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フランケル受胎馬が高値で取引されたタタソールズ・ディセンバーセール

  • 2013年12月04日(水) 12時00分


◆フランケル受胎馬の目玉はエリザベス女王杯にも出走したダンシングレイン

 昨年一杯で引退した史上最強馬フランケルを受胎した牝馬が10頭上場されることで、例年以上に大きな注目を集めている「タタソールズ・ディセンバーセール」が、現在もニューマーケットで開催中(11月25日〜12月5日)だ。

 そんな中、フランケル受胎馬の中でも目玉商品と言われたダンシングレイン(牝5)が、牝馬セッション初日の12月2日に登場。400万ギニー(約7億2390万円)という、欧州市場に登場した繁殖牝馬としては歴代2番目となる価格で購買された。

 ダンシングレインは、11年のG1英国オークス(芝12F10y)優勝馬。その後G1独ダービー(芝2400m)も3馬身差で快勝。更に現在はG1に格上げされているG2ブリテイッシュチャンピオンズ・フィリーズ&メアズ(芝12F)も制した女傑である。

 3歳秋には来日してG1エリザベス女王杯(芝2200m)に出走したので、ご記憶のファンも多数居られることと思う。日本の馬場は硬すぎて、エリザベス女王杯では18頭立ての16着に大敗。更にその後、脚元を傷め、長期休養を余儀なくされることになったが、4歳秋に復帰。11カ月振りの出走だったにも関わらず、G2ブリテイッシュチャンピオンズ・フィリーズ&メアズで3着に入り、さすがの実力を示している。

 その彼女が4歳シーズンをもって引退し、最初の種付けとなった3月2日の交配でフランケルを受胎。上場番号1533番としてタタソールズのセールスリングに登場したのである。

 ハイフライヤーパドックのM厩舎246番という馬房に収まった同馬を下見に出向いたが、優しいまなざしで、既にすっかり母の佇まいをまとっていたダンシングレイン。多少冬毛がはえていたものの、栗毛の馬体は射しかける陽光に輝き、間違いなく体調は良さそうなことを窺わせた。

 筆者はタタソールズの市場に足を運ぶようになって25年ほどになるが、1歳セールを含めて、セールパビリオンがこれほどたくさんの人で埋まった光景を、見たことがなかった。ダンシングレインが登場する30分ほど前から人が増えはじめ、いよいよ登場の時を迎えると、座席は言うに及ばず通路までびっしりと人で埋まり、まさに立錐の余地もない有様となった。

 オープニングビッドは、バッジャー・ブラッドストックのグラント・プリチャードゴードンが放った200万ギニー。この段階ではどっと沸いた場内だったが、値段が上がるにしたがって観衆は固唾を呑み、やがて静まり返り周回を重ねるダンシングレインの蹄音が誰に耳にもはっきり聴こえる中、390万ギニーのビッドを打ったのが、トルコ人馬主イブラヒム・アラチ氏だ。長年英国で競走馬を所有してきた人物だが、セールで高額な購買を行なったことはこれまでなかっただけに、場内には静かな驚きが流れた。

 しばし後、400万ギニーのビッドを打ったのは、それまで沈黙を守っていたドバイの国王シェイク・モハメドの代理人ジョン・ファーガソン氏。これに対し、アラチ氏の代理人は首を横に振り、ファーガソン氏がわずかワンビッドで争奪戦に勝利を収めることになった。

 世界各国の市場が狂乱と称される好景気に沸いていた2006年、G1チーヴァリーパークS勝ち馬マジカルロマンスが、ピヴォタルを受胎してタタソールズ・ディセンバーセールに上場された際に、460万ギニーで購買されたのが、欧州市場における繁殖牝馬の歴代レコードプライスで、ダンシングレインの400万ギニーはこれに次ぐ歴代第2位の価格となった。

 市場関係者の、「3から4ミリオンにかけての攻防」との事前予測が、ピタリと的中したことになったが、一方で、シェイク・モハメドが公開の市場で繁殖牝馬に大きな投資を行なうことは近年なかっただけに、アンダービダーとなったイブラヒム・アラチ氏ともども、最終局面は予想外のプレイヤーたちにとって展開されることになった。

 購買後、プレスに囲まれたジョン・ファーガソン氏は語った。

「クラシックを勝つ確率をいかにして高めるかに、私たちは日々腐心しています。彼女の産駒たち、あるいは今後彼女が産む牝馬の産駒たちが、私たちがクラシックを勝つ確率を高めてくれるはずです」。

「シェイク・モハメドは素晴らしい繁殖牝馬をたくさん所有していますが、一方で、常に次なる宝石を探しています。ダンシングレインは、間違いなく宝石です」。

「言うまでもなく、フランケルを受胎していることも大きな魅力でした。シェイク・モハメドが所有する牝馬の中に、フランケルを受胎している馬はいませんでしたから」。

 ちなみに、タタソールズ・ディセンバーセール牝馬セッション初日は、総売り上げが前年比64.4%アップの1869万ギニー。平均価格が前年比50.6%アップの92084ギニー、中間価格が前年比40%アップの42000万ギニーと、総体的にも近年にない大商いが展開されている。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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