スマートフォン版へ

ヨーロッパ競馬は障害シーズンの幕開け

  • 2013年11月20日(水) 12時00分


◆G1・17勝のベテランVS勢いのある若い世代

 イギリスの芝平地シーズンが9日の開催をもって終了し、カルティエ賞の発表が12日に行なわれたヨーロッパの競馬は今、廻り舞台がゴトゴトと音を立てる幕間の季節を迎えている。

 これから4か月ほど、センターステージに登場して競馬ファンの耳目を集めるのは、障害馬たちだ。

 17日(日曜日)、アイルランドのパンチェスタウン競馬場では早速、主要な障害戦としては開催時期が最も早いG1モーギアナハードル(芝16F)が行なわれたが、ここで、障害シーズンの開幕を華々しく祝うかのような大記録が達成された。

 勝ったのは、単勝1.0625倍という限りなく元返しに近い圧倒的1番人気に推されていたハリケーンフライ(セン9、父モンジュー)。これが通算17度目のG1制覇となり、1977年から1984年まで北米で現役生活を送ったジョンヘンリーと、2003年から2012年まで仏国と英国を拠点に活躍した障害馬コートスターの2頭が保持していた記録を破り、G1最多勝の歴代ワールドレコードを樹立したのである。

 ハリケーンフライはアイルランド産馬。父はモンジューという一流種牡馬だが、祖母の兄弟にG2勝ち馬が2頭いる程度で、さほど栄えているとは言えないファミリーを背景に持つ同馬は、ゴフスのオービー1歳市場で馬主のラウル・テネム氏に65000ユーロで購買され、フランスのJ・L・ペレタン厩舎に入厩した。

 2歳時は4戦して未勝利に終わったが、ひと冬越して馬に実が入ったか、3歳を迎えるとモンドマルザンのメイドン(芝1400m)、サンクルーのLRオムニウム2世賞(芝1600m)を連勝。クラシック出走が視野に入る位置まで出世した。

 次走、仏2000ギニーの前哨戦であるG3フォンテンブロー賞(芝1600m)は8着に大敗したものの、続くG3ギシェ賞(芝1800m)では、次走G1仏ダービーを勝つことになるロウマンから2.3/4馬身差の4着に入り、重賞での入着を記録している。

 その後も重賞を2戦していずれも着外に終わった後、馬主が変わり、アイルランドのウィリー・マリンズ厩舎に転厩したことで、ハリケーンフライの命運が大きく開けることになった。

 マリンズ調教師と言えば、今年の春にブラックステアマウンテン(セン8、父インペリアルバレー)でJG1中山グランドジャンプ(芝4250m)を制し、今週末のG1ジャパンC(芝2400m)にシメノン(セン6、父マージュ)を出走させる調教師さんだから、日本でも既にお馴染みの人物である。

 アマチュア騎手として活躍した後、父であるパディー・ムリンズ調教師や、ジム・ボルジャー調教師の下で修業を積んだ時代を経て、1988年に開業したウィリー・ムリンズ師。2005年にヘッジハンターでグランドナショナルを制し、2007/08年シーズンから昨シーズンまで、6シーズン連続で愛国の障害チャンピオントレーナーの座にあるという、凄腕の調教師である。

 ハリケーンフライ自身に素質があったことは言うまでもないが、そこにマリンズ師のマジックタッチが施され、2008年5月にハードルデビューを果したハリケーンフライは、平地時代とは馬が変わったかのような快進撃を見せ始めた。

 ハードル緒戦を12馬身差で快勝すると、次走はいきなりフランスに遠征してオートイユのG3ロンシャン賞(芝3900m)に挑み、障害重賞初挑戦初制覇を達成。続くオートイユのG1アランドボレイル賞(芝3900m)はさすがに相手が強く2着に敗れたが、シーズンオフをはさんだ2008年11月30日、フェアリーハウスで行われたG1ロイヤルボンドノーヴィスチェイス(芝16F)に挑み、これを制して見事にG1初制覇を手にしている。これが、偉大なる記録の第一歩となったわけだ。

 2011年と2013年には、ハードル界の最高峰と言われるチェルトナムのG1チャンピオンハードル(芝16F110y)に優勝。パンチェスタウンのG1チャンピオンハードル(芝16F)にいたっては、2010年から2013年まで4連覇を達成。レパーズタウンのG1ディセンバーフェスティヴァルハードル(芝16F)には、2010年と2012年の2度優勝。こうして積み重ねてきたG1勝利が、先週のG1モーギアナハードルで新記録の17に到達したのだ。

 ハードル転向後の戦績は、22戦19勝、2着1回、3着2回、4着以下も落馬もゼロという、驚くべき安定性を誇っている。

 ハリケーンフライの次走は、12月29日にレパーズタウンで行われるG1ディセンバーフェスティヴァルハードル(芝16F)の予定。そしてシーズン後半の究極の目標となるのが、3月11日にチェルトナムで行われるG1チャンピオンハードルだ。

 目下のところオッズ6〜7倍の2〜3番人気というのが、ブックメーカー各社が催すチャンピオンハードルへ向けた前売りにおける、ハリケーンフライの評価である。いかにG1最多勝という偉大な記録を保持する馬であっても、更には、過去このレースを2度優勝している馬であっても、だからと言って1番人気に支持されるわけではないあたりに、チャンピオンハードルというレースが持つ崇高さと、馬券購入者のシビアさの、両面が表れていると言えよう。

 目下、4.5倍から5倍のオッズで1番人気に推されているのは、昨シーズンのチェルトナムフェスティヴァルでG1バーリングビングハムノーヴィスチェイス(芝21F)を制し、今季初戦のケンプトンの準重賞(芝16F)を10馬身差で快勝したザニューワン(セン5、父キングズシアター)だ。

 続いて5〜6倍のオッズで、多くのブックメーカーが2番人気に推しているのが、昨シーズンのチェルトナムフェスティヴァルでG1トライアンフハードル(芝17F)を15馬身差で快勝して見せたアワコノー(セン4、父ジェレミー)だ。

 すなわち、若い世代の台頭に、その地位を脅かされようとしているのが、現在のハリケーンフライなのである。

 今後のハードル戦線に、皆様もぜひご注目いただきたい。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング