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アジアエクスプレスをはじめとする今年の2歳世代における外国産馬

  • 2013年12月18日(水) 12時00分


◆アジアエクスプレスを発掘してきた関係者の慧眼には、心からの敬意を表したい

 中山における最後の開催となったG1朝日杯FS(芝1600m、12月15日)は、“最強の助っ人”ライアン・ムーアが騎乗するアジアエクスプレス(牡2、父ヘニーヒューズ、8.7倍の4番人気)が優勝を飾った。

 初めてだった芝コースを難なく克服して見せた馬の強さもさることながら、前半は中団の内埒沿いで折り合っていたアジアエクスプレスを、4コーナー手前からスムーズに外へ導きだしたライアン・ムーアの騎乗は見事のひと言に尽きる。有馬記念の大本命馬オルフェーヴルを管理する池江泰寿調教師が、ライバルであるゴールドシップについて問われ、「恐いのは馬ではなく鞍上」と語ったのも、うなずける好調ぶりだ。

 アジアエクスプレスは、今年3月にフロリダのオカラで行なわれたOBSマーチセールにおける購買馬だ。朝日杯における外国産馬の優勝は、07年のゴスホークケン以来6年振りのことだったが、ゴスホークケンもまたOBSセールの出身馬だった。

 セールを目前にして行なわれた公開調教で、2F追われて21秒0という時計をマークしていたのが、ヒップナンバー50番として上場されていたアジアエクスプレスである。好時計であったことは間違いないが、しかし、同じ日の公開調教で父も同じヘニーヒューズのヒップナンバー58番が、2F=20秒6という強烈な一番時計をマークしていたため、追い切りの段階で傑出した存在になっていたわけではなかった。

 また、ヘニーヒューズはG1BCジュヴェナイルフィリーズ勝ち馬ビホールダーを出したばかりで、それなりに注目されていた種牡馬であった一方、フロリダ産馬のアジアエクスプレスは牝系がいくらか弱いこともあって、セールでは23万ドルという後のG1勝ち馬としてはお手頃な価格で購買されている。

 この年のOBSマーチセールで日本人に購買された2歳馬は10頭いた。このうち8頭が既にデビューを果したものの、12月15日現在でこのうち勝ち上がっているのはアジアエクスプレスを含めて2頭のみだ。まだ2歳競馬も終了していない段階で結論付けるのは早計だが、超大物は潜んでいたものの、当たりを引く確率はそれほど高くはなかったというのが実情で、そういう中でアジアエクスプレスというダイヤモンドを発掘してきた関係者の慧眼には、心からの敬意を表したいと思う。

 当たりを引く確率という点で、今年の2歳世代における外国産馬を出身セール別に見てみると、最も優秀な実績を築いているのは、2歳市場の老舗とも言うべきバレッツ・マーチセールである。

 今年3月に行なわれたバレッツ・マーチセールで、日本人に購買され日本に渡った2歳馬は6頭いたが、既に全6頭がデビューを果たし、このうち5頭が勝ち馬となっている。現時点での出世頭は、新潟の新馬でデビュー勝ちをした後、門別のJpn3北海道2歳優駿2着を含めて特別の入着が3戦続いているアースコネクター(牡2、父エニーギヴンサタデー)だが、キープアットベイ(牡2、父ダンカーク)、エスメラルディーナ(牝2、父ハーランズホリデー)、ナンチンノン(牡2、父パレイディング)と、いずれも新馬戦を快勝した1戦1勝の馬が3頭おり、アジアエクスプレス級とまではいかなくとも、重賞で勝ち負けする馬は出てきそうな気配である。なかでもナンチンノンは、購買価格が7万ドルというバーゲンプライスで、この世代の「掘り出し物大賞」の有力候補と言えそうだ。

 今年のバレッツ・マーチセールは、67万5千ドルの最高価格で購買された父マリブムーンの牡馬が、コーフという競走名を与えられてG2サラトガスペシャルに優勝。2番目の高値が57万5千ドルで購買された父ダンカークの牡馬で、これが現在はハヴァナという馬名を与えられ、G1シャンパンSに優勝してG1BCジュヴェナイル2着という大出世を果たしている。すなわち、今年のバレッツ・マーチセールは、安かった馬だけではなく、高い方の価格帯の馬も期待に充分応える成績を残している。いわば老舗が底力を見せているわけで、マーケットとしての価値を改めて見直したいセールと言えそうだ。

 今年の2歳世代における外国産馬では、今週末のG3ラジオたんぱ杯2歳S(芝2000m)に登録しているシンガン(牡2、父インヴィンシブルスピリット)も楽しみな存在である。

 勝ち上がるのに3戦を要した馬だが、勝った3戦目の未勝利戦よりも、出遅れて3着まで追い込んだ2戦目の未勝利戦の内容がファンの間で秘かに話題になっている馬だ。この時に使った末脚は、上がり3F=32秒7という強烈なもので、まるで同じ父を持つ今年の欧州最優秀古馬ムーンライトクラウド(牝5、父インヴィンシブルスピリット)が、G1ラフォレ賞(芝1400m)を勝った際に使った末脚を彷彿とさせるものだった。

 シンガンは、昨年10月に英国ニューマーケットで開催されたタタソールズ10月1歳市場にて、31万ギニーで購買された馬だ。本馬の4つ年上の兄に、G1カナディアン国際(芝12F)を過去4年で3勝のジョシュアツリー(牡6、父モンジュー)がいて、3代母がG1コロネーションS勝ち馬マジックオヴライフという奥行きある血統だけに、ここで良い競馬が出来れば先々が本当に楽しみになる逸材と言えそうである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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