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過怠金10万円よりもずっと素晴らしい価値のある勝利/高松宮記念

  • 2014年03月31日(月) 18時00分


◆コパノリチャードは総合力の高い短距離馬

 予想以上の降雨量にたたられ、芝コースは早い段階から不良の発表。午後になるとただ含水量が多いだけの不良馬場にとどまらなくなってしまった。記録された勝ちタイムは、1分12秒2(34秒5-37秒7)。1200mで馬場差は4秒前後もあったことになる。

 快勝した4歳コパノリチャード(父ダイワメジャー)は、好スタートから飛ばすエーシントップの2-3番手につけ、直線は内から馬場の中ほどに進路を変える余裕すらみせ、ゴール前はM.デムーロ騎手がしばらくぶりの飛行機ポーズをみせる3馬身差の完勝だった。

 直前の追い切りで少しヨレはしたが、「重い馬場をこなして力強い動きをみせていたから、チャンスだと思った」というM.デムーロ騎手の素晴らしい騎乗に加え、波にのる小林オーナーの運気の強さ=生産したヤナガワ牧場とのコンビのツキは、フェブラリーSのコパノリッキーにつづく連続のGI制覇をもたらした。

 先団は馬群が密集しなかったこと、1200mが初めてだったコパノリチャードにとって強い勝ち方をする1400mと同じような総合力が求められたこと、馬場を苦にしたライバルが多かったことなど、状況はことごとく有利に展開していた。

 しかし、タフな芝コンディションの高松宮記念を圧勝した能力は絶賛されていい。コパノリチャードは1400mを楽々と1分20秒台で乗り切る軽快なスピードもあり、1分33秒0のタイムを持つ1600mでも勝っている。総合力あふれる短距離タイプである。

◆ダイワメジャー産駒は春に大きく変わる

 父ダイワメジャー(M.デムーロ騎手の皐月賞などGI5勝)の産駒は、少し時計がかかるくらいのマイル戦以下を得意とする代わり、あと一歩の鋭さを欠くことが多い。ここまでのGI勝ち馬がカレンブラックヒルだけにとどまるので、ビッグレースではあと一歩が物足りないダイワマッジョーレ、エピセアローム、エクセラントカーヴ、ダローネガなどが代表するイメージが濃かったが、ダイワメジャー自身(スカーレットインク一族)がそうだったように、その産駒の真価発揮もまた、古馬になってひと回り成長し、パワーアップしてからなのだろう。

 これからは、母スカーレットブーケ(その父ノーザンテースト)の代表産駒らしいイメージを前面に出す種牡馬になってくれるにちがいない。この日、阪神の重馬場でも代表産駒の1頭オリービン(母シャンクシー)が、得意の阪神で距離1400mを非常に強い勝ち方をした。あくまで総じての印象だが、ダイワメジャーの産駒たちは変身の要求される春に合っているのかもしれない。春に大きく変わるのはクラシック向きの種牡馬である。

 コパノリチャードは、母の父トニービン。祖母はカーリアン産駒。4代母は1979年の英オークス馬。実際はともかく、イメージは最初から重馬場など平気である。M.デムーロ騎手の飛行機ポーズは、どうやらサンライズマックスなどに続き3回目らしい。それで過怠金ははねあがって、10万円。でも、(危険とされるのは知っていたけれど)GIレース快勝の喜びは、そんなことを忘れさせてしまったのである。「御法について…」といい出せば、まあそうなるだろうが、M.デムーロのあの歓喜のパフォーマンスには、10万円よりもっとずっと素晴らしい価値があることをファンは知っている。小林オーナーはニコニコ笑って、JRAに払ってあげてください。

◆人気で3着もストレイトガールは立派、ハクサンムーンは進化の可能性も

 2着にすごいフットワークで追い込んできたのは、もうすっかり芝のレースを思い出した6歳馬スノードラゴン(父アドマイヤコジーン)。もともと芝はOKとはいえ、1200mの持ちタイムは1分09秒1。1400mのそれは1分22秒5にとどまるから、今回の快走は時計を要する芝コンディションと、不良馬場の影響が少ない外枠が味方したのは間違いないが、豪快なストライドはますます迫力を増している。充実度、現在のデキの良さが、最後の1ハロン「13秒2」と落ち込んだところで爆発してみせた。まったくイメージは異なるが、4代母はロイヤルサッシュ(その父プリンスリーギフト)。いま、もっとも著名牝系のひとつステイゴールド(3代母がロイヤルサッシュ)のファミリーから出現した異才になる。

 人気で3着にとどまったストレイトガール(父フジキセキ)は、少々の重馬場ならこなせただろうが、馬場差推定1200mで4秒もの不良馬場で、最後は脚が上がって1分12秒9。パワーも備えているとはいえ、1200mに良績の集中する牝馬とすれば、今回は最後に失速というレース短評はふさわしくなく、立派な好走とすべきだろう。

 好スタートから、内からダッシュするはずのハクサンムーン(同じ西園厩舎は出負け)が見えないから、それなら競ることないことを確認して一気にハナを奪って見せ場を作ったエーシントップ(父テイルオブザキャット)は、惜しかった。あの形になったら、最内に進路をとって粘り込みを図る作戦はありである。自身の前後半「34秒5-38秒4」=1分12秒9。コパノリチャードに交わされなければ、寸前まで勝機があったかもしれない。

 他の注目馬は、ほとんどが「この馬場では…」の敗因になるのは、さすがに今回は仕方がない。とくに内枠の馬は苦しく、馬番ひとケタの馬の10着以内は3頭だけだった。

 期待に応えられなかった組の中で、まったく自分の形にならずに5着に押し上げてきたハクサンムーン(父アドマイヤムーン)は、ずっと外を回って馬群に入らなかったからとはいえ、一応、差す形で善戦したのは褒められていい。トップランクなら、どういう位置取りになっても能力が発揮できるのが真のスプリンターであるから、「他馬を怖がるからどうしてもハナを切りたい」という条件付きの馬から、これで進化してくれる可能性も見えてきた。中間の調教、回転パフォーマンスの動きからは、まだ完調とは思えない。この夏の活躍が楽しみである。

 体を絞って(マイナス16キロ)気配上々のリアルインパクトは、「位置取りは予定通りだったが、のめって仕方がなかった――戸崎騎手」のコメント通りだったろう。

 これで新・中京の「高松宮記念」は、1分10秒3(良)→1分08秒1(良)→1分12秒2(不)となり、まだまだ基準が2013年の1分08秒1(変形バランスの34秒3-33秒8)とは思えないところがある。このあと7月のCBC賞、12月の尾張S,そして来年の高松宮記念も難解なレースが展開されるのだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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