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名馬のふるさとステーション

  • 2003年10月14日(火) 15時45分
 10月に入って、私の元に複数の競馬ファンから、この「名馬のふるさとステーション」(門別町)に関するメールが届き始めた。

 この施設は、いわゆる「功労馬が余生を送る」ための施設で、上野育成牧場場主・上野康氏の所有である。先月24日、この上野康氏が理事長を務める「北海道ホースマンアカデミー」(競走馬厩務員養成のための専修学校)で、在校生65人全員が休学届を提出し、寮から退出、学校が事実上「休校状態」に陥っているとの報道が地元紙に大きく報じられた。この学校の生徒たちが実習を兼ねて名馬のふるさとステーションに在厩している馬たちの管理も行っていたことから、「生徒のいなくなった後はいったい誰が馬の面倒を看ているのか」との声が徐々に高くなってきたわけである。

 同ステーションには、G1馬のグルメフロンティア、フジノマッケンオー、マイシンザン、ラガーレグルス、タヤスアゲイン等々計18頭が管理されており、会員(年会費1万円)に限り、見学を許可している。現在の会員数は、約300余人。

 会員の分布は不詳だが、おそらくは本州在住の競馬ファンがほとんどだろう。好きだった馬がたまたまこの施設にいることが分かり、年会費を支払って会員になったという人も多いはず。あるいは、特定の馬に対する深い思い入れはなくとも、名馬の余生の面倒を看るという趣旨に賛同しての入会者も少なくないと思われる。

 しかし、アカデミーの休校が表面化した先月末以降、このふるさとステーションが開設しているHP上にも様々な書き込みが現れるようになり、それを閲覧した会員からも、この施設の内情について不安視する声が徐々に高まってきたわけだ。

 私自身、このステーションとは何ら接点のない立場だが、幾人もの人々から、施設内の馬の様子を見て来て欲しいという依頼や要望があり、さる10日(金)に、友人を介して見学させていただいた。

 この時点では、とりたてて在厩馬たちの健康状態に著しい問題点は見出せず、スタッフの説明により、飲料水や飼料などは普通に与えられていることが確認できた。

 折りしも、この前後に、会員には書面でこのふるさとステーションの現状を伝える文書が届けられ、「名馬のふるさとステーションは、しばらくの間、場所を移動する」旨の通知がなされたという。そして、移動は私の訪問した10日夕刻から実施され、現在は、近隣の上野育成牧場分場にて、12頭の馬たちがグループ放牧されているそうだ。どの馬とどの馬なのか、までは確認できないが、11日にここを訪れたある会員によれば、確かに12頭が昼夜放牧で一ヶ所の放牧地に管理されているとの説明を受けたとか。

 会員に届いた文書には、名馬のふるさとステーションの資金面についても触れている。会費と入会金、及び個人からの餌代などで計350万円前後の収入に対し、支出は概算で一頭毎月5万円、12頭で年間720万円が必要となり、会員からは経費の半分程度しか調達できていない現状を伝えている。「私たちが少人数でできる最大限のことをしているつもりです」と書かれている文書を読んで、会員各位の反応は様々らしい。「昼夜放牧などもってのほかだ」「12頭まとめての放牧は無理ではないか」と危惧する声もあり、まだしばらくは、ここに繋養されている「名馬」たちの余生についての議論が続くだろう。いずれにしても、馬たちの環境が変り、今後どのような状態で飼養管理されて行くのかが多くの会員の最大の関心事となっている。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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