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3歳馬の前に、弱気な古馬陣壊滅/エリザベス女王杯

  • 2013年11月11日(月) 18時00分
 オークスは9番人気、秋華賞は3番人気。そして今回も2番人気。最初の新馬戦は別にして、なぜか1番人気に支持されることのない不思議なメイショウマンボ(父スズカマンボ)が、苦もなく古馬を倒して女王の座に就くことになった。

 最大の目標だった秋華賞をピークの状態で制したあとの中3週。疲れが心配されたことは事実である。たまにしか来ないはずの幸四郎騎手がそんなに……もあった。また、決して3歳馬全体のレベルが高いともいえず、古馬牝馬のほうが頼りになりそうな信頼感もあった。

 しかし、3歳メイショウマンボは雨のパドックで、古馬のレース前の高ぶりが虚勢であるのをまるで見透かすように落ち着いていた。メイショウマンボに騎乗した武幸四郎騎手も、いまは自信にあふれている。そわそわ落ち着かない古馬を観察する余裕があった。キャリアで上回る古馬陣は、危なっかしいレースをしたときのジェンティルドンナと小差善戦はあるが、実際は2000m級のビッグレースに自信の持てる馬はいなかったのである。まして、雨の重馬場。

 メイショウマンボのオークス圧勝は、そのジェンティルドンナの2分23秒6に次ぐ史上2位の勝ち時計である。秋華賞も平均レベルを上回る1分58秒6で完勝している。3歳牝馬全体はともかく、メイショウマンボのランクは低くなかった。

 レース検討で、2200mは一番難しい。みんなの考えが異なるからレースの流れが読めないとしたが、しかし、さすがにこんな流れの、まさかの決着時計を予測したファンは少なかったろう。

 レース全体流れは、「62秒7-(13秒5)-60秒4)」。このバランスは、スローと読んだファンの想定内である。しかし、ラップをちょっと別の通過地点で区切ると、「前半の半マイル49秒6-(中間3ハロン)-後半の半マイル47秒2」となる。

 前半のスローはいいとして、中間3ハロンは(13秒1-13秒5-13秒2)=39秒8なのである。とすると、3コーナーの坂にさしかかり、いざこれから後半の勝負となる1400m通過地点は、にわかには信じがたい「1分29秒4」である。

 エリザベス女王杯が3歳以上の牝馬チャンピオン決定戦になった1996年以降、もっとも速かったのはダイワスカーレットの勝った2007年の「1分22秒1」であり、ついで最初にアドマイヤグルーヴの勝った2003年の「1分22秒4」が続き、もっとも1400m通過タイムが遅かった年でさえ、不良馬場でペースの上がりようもなかったレインボーダリアの勝った昨年の「1分28秒0」である。

 今年は、直前の2000mのアンドロメダSの勝ち時計が2分02秒1だったから、渋馬場といってもレインボーダリア(雨でも11番人気)に触手が動くような道悪ではなかった。前半からスローで展開した今年のエリザベス女王杯は、途中でステイヤーズSの中盤で刻まれるようなラップが出現し、その結果、上がり3ハロンは「11秒7-11秒6-11秒2」=34秒5である。

 それでなくとも、レース流れが難しい2200mの勝ちタイムは、不良馬場の昨年さえ更新する史上もっとも遅い「2分16秒6」となった。女王杯レコードより「5秒4」も要している。でありながら、上がりは良馬場の高速の年と同じ34秒5であり、ゴール前の1ハロン「11秒2」は、史上最速タイである。

 雨だから仕方がないとはいえ、あまりに弱気すぎたのは3歳メイショウマンボ以下を返り討ちにしても不思議ない立場の古馬牝馬だったと思える。

 最終的に1番人気に押し出された形のヴィルシーナ(父ディープインパクト)は、この日、やけにボッタリみせたように、京都大賞典をステップにここに目標を定めたはずが、あまりかんばしいデキではなかったかもしれない。最初は好位につけたが、この歴史的な超スローで道中の順位を下げたのが大失敗。岩田騎手には叱られそうだが、ヴィルシーナは「控えても切れない」。ましてゴーのサインが出てもすぐにはスイッチが切り替わらない馬。だから、強気に先行したヴィクトリアマイルは勝ったが、昨年はずっと、秋華賞など流れに乗り遅れて危なかった際のジェンティルドンナ(岩田騎手)にも結局は負け続けていたのであり、それを知っているはずの岩田騎手はヴィルシーナを買いかぶりすぎていた気がする。メイショウマンボに勝負どころで進路を塞がれているようでは、立場が逆である。

 あまりの惨敗に納得できない(?)陣営は、急きょ、ジャパンCに登録した。

「ヴィルシーナは実力負けではないのか?」 そんな評価に反発するために。秋のGIシリーズはどの陣営にもメンツのかかった真の実力勝負である。今年のジャパンCに、海外の馬は(考えられて当然の理由で)あまり日本には来たくない。それも重なって、印のつく馬は3、4頭だけではないかとされている。ヴィルシーナは出走してくるかもしれない。

 弱気な古馬陣とは逆に、全体レベルは低いなどとされた3歳馬は、挑戦者らしく、それぞれ果敢なレースをした。5着以内に4頭が健闘。上がり馬ラキシス(父ディープインパクト)は、スラッとして手足を長くみせる体型から、こういう渋った馬場はかなり不利だったろう。この流れだから川田騎手は、ここ2戦は猛然と追い込んでいるラキシスを迷わず先行させた。というより、妙な策を用いなければどの馬も楽々と先行できるペースである。メイショウマンボには振り切られたものの、初のGI挑戦になったここで2着は誉められていい。この馬もジャパンCに登録を済ませた。実際に挑戦するかは別に、今年、メンバーが揃わないのはアンテナを立てている陣営なら百も承知。まださらに有力馬が少なくなる可能性だってある。角居調教師の展望はさすがである。

 いつもより早め早めに動いたのは、4着に健闘した3歳トーセンアルニカ(父メイショウサムソン)も同じ。こちらは、重賞競走に挑戦するのも初めて。ダイナカールから広がる名牝系の出身らしい意欲あふれる姿勢が、当然の13番人気に、小差4着健闘の解答を出した。4歳ヴィルシーナにも、5歳ホエールキャプチャにも先着したから見事である。

 5着デニムアンドルビー(父ディープインパクト)は、早めに動いた秋華賞が案外の結果だったことから、意識して後方一気に賭ける内田騎手の注文。残念ながらこの流れになっては、途中で動いたところでもう結果が出るものではない。メンバー中最速タイの上がり34秒1を記録して5着は納得だろう。この秋シーズン、重馬場のローズSを制し、1番人気ゆえに動いて出た秋華賞が4着。今回は少し気配が落ちていた気がする。

 古馬陣の中で、ただ1頭だけ善戦したアロマティコ(父キングカメハメハ)は、スパートした前方のメイショウマンボに合わせるように追撃態勢に入ったあと、手応え絶好の4コーナーでひと呼吸入れて待ったように映った。あそこで我慢したから3着に突っ込めたのか、GIにしてはちょっと慎重になりすぎか、見方は分かれる。この歴史的なスローだからもったいない気もする。

 ホエールキャプチャ(父クロフネ)は、ヴィルシーナと同じように道中で無理せず下げる作戦を取った。直線は外から伸びかかったが、同馬の重馬場下手は知られているから、この馬場では仕方のない作戦だったろう。しかし、それにしても2分16秒6はすごい。少し、むなしい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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