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中井裕二騎手(3)『目標は武豊さん、男として憧れています!』

  • 2013年09月16日(月) 12時00分
ジョッキーになって2年目の中井騎手。18歳で飛びこんだ世界は、年齢の関係ない勝負の世界。「人間関係の築き方が特に難しい」と漏らす中井騎手。しかし、周囲の人の心をつかみながら、着実に活躍の幅を広げています。早くも騎手としての頭角をあらわしている中井騎手。今週は「騎手・中井裕二」2年間の成長と信念に迫ります。(9/9公開Part2の続き、聞き手:東奈緒美さん)

:今年でデビュー2年目ですが、1日8鞍とか10鞍とか、乗鞍がすごく多いですよね。普段の調教もたくさん乗っているそうですね?

中井 :調教はできるだけ乗るようにしています。追い切りがある水曜日だと、大体8頭ぐらい乗っていると思います。

:8頭ですか!? それは、結構時間もギリギリじゃないですか? 坂路で待っていて、次に乗ってという感じで?

おじゃ馬します!

最高の競馬が出来るように準備を

中井 :まさにそうです。時間はギリギリなんですけど、たくさん乗る事は経験になりますし、その週の競馬に乗せていただく馬の調教に乗ることが多いんですけど、競馬で最高の騎乗ができるように、できる限りの準備をしておきたいので。追い切りの動きを確かめるのもそういうことだと思っているので、できるだけ乗るようにしています。

:単純に競馬で8鞍ということは、その8頭分の追い切りをしているということですもんね。ちなみに、1日に8鞍とか10鞍乗るのに、しんどさはないですか?

中井 :ん〜、夏の小倉は結構しんどいですけどね(苦笑)。

:あれは、若くてもしんどいだろうなって思います。この前小倉に行ったんですけど、新幹線降りてびっくりしました。「この中で競馬をするのは、ジョッキーさん大変だな」と思いましたもん。

中井 :新幹線降りると、空気が変わりますよね。まあ、しんどいのはあるんですけど、その分勝った時に「ありがとう、ありがとう」って言っていただけると、それだけで吹っ飛びますね。

この世界に入って一番感じたのは「1勝ってこんなに大きくて、重たいものなんだ」って。正直、レースはたったの1分2分だし、強い馬に乗ったら勝てるだろと思っていたんですけど、もちろん強い馬が勝つ時もありますが、その1分2分の間にいろいろな駆け引きがあったり、ドラマがあるんですよね。

:乗ってみて経験しないと、分からないことですよね。プロの世界に入って2年、ご自身の手応えはどうですか?

中井 :まだまだがんばれるとは思います。ただ、実力面の手応えで言うと、正直、全然ないですね。これまで、1日1日、1分1秒をすごく無駄にしてきたなと思います。もっともっとするべきことがあったなって。

おじゃ馬します!

1日1日1分1秒を無駄にしてきたなと


:それを考えているということは、日々進化しようという気持ちで、いろいろなことを吸収しようという時期ですよね。1年目と2年目で、ご自分の中で変化って感じますか?

中井 :感じます。1年目はキョロキョロしていました。競馬もそうですし普段でも、キョロキョロおどおどしていたと思います。2年目になって、後輩もできて、あとは武豊さんの姿をお手本として見ていて、「こうなりたい」っていう明確な目標になりました。そういう面で、周りが見えるようになったというか、落ち着いて考えられるようになったかなとは思います。1年目はそういう目標すら持てず、豊さんや先輩方を見ては「うわ、テレビで見た人や」って。とにかく存在が大きすぎて、全然分かっていなかったですね。

:武豊騎手にあこがれているんですか?

中井 :はい。騎乗フォームや技術はもちろんなんですけど、普段の立ち居振る舞いからかっこいいですよね。

:たしかに、誰にでも挨拶してくださいますし、人間として素敵ですよね。

中井 :そう! そうなんですよね!! 人としてのレベルが高いなってすごく思います。競馬でも実績があって、さらに「JRAは自分が背負っている」というような感じが出ているのがすごくかっこいい。本当に、男として憧れるというか、「ああいう人になりたい」って思います。

:本当に、特別な方ですよね。競馬の世界ってすごく特殊だと思うんですけど、人間関係とかも難しいですよね。

中井 :人間関係の難しさは、入ってみて一番びっくりしたところです。「あぁ、こんなに難しいんや」と思いました。

:男ばっかりの世界ですし、特に若い子にはあたりも強く来ますもんね。

中井 :そうですね。勝負に年齢は関係ないですからね。そういう意味で、競馬学校の上下関係よりもさらに厳しいものがあって。「大人の世界」と呼ばれるだけありますよね。

おじゃ馬します!

ニコニコしていて可愛がられそう

:たしかに、そうかもしれないですね。でも、中井君はお話も上手だし、ニコニコしていて可愛がられそうです。

中井 :ん〜、どうなんですかね? 須貝尚介先生は「裕二、裕二」って可愛がってくださいます。初勝利も須貝厩舎の馬で、先生がデビュー前に「お前を一番に勝たしてやる!」とおっしゃってくださったんです。だから本当は僕、初勝利は大船に乗った気持ちでいたんです。

:それはすごく愛されていますね。何か可愛がられるコツがあるんですか!? その辺も上手そうですね。

中井 :そう…ですかね(照笑)。でも、努力してでも上手くしないといけないですよね。

:ジョッキーさんは自分で営業しないとだめですから、ニコニコっとして可愛がられて、そういうのも大事ですよね。レースに関して、今までで一番納得できた騎乗というと何になりますか?

中井 :最近で言うと、ウインアルザスという西園正都厩舎の馬なんですが、2着が続いていて、減量のある僕が乗せていただけることになったんです。スタートをバシッと決められて、結構楽に逃げられたんですね。「もうちょっとペースを落とせるかな」って考えたり、周りも見えていて、落ちついて乗れて勝てたんです。

:逃げるのも、ただ逃げればいいわけじゃないですもんね。

中井 :はい。強い馬はたくさんいますし、逃げようと思ってもそれ以上に速い馬が逃げようとしたら難しいですしね。そういうところで、自分が思っていた通りのレースができたかなと思います。

:やっぱり今は、減量を生かして前にいく競馬をしたいですか?

中井 :そうですね。今自分に求められているのは、そこだと思いますので。期待に応えるためには、できるだけ前にいないといけないと思っています。ずっと後ろのままだったら、実況でも1回しか名前が呼ばれなくて、馬主さんも見ていて面白くないと思いますしね。

:そのためにはスタートが重要になりますね。

中井 :はい。スタートは、すごく重要だと思っています。僕はまだ2年目ですけど、1年目の子たちにも「スタートをきれいに、上手く出せるようになった方がいい」って、すごく言いたいですもん。

:ゲートの中ではどんなことを考えていますか?

中井 :馬が出やすい体勢というか、ちゃんと真っすぐに立っているかというのをすごく考えますね。それ以外は、あまり考えないです。変に考え過ぎてもよくないので、結局はあまり考えないのが一番いいのかなと。

1年目は、逃げ馬に乗ったら「行かないと、行かないと」って緊張していたんですけど、最近では「人間じゃなくて馬が出るんだから、緊張しても一緒だな」って考えるようになりました。やっぱりリラックスしている方が上手く出られますし、ガチャンと出た場合でもついて行きやすいです。

:考えすぎると、変に硬くなっちゃいますし。

中井 :そうなんです。考え出すと終わらないですしね。そうした方が、良い結果がついてくることが多い気もします。

:逆に、今までで悔しかったレースってありますか?

中井 :これも最近の話なんですが、7月の中京でマイネジャンヌ(清水久詞厩舎)という馬に乗せていただいたんです。人気もあって、しかも特別レースで減量がきかないのに僕を乗せてくださったこともあって、「良い結果出そう」と。

その時が開催の後半で、内が結構荒れていたんですね。荒れている中でも「この馬だったらこなしてくれるだろう、最後まで脚を使えるだろう」と思って、4コーナーでみんなが外に持っていくところを、僕は内を突いたんです。

:コースロスのない方を選んで、勝負をかけて。

おじゃ馬します!

その判断をした自分が悔しかった


中井 :はい。それこそ、かっこよく言ったら「馬を信じて」という。荒れている中でもできるだけ馬場の良いところを選んで「ここだ!」と思って進んだんですけど、結果、最後が全然伸びなくて。「それが一番」と思って乗ったので、後悔はしてないんですけど、その判断をした自分がすごく悔しかったです。この経験をこれから生かしていかないといけないレースになりました。

:苦しいけど、それも経験ですよね。ただ、ジョッキーさんの世界って、本当に厳しいなと思います。何から何まで全部結果として自分に返ってくるし、それを「ごめんなさい」と言わないといけない相手がいて。

中井 :そうですね。その代わり、勝った時に返ってくるものがすごく大きくて、うれしいんですけどね。ずっとその積み重ねなのかなって思います。それに、しんどい面はあるんですけど、他のどんな仕事でもしんどいのはあると思いますので。

:たしかに。ヘコんだときは、先輩とか同期とかに相談したりするんですか?

中井 :僕は相談しないタイプですね。弱いところは、あまり人に見せたくないんです。松山弘平先輩とか藤岡康太先輩も、仲よくしていただいていますが、競馬ではライバルですからね。でも、競馬の話はよくしますよ。週末が終わって月曜日が休みで、その時に録っていた競馬番組を一緒に見て話したりしますね。(Part4へ続く)

◆次回予告
次回は中井騎手インタビューの最終回。先輩たちに積極的にアドバイスをもらって、騎乗技術を磨いているという中井騎手。川田将雅騎手には、返し馬の大切さを教わったと言います。岩田康誠騎手に聞いてみたこととは、“憧れの人”武豊騎手に近づけるように研究している驚きの内容とは。

◆中井裕二
1993年6月25日生まれ、京都府出身。同期は菱田裕二、山崎亮誠ら。2012年3月、栗東・長浜博之厩舎からデビュー(現・フリー)。初騎乗は3月3日中京3R、ギルドマスターに騎乗し3着。同日8R、ニシノマナザシに騎乗し、延べ2頭目で初勝利。同期一番乗りとなった。2012年6月、マーメイドSでタイキエイワンに騎乗し重賞初騎乗を果たす。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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