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台風10号、日高直撃

  • 2003年08月11日(月) 20時18分
 日本列島を縦断した台風10号は、9日(土)に日高地方を直撃し、空前の集中豪雨をもたらした。

 被害の大きかったのは、日高中部と西部。新冠から門別、平取などの各町である。とりわけ、厚別川の氾濫した門別町厚賀地区は、道路が分断され、緑豊かな牧場地帯がほとんど壊滅的な被害を受けた。

 この地区を流れる厚別川沿いには、約60軒の牧場が軒を並べているそうだが、9日夕刻から深夜にかけて一気に厚別川の堤防を乗り越えて大量の土砂を含んだ水が流域を襲った。「人間が避難するだけでようやくだった」と知人の牧場主はその恐怖体験を言葉少なに語る。「厩舎の馬にまで手が回らなかった」とのことで、この牧場でも数頭の馬が行方不明のままだという。

 厩舎内には大量の土砂が溜まり、建物もかなり歪んでいる。牧柵には上流から運ばれてきた様々な大きさの木片や雑草などがびっしりと絡みついており、放牧地も茶褐色の土砂が堆積したまま。復旧には果たしてどれだけの日数と手間がかかるものか、と途方に暮れた状態である。

 今日(11日)には、馬運車が被害に遭った牧場から馬を移動するべく、たくさん駆けつけていた。住宅だけの被害と違って、牧場の場合には、厩舎や農機具、放牧地、牧柵など、馬の飼育に必要な施設と道具そして飼料が完備していなければならない。親戚や友人知人などの牧場を頼って、さしあたり移動できる馬は運び出し、復旧作業はそれからのこととなる。とにかく大変な被害だ。

 新冠町美宇(びう)地区のとある牧場に勤務する知人によれば、まだこの一帯は停電と断水が続いたままだという。「ライフラインが壊滅状態なので、ほとんどサバイバル生活です」と先ほどメールを送ってきた。

 11日夕刻現在、国道の不通区間はなくなった。門別町清畠(きよはた)の、慶能舞(けのまい)川にかかる国道235号線の橋が一部流出し、迂回路を通行せざるを得ない状態というが、土砂崩れなどによる不通区間はとりあえず復旧している。

 しかし、JR日高線は、新冠川にかかる鉄橋が橋げたの流出により線路が宙ぶらりんとなっており、これは、全面復旧までかなりの時間が必要になるだろう。ここだけでなく、日高線全体で、復旧工事を必要とする個所が全部で90ヶ所にも及ぶとの情報もある。今回の台風は、大変な爪痕を残してしまった。

 浦河の場合、もっとも雨量の多かったのは、9日正午過ぎあたり。私事ながら、私の牧場も二級河川・絵笛川に面している。狭くて小さな川なので、一気の豪雨には実に脆い。案の定、見る見る間に川が増水し、コンクリート製の護岸一杯まで水嵩が増したのだが、その後は小降りとなり、夕刻から深夜の雨はそれほど強くはなかった。ちょっとした台風の進路の違いや雨雲のほんのわずかなずれが、同じ日高でも、大災害をもたらしたところと被害のなかったところとに明暗を分けた形である。

 テレビで見た光景の一つに、胸まで水に浸かり、そのまま動けずにじっと立ちすくむ(たぶん)1歳馬の姿が目に焼き付いている。また、母親と行き別れてしまったのか、子馬だけが引かれてどこかに移動するシーンなども、胸がえぐられる思いだった。

 行方不明者がまだ見つかっておらず、捜索が続く。全体の被害状況の把握や集計は、今後の作業となるだろう。不況という荒波をもろにかぶりながら、今度は台風被害と、馬産地はダブルパンチで苦境に立たされている。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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