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キズナ、オルフェーヴルが出走する前哨戦のレース展望

  • 2013年09月11日(水) 12時00分
キズナ(牡3、父ディープインパクト)が出走するG2ニエユ賞(芝2400m)、オルフェーヴル(牡5、父ステイゴールド)が出走するG2フォワ賞(芝2400m)の発走が、今週日曜日に迫っている。今週のこのコラムでは両レースの展望を行いたい。

 なお、レースの5日前に登録ステージが設けられている英国や愛国の重賞と違って、レースの18日前に一次登録が閉め切られた後は当該週の水曜日まで登録ステージがないのが仏国の重賞だ。ご紹介した馬が実際には出走しない場合もあることを、平にご容赦いただきたい。

 現地午後2時30分、日本時間の夜9時30分発走予定のニエユ賞。キズナにとってはこれがロンシャンにおける初めての実戦となる。

 日本でも前哨戦ではよく、「八分の仕上げで臨み」「本馬を見据えた競馬する」など言うが、日本以上に本番と前哨戦をきっちりと分けて考えるのが国外だ。勝敗度外視と言っては言い過ぎになろうが、「勝つ」ことよりは「試す」ことや「慣れる」こと、そして言うまでも無く「本番におつりを残す」ことが優先順位としては上に来るレースである。

 ここはキズナに、ロンシャンとはどんな所なのか、入厩する馬房、パドック、スタンド1階を通過する馬道、そして馬場を、入念に見てもらうことが、まず何よりも大切だ。そして、本番で戸惑うことがないよう、日本のどの競馬場よりも密に芝が生えたロンシャンの馬場を、じっくりと体験してもらうことが肝要だ。そして、著しく消耗することなく、無事にレースを終えて、本番への最終調整に向かって欲しいものである。

 ただし、だ。

 過去10年の凱旋門賞で1・2着した20頭の直前走を見ると、10年の勝ち馬ワークフォースが前走のG1キングジョージ(芝12F)で5着だったのを最低着順として、ただの1頭も掲示板を外した馬はいない。前哨戦で大敗するようでは、本番でも用が無いのである。

 記憶に新しいのが昨年だ。単勝42倍の12番人気と、当日はほとんどノーマークだった勝ち馬ソレミアも、前走のG1ヴェルメイユ賞(芝2400m)で3着に入っていたのである。

 前段で書いたことと矛盾するようではあるが、試すことや慣れることが主眼と言いつつ、体裁の悪い競馬も出来ないのが凱旋門賞の前哨戦なのである。

 ニエユ賞には、現段階で凱旋門賞の前売り1番人気に推されているフリントシャー(牡3、父ダンシリ)も出走を予定している。

 デビューが今年5月7日で、春のクラシックには乗れなかったが、3戦目にシャンティーのG3リス賞(芝2400m)を制して重賞初制覇。続いて凱旋門賞と同コース・同距離のG1パリ大賞(芝2400m)を鮮やかな末脚で快勝しG1制覇を果している。

 競馬っぷりから判断して、少なくとも前哨戦では前半、キズナとフリントシャーは同じような位置取りになりそうで、ライバルの脚を計るという意味でも重要な競馬となりそうだ。

 デビュー2戦目から4連勝で8月15日にドーヴィルで行われたG2ギョームドルナーノ賞(芝2000m)を制したヴァンクーヴェリテ(牡3、父ダンシリ)も、フリントシャー同様に春のクラシックには縁がなかったが、ここへ来て急上昇している上がり馬だ。

 3代母が凱旋門賞馬アーバンシーという牝系を背景に持つ同馬は、現段階では凱旋門賞未登録だ。2000mを越える距離を走るのはここが初めてで、その内容を見極めた上で10万ユーロを支払って追加登録するかどうかを決める模様だ。

 同じく春のクラシックには不参加だったが、7月21日にメゾンラフィットで行われたG2ユージンアダム賞(芝2000m)を制して2度目の重賞制覇を果した段階で、陣営から秋の目標は凱旋門賞との意思表示があったのがトリプルスレト(牡3、父モンスン)だ。

 この馬も2000mを越える距離を走るのはここが初めて。父モンスンは2400m路線の大物を多数輩出しているが、本馬の牝系はマイルG1・3勝のキャンフォードクリスらと同系で、距離延長への不安が全く無い馬ではない。

 現地午後4時15分、日本時間の夜11時15分発走予定のフォワ賞(芝2400m)。ここに出走するオルフェーヴル(牡5、父ステイゴールド)にとって、ロンシャンは昨年既に2度実戦を経験している舞台だ。

 昨年このレースに登場した時には、勝手がまるでわからぬ転校生のように、帯同馬アヴェンティーノの後を付いて回った同馬だが、今年は前哨戦のパドックからから威風堂々たる姿を見せてくれるはずだ。

 ポイントは、オルフェーヴルにとってここが3月31日のG2大阪杯(芝2000m)以来5か月半振りの実戦という点にあろう。

 G1春の天皇賞(芝3200m)やG1宝塚記念(芝2200m)を使って臨んだ昨年よりも、結果的に春が1戦だけとなった今年のローテーションに、筆者は好感を持っている。前年よりは明らかに馬がフレッシュで、調整もしやすいことと思う。休み明け走らない馬ではないし、充分に稽古を積んでの出走なので、昨年のように勝って本番を迎える可能性が高いとは思う。

 その一方で、休み明けで実戦の勘が鈍っていて、何かに足元をすくわれる場面も想定しておくべきだろう。再び過去10年の凱旋門賞で1・2着した20頭を例にとるなら、半数の10頭が直前走で敗戦を喫しているのだ。本番はあくまでも3週間後にあり、キズナの項目でも記したように見苦しい負け方でなければ、ここは2〜3着でも良しと筆者は思っている。

 順当なら相手は、この路線の安定勢力デュナデン(牡7、父ニコバー)になろう。

 ここまで3つのG1を制しているが、いずれも欧州から外に遠征した時にモノにしているという「外弁慶」だが、この春は欧州でも、G1ガネイ賞(芝2100m)3着、G1コロネーションC(芝12F10y)2着、G1サンクルー大賞(芝2400m)2着と堅実な成績を残している。ここも自分の能力だけはきっちりと走ってくるはずだ。

 出てくれば、レース振りが注目されるのがキャメロット(牡4、父モンジュー)である。御存知のように昨年、G12000ギニー(芝8F)、G1英ダービー(芝12F10y)、G1愛ダービー(芝12F)という3つのクラシックを制した同馬。3冠確実と言われたG1セントレジャー(芝14F132y)を、明らかな騎手の乗り損ねで落とした(2着)ことをきっかけに、キャメロットの道のりは暗転した。G1凱旋門賞で7着に敗れると、その直後に疝痛の発作を起こして開腹手術を受けることになった今季は初戦のG3ムーアズブリッジS(芝10F)こそ白星で通過したものの、G1タタソールズGC(芝10F110y)ではアルカジーム(牡5、父ドゥバウィー)に完敗(2着)。続くG1プリンスオヴウェールズS(芝10F)でも4着に敗退し、以後休養に入っている。

 前走にしても大きく負けたわけではないのだが、昨年春の強さを知っている者にとっては不可解な敗戦で、一部の関係者からは昨年秋の手術のダメージから回復しきれていないのではないかとの声も聞こえている。

 再調整され、果してどこまで戻っているか。仮に「キャメロット完全復活」ということになると、日本馬にとっては厄介なことになる。

 3着となった春のG1ドバイシーマクラシック(芝2400m)のフォームを再現出来れば、ヴェリーナイスネーム(牡4、父ウィッパー)にもチャンスがあろうし、昨年のこのレース3着馬ジョシュアツリー(牡6、父モンジュー)も、昨年と同等のパフォーマンスをする態勢は出来ている。

 もう1頭、出てくればレース振りに注目したいのが、ブラジル産馬のゴーイングサムホエア(牡4、父スラマニ)だ。ここが欧州初戦で、本当の狙いは来年のドバイ開催にあると見られているが、昨年12月15日にアルゼンチンのサンイシドロで行われた“南米の凱旋門賞”G1カルロペレグリーニ大賞(芝2400m)を制している実力馬だけに、つぶさに見てみたい馬である。

 ニエユ賞、フォワ賞の模様はグリーンチャンネルで生中継される予定なので、皆様ぜひご注目いただきたい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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