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英国と愛国における障害サイヤーランキングで首位を独走しているキングズシアター

  • 2014年02月19日(水) 12時00分


◆晩成型の産駒が多く人気は下降していったが徐々に増えていった障害用種牡馬としての需要

 欧州の障害シーズンも後半戦を迎え、ハイライトとも言うべきチェルトナム・フェスティヴァルの開催(3月11日〜14日)まで残すところ3週間を切るところまで戦線が進んできた。フェスティヴァル期間中に施行される、ハードル6、スティープルチェイス6、ナショナルハントフラット1の13のG1を含む20の重賞競走へ向けた前哨戦もほぼ終了し、各競走の勢力分布が固まりつつある。

 そんな中、英国と愛国における障害のサイヤーランキングで首位を独走し、話題となっている種牡馬がキングズシアターだ。

 キングズシアターと聞いて、ひょっとするとあの馬かと、引き出しのかなり奥の方にある記憶にロックオンする方が、20年以上競馬を御覧になっているベテランの中には、かなりおられることと思う。

 そうです、確かに、マイケル・キネーン騎手を鞍上に出走した94年のG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスSで、武豊騎手の乗るホワイトマズルを2着に退けて優勝を飾った、あのキングズシアターで間違いではない。

 91年生まれで、存命であれば23歳を迎えているこの馬が、レイシングポストの集計による13/14年シーズンのサイヤーランキングで171万4904ポンドを獲得し(2月16日現在)、2位のベネフィシャルに32万ポンド以上の差をつけ首位をひた走っているのだ。存命であれば、と記したのは、11年6月13日に疝痛の発作を発症し死去しているからだ。翌12年春に生まれた現2歳世代が、キングズシアターにとって最後の世代となる。

 キングズシアター(父サドラーズウェルズ)は、88年の欧州2歳チャンピオン・ハイエステイト(父シャーリーハイツ)の半弟として、91年5月1日にアイルランドで生まれている。名門ヘンリー・セシル厩舎に入厩した同馬は、生産者マイケル・ポーランド氏の所有馬として2歳7月にデビュー。2戦目に初勝利を挙げた後、3連勝でG1レイシングポストトロフィー(芝8F)を制し、ダービーの有力候補と目される存在となった。

 この段階で、シェイク・モハメドがトレードで獲得し、殿下のマルーンの勝負服を背に走ることになったキングズシアター。残念ながら大目標だったG1英ダービー(芝12F10y)は、強靭な末脚を繰り出したエルハーブの2着に惜敗。続くG1愛ダービー(芝12F)では牝馬バランチーンの後塵を拝してまたも2着に泣いた後、駒を進めたG1キングジョージで、前年のキングジョージと凱旋門賞でいずれも2着に入っていたホワイトマズル、G1コロネーションC(芝12F10y)、G1サンクルー大賞(芝2400m)を連勝しての参戦だったアップルツリー、ダービーでは先着を許したエルハーブらを退けて優勝。自身2度目のG1制覇を果たすことになった。

 そして、結果的にはこれがキングズシアターにとって、現役時代に挙げた最後の勝利となった。北米のビル・モット厩舎に移籍した4歳時は3戦0勝。ゴドルフィン入りしてサイード・ビン・スルール厩舎に在籍した5歳時も2戦0勝に終わり、5歳シーズン一杯で引退。97年からアイルランドのバリーリンチスタッドで種牡馬として供用されることになった。

 種牡馬としては、G1ジュライCやG1モーリスドゲスト賞を制してフランスで種牡馬入りしたアナバー、G1エクリプスS、G1インターナショナルSをいずれも2年連続で制してニューマーケットで種牡馬入りしたホーリング、G1ナンソープSを制してニューマーケットで種牡馬入りしたピヴォタル、G1ホープフルSなどを制してケンタッキーで種牡馬入りしたヘネシー、G1イズリンHなどを制してケンタッキーで種牡馬入りしたスマートストライクらと同期生となる。

 ちなみに、12のG1を制して現役を退いたシガーに、授精能力がないことが判明するというショッキングな出来事が起きたのも、97年の春であった。

 種牡馬入り初年度からオーストラリアのグレンローガンスタッドにシャトルされたキングズシアターは、オーストラリアにおける初年度産駒からG2アリスタークラークS勝ち馬ロイヤルコードが出現。北半球における3年目の産駒から、G1スウォードダンサーS勝ち馬キングスドラマが出るなど、そこそこの実績を築いたが、キングズシアター自身は2歳戦から動いたのに、産駒はほとんどが晩成型だったことから、残念ながら人気は急速に下降していった。

 その一方で、徐々にではあったが増えていったのが、障害用種牡馬としての需要だった。

 北半球における2年目の産駒の1頭であるナスナリオーが、02年12月にチェプストウのG1フィナーレジュヴェナイルハードルを制覇。03年5月には初年度産駒の1頭であるノーバディートールドミーがパンチェスタウンのG1チャンピオンノーヴィスハードルに優勝。更に、06年12月には4年目の産駒の1頭であるウィチタラインマンがニューバリーのG1チェイロウノーヴィスハードルを制覇と、散発的ではあったが着実に大物を出しているうちに、集まる繁殖の質も良くなっていったのであろう。種牡馬キングズシアターが本当の意味で大きな注目を集めたのが、現役を退いてから10年以上が経過した、10年3月に施行されたチェルトナムフェスティヴァルだった。

 開催初日に、8年目の産駒の1頭であるメノラーが、G1シュプリームノーヴィスハードルに優勝。続いて2日目には、9年目の産駒の1頭であるキューカードが、G1チャンピオンバンパーを快勝。更にこの開催では、7年目の産駒の1頭であるヴォ−ラヴェデッテがG2メアズハードルで3着に入り、障害用種牡馬キングズシアターの名が一躍脚光を浴びることになった。

 そのヴォラーデヴェデッテも、翌年フェアリーハウスのG1ハットンズグレイスハードルを制してG1勝ち馬の仲間入りを果たしている。

 11年のチェルトナムフェスティヴァルでは、ヴォ−ラヴェデッテと同じ7年目の産駒のキャプテンクリスが、G1アークルチャレンジトロフィーを制覇。

 11年の暮れには、9年目の産駒の1頭であるフィンガルベイが、G1チェイロウノーヴィスハードルを制覇。

 更に、こちらもまたまた7年目の産駒となるリヴァーサイドシアターが、11年・12年とG1アスコットチェイスを連覇した上に、12年のチェルトナムフェスティヴァルでG1ライアンエアチェイスに優勝。

 そして13年の春には、前出のキューカードがG1アスコットチェイスと、チェルトナムフェスティヴァルのG1ライアンエアチェイスを連勝。更に11年目の産駒になるザニューワンが、チェルトナムフェスティヴァルのG1バーリングビングハムノーヴィスハードルに優勝と、2010年以降のキングズシアターは立て続けに大物を輩出しているのだ。

 こうして迎えた13/14年シーズン、ザニューワンがチェルトナムのG2インターナショナルハードルを制した後、ケンプトンのG1クリスマスハードルで2着となって、今年のフェスティヴァル開催におけるG1チャンピオンハードルで、1番人気を争う存在となっている。

 キューカードもまた、ヘイドックのG1ベットフェアチェイスを制して自身4度目のG1制覇を果した後、ケンプトンのG1キングジョージ6世チェイスで2着となって、フェスティヴァル開催のG1ゴールドCの上位人気に。

 そしてキャプテンクリスが、2月15日に行なわれたG1アスコットチェイスを制して自身3度目のG1制覇を果たし、こちらもG1ゴールドCの上位人気に顔を出すなど、大駒たちがそれぞれ応分の活躍を見せることで、父キングズシアターはリーディングサイヤーランキングの首位を快走している。

 この他、今季初戦のG1キングジョージ6世チェイスでは競走中止に終わったものの、立て直しを図ってフェスティヴァル開催のG1ライアンエアチェイス出走を目指しているメノラー。G3・3勝馬でフェスティヴァル開催のG1クイーンマザーチャンピオンチェイス出走を目指すベイリーグリーン。2月9日にエクセターで行なわれた条件戦で1年4カ月振りの勝ち星を手にし、フェスティヴァル開催のG1ワールドハードルを目指しているフィンガルベイなど、豊富な手駒を擁しているのがキングズシアターだ。

 奇しくも、94年のキングジョージでキングズシアターに惜敗したホワイトマズルの、16年目の産駒からバンドワゴンというクラシック候補が出現した今年の春。チェルトナムフェスティヴァルでキングズシアター産駒がどんな活躍を見せるか、日本の皆様もぜひご注目いただきたい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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