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世界への挑戦(エルコンドルパサー)

  • 2014年01月13日(月) 12時00分
エルコンドルパサー

エルコンドルパサー





◆歴史を大きく動かした限りなく金メダルに近い銀メダル

 欧州遠征に立ちはだかる、暗くて長い長いトンネル。その闇は永遠に続くかのようだった。しかし1998年の夏、やっと一筋の光が見えた。シーキングザパール、タイキシャトルが相次いで欧州の短距離GIを勝ち、惨敗の歴史に終止符が打たれたのである。

 これを境に日本馬の海外遠征は激変していく。その草分けとなるエルコンドルパサーがデビューしたのは、同年の秋も深まった3歳の11月のことだった。デビュー戦が7馬身、翌年1月の2戦目が9馬身の圧勝。その走りはデビュー当初から次元が違い、芝にもダートにも強く、春のNHKマイルCまで破竹の5連勝を飾った。

 当時は外国産馬にクラシックの出走権がない時代。別路線を走ったが、その能力が傑出していることを証明したのは、秋のジャパンC(2400m)だった。世界の強豪馬が集い、迎え撃つ日本も年度代表馬のエアグルーヴ(2番人気)、エルコンドルパサーと同世代で日本ダービーを勝ったスペシャルウィーク(1番人気)など、そうそうたる顔ぶれだった。

 エルコンドルパサーは1800mまでしか経験がなく、2400mは未知の距離だったため、3番人気の評価だった。血統背景は欧州のステイヤー色が強く、長距離のスタミナも秘めているはずだったが、この時点では短中距離馬との見方が一般的だったのである。

 だが、いざ走ってみれば最後の勝負どころでも、騎手が手綱を持ったまま。余裕で先頭に立ってゴールインした。2着のエアグルーヴとは2馬身半差。当時としてはジャパンC史上最大の着差だった。3着のスペシャルウィークとは3馬身。3歳世代最強の評価を得るには十分すぎる着差だった。

 翌1999年、欧州に渡ったエルコンドルパサーは日本に戻ることなく、フランスで調教され、同国のレースに出ることになる。渡仏2戦目のサンクルー大賞は、凱旋門賞に向けて重要なGIレースで、欧州の強豪メンバーが集まり、しかも2400mの長距離戦だった。

 スピードは天性のものだが、スタミナは後天的な要素が左右する。「日本馬に短距離GIは勝てても、長距離GIを勝つのはまだ先のことだろう」と、欧州のホースマンはたかをくくっていた。ところが、エルコンドルパサーは楽に2馬身半の差をつけて勝ち、続く同距離のGIIレースも勝利。「今までの日本馬とは違う」。欧州のホースマンは大慌てとなった。

 そして迎えた秋の凱旋門賞は、過去、日本馬が惨敗の歴史だったにもかかわらず2番人気。欧州メディアの評価も一変していた。スタートダッシュが良く、押し出されるように先頭に立ったエルコンドルパサーは、覚悟を決めて逃げて逃げて逃げまくった。

 凱旋門賞を逃げて勝つのは至難のわざと言われる。ところが、最後の直線半ばでは、さらに後続を突き放す強さ。勝利は確実と思われた。と、そのとき4歳馬で斤量の軽いモンジューが馬群をこじ開け、猛然と追い込んできた。ゴール寸前、エルコンドルパサーはついにつかまり半馬身差の2着に敗れた。日本悲願の凱旋門賞制覇は、幻となって消えたのである。

 しかし、古馬のエルコンドルパサーの斤量が59.5キロであったのに対し、4歳馬のモンジューは56キロ。この斤量差が勝負の明暗をわけたことは、欧州メディアも認めている。それでも3着以下をはるか後方に退けたのだから、限りになく金メダルに近い銀メダルだったと言えるだろう。

 これに勇気づけられ、自信を得た日本は以後、積極的に海外進出することになる。エルコンドルパサーの限りなく金メダルに近い銀メダルが、歴史を大きく動かしたのだった。(吉沢譲治)


◆レース詳細
1999年10月3日
第78回 凱旋門賞(GI) ロンシャン/芝右 2400m/天候:晴/芝:不良

1着 モンジュー      牡4 56  M.キネーン
2着 エルコンドルパサー  牡5 59.5 蛯名正義
3着 クロコルージュ    牡5 59.5 T.ジャルネ

◆競走馬のプロフィール
エルコンドルパサー(牡5)
父:Kingmambo
母:サドラーズギャル
騎 手:蛯名 正義
調教師:二ノ宮敬宇(美浦)
馬 主:渡邊 隆氏
生産牧場:Takashi Watanabe
※年齢は当時の旧年齢表記

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