら、最も可能性があるのは牝馬のロイヤルデルタ(牝5、父エンパイアメーカー)かもしれない。

 今季初戦のG3サビンS(d8.5F)を勝った後に挑んだG1ドバイWC(AW2000m)は、メイダンのタペタを巧くハンドリング出来ず前年に続いて惨敗。帰国初戦となったG2フルールデリH(d9F)は、125ポンド(=約56.7キロ)を背負わされて2着に敗退と、シーズン前半は不本意な成績に終わったが、7月20日のG1デラウェアH(d10F)を10.3/4馬身差で制して復活。8月25日のG1パーソナルエンスンH(d9F)も4.1/2馬身差で快勝し、牝馬路線における絶対君主の座に返り咲いている。

 次走は9月28日のG1ベルデイムS(d9F)と言われており、その後は自身の3連覇がかかるG1BCディスタフ(d9F)になる予定だ。ここまで勝ち続け、BCディスタフ史上初の3連覇達成となれば、「年度代表馬ロイヤルデルタ」という目も出て来ることだろう。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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