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英国若手No.1騎手が1か月半以上騎乗できない理由とは

  • 2013年10月16日(水) 12時00分
 イギリスで今、若手ナンバーワンと言われている見習い騎手が、ライセンス更新手続きの停滞によって、8月26日の騎乗を最後に1か月半以上にわたって騎乗が出来ない状況に置かれている。

 渦中の人物は、ダレン・イーガン(21歳)。今年春までは、ウェールズにあるチェプストウに本拠地を置くロン・ハリス調教師のもとで「見習い」として騎乗していた騎手である。「マイナーリーグ」と言っては失礼になるかもしれないが、格も賞金も高くは無い地方の下級条件で勝ち星を増やし、乗れる若手としてメキメキ頭角を現して来たイーガンは、次のステップとして、英国競馬のヘッドクォーターであるニューマーケットに拠点を移すことを決断。新たに、ジョン・バトラー厩舎の所属騎手として再出発することになった。

 英国のルールとして、見習い騎手が移籍し後見人が変わる時には、騎手免許の更新を行うことが義務付けられており、統括団体であるBHAに対して改めて必要書類を提出し、BHAの本部に出向いて面接を受けるなど、新規申請に準じた手続きが求められる。

 こうした制度について、イーガン本人も、新たな後見人であるジョン・バトラー師も充分に承知していたはずなのだが、統括団体のBHAが言うところによれば、提出書類の不備によって、再交付の可否を判断する以前の段階の、「申請手続き未了」の状態が続いているのである。具体的に言えば、イーガン側からBHAに対してライセンスの書き換えが申請されたのが8月27日で、翌28日にケンプトン競馬場で予定されていたイーガンの騎乗馬3頭が主催者判断によって「乗り替わり」になって以降、面接すら一度も行われることなく6週間が経過しているのである。

 イーガンが行った再交付申請手続きの、いったいどこに不備があったのか、BHAは「現在進行形の事案に関しては、内容の公表を差し控える」として明らかにしていないが、関係者の話を総合すると、焦点となっているのはイーガン個人の「通話記録」であるらしい。

 イギリスで、調教師、あるいは騎手のライセンスを申請する際には、申請する者がいつ、誰と電話で話をしたか、一定期間遡っての通話記録を提出することを求められる場合がある。関係者しか知り得ぬ情報を、不適切な相手に漏らすことがあっては困るという、競馬の公正確保を目的とした手続きだ。イーガンは、何らかの事情によって求められた通話記録の提出が滞っているのではないか、と見られているのだ。

 ロン・ハリス厩舎所属として騎乗した昨年、ダレン・イーガンは年間47勝をマークし、見習い騎手リーディングの第2位となっている。それも、シーズンも深まった10月に落馬事故に巻き込まれ、鎖骨を骨折してシーズン終了まで戦線を離脱しており、負傷が無ければリーディング争いに加わっていたことは間違いなかった。

 ことに、G1サセックスS(芝8F)などの舞台として知られるグッドウッド競馬場で、20回あった騎乗機会のうち6回において白星をマーク。日本で言うところの3〜4コーナーが8の字型のスラロームになっているトリッキーなグッドウッドで、3割という極めて優秀な勝率を記録したことで、若手にしては傑出した技術を持つ騎手として注目されることになった。

 そして今季、イギリスにおける芝平地シーズンの開幕を飾るドンカスター開催の、名物競走となっているリンカーンHを、12番人気のレヴィテイト(セン5、父ピヴォタル)に騎乗して優勝したことで、その名は一気に全国区となり、更なる飛躍が期待されることになった。

 これだけ実績のある騎手から出されたライセンス申請に対し、6週もの長きにわたって面接を行わないのは異常事態であるとして、イギリスのプロフェッショナル・ジョッキーズ・アソシエーション(PJA)は、BHAを強く糾弾する姿勢を見せている。仮に何らかの過失が疑われても、処分が確定するまでは当該人物の身分は保障され、騎乗が認められるのが欧米社会の通例だけに、確かに今回のイーガンのケースは異常事態である。

 そんな中、実はイーガンは既に通話記録を提出しており、そこに司法当局による調査が必要な何らかの事象が見つかったのではないか、との見方も出はじめている。

 将来有望な若手に、果して何が起きているのか。一日も早い真相解明が待たれている。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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