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十分にマイルCSの候補/京都金杯&2013年JRA賞について

  • 2014年01月07日(火) 18時00分


◆今年の展望が広がったエキストラエンド

 チャンピオン=ロードカナロアの時代が終了した1600m以下の「スピード路線」には、抜けた力量を誇るエース格は不在。とくに1600mこそベストを宣言したいエース級は、候補としてはいっぱい存在しても、核になる馬は流動的である。

 11月の「マイルCS」を鮮やかに差し切ったトーセンラー(父ディープインパクト)も、守備範囲の距離の下限が1600mであり、次走は昨年も制した2月の京都記念(2200m)になるのではないかとみられている。

 そんな中、鮮やかに1600mの京都金杯を差し切ったのは、今回が初のマイル戦となった5歳エキストラエンド(父ディープインパクト)だった。

 11月の京都開催では使用されていない最内のAコースの時計は速く、6日の「新春S」1600万条件の1600mが1分32秒8(46秒6-46秒2)であり、5日の「新馬」1600mが1分33秒8(47秒2-46秒6)である。いきなりちょっとそれるが、1分33秒8-34秒0で1-2着を争い、3着以下に9馬身もの差をつけた3歳「牡馬アドマイヤメテオ、牝馬ヤマノフェアリー」は素晴らしい。翌日、もちろん馬場状態もペースも異なるが、中山1600mの3歳新馬戦は1分37秒8だった。

 初の1600mを1分32秒5のレースレコード(それまでは09年タマモサポートの1分32秒9)で快勝したエキストラエンドは、角居調教師が「これでマイル路線というわけではない」とするように、同じディープインパクトのトーセンラーとそっくり同じで、出走守備範囲の下限が1600mというタイプだろう。

 巧みにインを通って差した内容とはいえ、トーセンラーのマイルCSが自身の上がり33秒3で「1分32秒4」だから、初めてのマイル戦を1分32秒5で楽勝したエキストラエンドは、もう十分にマイルCS候補である。秋になってマイルCSに出走すれば…、の話ではあるが。

 エキストラエンドは、マイラーズCを2勝もしたローエングリン(父シングスピール)の半弟であり、母カーリング(父はミルリーフ直仔のガルドロワイヤル)は仏オークス2100m、ヴェルメイユ賞2400m勝ちのほか、芝1600mを1分34秒3で圧勝した記録をもつ万能タイプ。まして、ディープインパクト産駒だから、今回の初のマイル戦を快時計で楽に勝ったのは驚くことでもないが、なぜここまで1600mに出走しなかったのかといえば、考えられるのは、まだ完成途上の馬体に「過度の負担をかけたくなかったから」ではないかと推測できる。

 今回、別にマイル路線に方向転換したわけではない。でも、5歳になるまで1600m戦に出走しなかったのはトーセンラーの場合とまったく同じ距離に対する考え方であり、この出走距離の選択は、角居調教師、藤原英調教師ともに鮮やかな手腕というしかない。この京都金杯快勝により、エキストラエンドの今年の展望は大きく広がった。安田記念に向かうこともできる。

 2着に突っ込んだ4歳オースミナイン(これも父ディープインパクト)は、道中はエキストラエンドと同じような手ごたえで直線に向いたが、勝ち馬と違い馬群をさばくのに苦労してしまった。ゴール前の脚色は勝ったエキストラエンドに見劣らないものがあり、今回負けはしたが、春までは1勝クラスにいたことを考えれば素晴らしい上昇である。ニフティニースや、シンゲンのファミリー出身。このあとのさらなる成長も疑いない。こちらはマイル戦【3-4-1-0】となったから、この路線を歩むと思われる。候補に加わった。

 ガルボ(父マンハッタンカフェ)は、ここで58キロは苦しいかと思えたが、敢えて先行策は取らずに差してきたのには驚かされた。翌日の中山のメインを快勝したスノードラゴンもそうだが、「冬になると絶好調」のパワー、まさに全開である。

 注目の4歳馬メイケイペガスター(父フジキセキ)は、出遅れたあと藤田騎手がロスを取り戻そうと気合をつけたようには見えなかったが、休み明けの前回は治まっているよう映った(行きたがる)気性が、モロに前面に出てしまった。かかった時点でアウト。高い能力を秘めるのは間違いないだけに残念である。次のレース選択も難しくなってしまった。

 マイネルラクリマ(父チーフベアハート)は、4歳時にこのレースを1分32秒9で勝っているが、自分でスパートして相手に脚を使わせないと苦しい先行抜け出しタイプ。伏兵評価の軽ハンデのうちはマイル戦で通用したこともあったが、マイルはその1勝だけ。現在は、もっとゆったり流れる距離でないと自分の形に持ち込めないのだろう。

◆オルフェーヴルの受賞は悪いことではないが、最優秀ダートホースには納得がいかない

 2013年の年度代表馬が「ロードカナロア」に決まった。2013年は6戦5勝。G1競走4勝。破格の成績だから文句なしの受賞である。

「最優秀4歳以上牡馬」の部門は、圧倒的な票数で年度代表馬になるくらいだから、本当はこの部門もロードカナロアなのだろうが、投票委員はやさしい。「オルフェーヴル…176票、ロードカナロア…107票」。あうんの呼吸でオルフェーヴルに票を回した。悪いことではない。

 それぞれの部門、票が割れるところは少なく、ほぼ順当な受賞になるだろうと思われたが、「最優秀ダートホース」部門の「ベルシャザール…154票、ホッコータルマエ…122票」の結果にはまったく納得できない。

 わたしは、ジャパンCダートでベルシャザールの可能性を評価して◎にしたくらいだから、声を大にして言う資格ありだと思うが、2013年の最優秀ダートホースは文句なしに、10戦【7-1-2-0】の成績を残し、GI(格)のかしわ記念、GI(格)の帝王賞、GI(格)のJBCクラシック、そしてパートI国の正真正銘のGI東京大賞典(12月29日)を勝っているホッコータルマエであり、GIIIも3勝。票の割れる理由がわからない。

 ベルシャザールは大好きな馬だが、2013年のダート戦【4-1-1-0】であり、制したGIはジャパンCダートだけ、GIIIも1勝である。たしかに、そのジャパンCダートでホッコータルマエ(3着)に勝ってはいるが、ホッコータルマエの年間成績には及ぶべくもない。ベルシャザールの方が年間成績を逆転するほど圧倒的に強いという内容でもなかった。

 何年か前、JRA賞の投票を受け付ける事務局に、どうも投票委員にふさわしくない人物も多いように思えるから、たとえば昨年だと、12月29日のGI「東京大賞典」が終了する前に投票を済ませてしまうような委員は「日本の競走体系を最初から理解していない」のだから、そんな投票ははねつけるべきではないか、と提言したことがある。

 しかし、蛙のつらになんとかで、ひどく悲しく情けない思いをしたことがある。今回、12月29日以降の投票で「ベルシャザール」に投票したのなら、それは考えた末の1票だからいい。その1票には考え方も、ポリシーもある。

 でも、まだダートGIが残っているのに投票を済ませてしまった人間はホントにいなかっただろうか? また今年も、それをなんの疑問もなく受理したJRA賞事務局員がいたのではないのだろうか?

 ベルシャザール陣営からして、これは、晴天の霹靂ではないかと思える。陣営は互いの成績も、競走体系も知っているから、決して心から喜ぶべき受賞とは思わないはずである。ホッコータルマエと、ベルシャザールは世界のランキングからして異なるのである。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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