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種牡馬入りが発表されていたヴェラザーノがオブライエン厩舎に転厩して現役続行

  • 2014年02月05日(水) 12時00分


◆自分の競馬が出来た時には「規格外の強さ」を発揮するのがヴェラザーノという競走馬

 昨年一杯で現役を退き種牡馬入りが発表されていたヴェラザーノ(牡4、父モアザンレディー)が、引退を撤回。ヨーロッパに移籍して現役を続行することが明らかになった。

 ケンタッキーのミドルブルックファームにて、エモリー・ハミルトン女史の生産馬として生まれたヴェラザーノ。祖母シックシラインがG1アッシュランドSの勝ち馬で、母の兄弟には2頭の重賞勝ち馬がいる上、従兄弟にG1ゴーフォーワンドS勝ち馬セラレイクがいるという、なかなかに活気のある牝系を背景に持っていたが、母自身は未勝利馬だったことから、1歳秋のキーンランド・セプテンバーセールにエントリーした時にはブック2に振り分けられ、セール4日目に上場番号757番として登場。ブライアン・サリヴァンとケヴィン・スカトーチオの義兄弟を中心としたレッツ・ゴー・ステーブルに25万ドルで購買された。

 ヴェラザーノの1つ上の兄で、母インシャンテッドロックの初仔にあたるエルパドリーノが、G2リズンスターSを制したのは翌春のことだったから、ヴェラザーノの25万ドルというのはいろいろな意味で、飛びきりのバーゲン価格だったと言えそうだ。

 トッド・プレッチャー厩舎の一員となったヴェラザーノのデビューは13年1月1日にガルフストリームパークで行なわれたメイドン(d6.5F)で、ジョン・ヴェラスケスを背に7.3/4馬身差の圧勝でデビュー勝ち。続いて2月2日に同じくガルフストリームパークで行なわれた条件戦(d8F)に駒を進めたヴェラザーノは、ほとんど馬なりのまま2着馬に16.1/4馬身差をつける極上のパフォーマンスを見せ、ケンタッキーダービー戦線に突如現れた超新星としてファンの耳目を集める存在となった。

 ここですかさず動いたのが、アイルランドを中心に競馬と生産の事業を世界的に展開しているクールモアグループだった。この段階で、ヴェラザーノの権利の半ばをレッツ・ゴー・ステーブルから買収。以降のヴェラザーノは両社の共同所有馬として競馬をすることになった。

 続くG2タンパベイダービー(d8.5F)を3馬身差で制して重賞初制覇を果たすと、次走のG1ウッドメモリアルS(d9F)では、着差こそ半馬身というわずかなものとなったものの白星で通過し、ヴェラザーノは有力馬の1頭としてG1ケンタッキーダービー(d10F)に向かうことになった。

 泥田のような馬場が応えたか、あるいは、10Fという距離が長かったのか、ケンタッキーダービーで14着と大敗して連勝が止まったヴェラザーノだったが、ひと息入れて出走したモンマスパークのG3ペガサスS(d8.5F)では本来の輝きを取り戻して9.1/4馬身差の快勝。続いて出走したモンマスパークのG1ハスケルインヴィテーショナル(d9F)も9.3/4馬身差で圧勝し、ウッドメモリアルSに続く2つ目のG1制覇を手中にした。

 ここまでの戦績が示すように、自分の競馬が出来た時には「規格外の強さ」を発揮するのがヴェラザーノという競走馬だった。

 その一方で、競走条件を含めて、自分の競馬ではなかった時には目を覆いたくなるような体たらくを演じる「脆さ」も持った馬で、再び10Fの距離に挑んだG1トラヴァーズS(d10F)では7着に敗退。その後、古馬と対戦したG1BCダートマイル(d8F)が4着、G1シガーマイル(d8F)が3着だったから、多少なりとも竜頭蛇尾のそしりを免れない成績で3歳シーズンを終えていた。

 クールモアのケンタッキーにおける拠点であるアシュフォード・スタッドで今年の春から種牡馬入りし、その後は、父モアザンレディーが多くの活躍馬を出しているオーストラリアにシャトルされるというのが当初発表されていた予定で、ヴェラザーノは2014年版のブラッドホース・スタリオンレジスターにも新種牡馬として掲載されていた。

 ところが、北半球の種付けシーズンが間もなくスタートしようという2月2日(日曜日)、レッツ・ゴー・ステーブルが持っていた権利をクールモアグループが買収し、ヴェラザーノが100%クールモアの所有馬となったことと、アイルランドのエイダン・オブライエン厩舎に転厩しての現役続行が発表されたのだ。

 欧州の重賞勝ち馬が、手薄な北米の芝戦線を狙って欧州から北米に移籍するという例は少なからずある一方、北米のトップホースが欧州に移籍するというのは、滅多に見られぬ事例だ。ましてやヴェラザーノは、ここまでの9戦がすべてダートのレースで、オールウェザートラックを走った経験もない馬である。

 ただし、父モアザンレディーも、母の父ジャイアンツコーズウェイも、芝・ダート双方で活躍馬を出している二刀流の種牡馬であること、ヴェラザーノの配合にはノーザンダンサーの4×5というインブリードが内包されていること、3代母の父としてブラッシンググルームを保持していることなど、ヴェラザーノの血統には芝適性を示唆するファクターを見つけることが出来る。

 いずれにしても、急転直下の方針変更には、いくつかの背景があったことが推察される。

 まずは、前述したように、3歳シーズン後半の成績がイマイチだったことから、新種牡馬ヴェラザーノに対する生産者の期待が、アッシュフォードの目論見ほどには高まらなかった可能性はある。

 その一方で、チャンピオン牝馬モアジョイアス、トップスプリンターのサマレディ、ニュージーランドオークス馬モアザンセイクリッドらの出現にとって、オセアニアでの評価が益々上がっているのが、ヴェラザーノの父モアザンレディーだ。ビジネス感覚に長けたクールモアが、種牡馬ヴェラザーノは「オーストラリアで商売をしよう」という戦略に転換したとしても、不思議ではない環境が出来上がっている。

 芝で実績を挙げることが出来れば、オーストラリアにおける種牡馬として価値が更に高まることは必至で、それならばトライする意味が充分にあるというのが、欧州における現役続行を決めたクールモアの真意であろう。

 ヴェラザーノの持つスピードが芝でどう活きるかは、ファンである私たちも見てみたいところだ。おそらくは、ロイヤルアスコットのG1クイーンアンS(芝8F)あたりが最大目標になろうが、その動向に注目したい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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