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森田直行調教師(4)『矢作調教師との強い絆、ふたりで大きな夢を叶えたい』

  • 2014年05月26日(月) 12時00分
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家族や周りの方々の支えを力に、11年もの受験生活を見事に実らせた森田直行調教師。厩舎開業までの1年間は“技術調教師”として、親友の矢作芳人厩舎で修業をすることになりました。新人調教師にとって、厩舎経営のノウハウを学んだり牧場を回ったりと、大切な1年間。そこで森田師は、人一番貴重な経験をしたといいます。今春、晴れて自分の城を持った森田師。未来に心躍らせる今、親友と叶えたい夢があります。(第3回の続き、聞き手:東奈緒美)

◆矢作流の馬集めを肌で感じて

 調教師試験に合格された後、厩舎開業までの1年間は矢作芳人厩舎で技術調教師として働かれたんですよね。

森田 僕は馬に乗れないですから、ほかの厩舎では雇ってもらえないんですよ。こんな僕を雇ってくれる人は、矢作さんしかいないです(笑)。

 矢作先生も、森田先生と働くのはうれしかったでしょうね。そもそも、仲良くなられたきっかけはなんだったんですか?

森田 知り合った当時、矢作さんが工藤嘉見厩舎の助手で、僕が長浜彦三郎厩舎の厩務員で、厩舎が同じブロックだったんです。それで、馬の運動中に一緒になるようになって、仲良くなって。年も1つ違いで近いですし、二人とも酒好きですしね(笑)。

 矢作先生は活躍されているトップの調教師さんですし、勉強するところもいっぱいあったんじゃないですか?

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▲森田師と29年来の親友という矢作芳人調教師


森田 それはもう。人との付き合い方、馬主さんとどういうふうに付き合ったらいいかというのを教えてもらいました。そこは僕の一番知らないところでしたから、すごく勉強になりましたね。それになにより、牧場をたくさん紹介してもらいました。普通なら新人調教師が1人で行ったところで、なかなか相手にしてもらえないですよ。ましてや、厩務員出身の自分が行っても、到底無理だったはずです。

 元ジョッキーで人脈があるとか、そういうのがないとなかなか難しいって聞きます。

森田 ええ。矢作さんと一緒に回ったおかげで、いろんな牧場の方と知り合えて、今こうして馬がたくさん集まりました。1歳も預けてもらえるということですし、矢作さんのおかげですね。矢作さんが「俺が1年目のときは、こんなええ馬集まらなかったぞ」って怒るぐらい(笑)。本当に恵まれています。

 その感謝をお酒でまた返して(笑)。でも、そう言いつつも助けてくださるのは、森田先生が何かを持っていらっしゃるからだと思います。それに、調教師さんが慕われるお人柄の方が、スタッフさんも「自分が頑張って先生を支えよう」って思って働けそう。

森田 そうだからかは分からないですけど、うちのスタッフって、前の厩舎で全然働かなかったとか、遅刻が多いとか、馬に乗れないといううわさの人が何人かいたんですけど、今ではみんな、馬にちゃんと乗れるし、遅刻はしないし、人の仕事まで手伝っていますからね。「こいつら、すごいな」って思うんです。

 何か秘密があるんですか!?

森田 いや、何もしてないですよ。和気藹々と楽しい雰囲気で、手が空いていそうだったら「手伝ってあげて」とか声をかけたりして。必要以外のこと言わないんです。ただ、隠し事がないようにというのは気をつけています。そのためには、威圧した態度は取らない。

馬の脚が腫れてしまったという時に自分が話しかけにくい存在だと、「怒られるんじゃないかな」って、ちょっとぐらいの腫れだったら隠してしまうかもしれない。でも、それで取り返しのつかないことになる場合もあります。そういう事はなくしたいので、常に話しかけています。今では、向こうからなんでも話してくれますよ。「そんなことまで相談せんでもええぞ」っていうことでも(笑)、話してくれますね。

 皆さんやりがいを感じて、自分で考えて動いてくれているんですね。

森田 みんな、「前の厩舎より忙しいけど楽しい」って言うし、「やりがいがある」って言ってくれるから、うれしいですね。

 それがまた成績につながっていけば、さらに士気も上がりますね。そう言えば、森田厩舎の“後援会”があるそうですね。

森田 そうなんです。昔からの知り合いが作ってくれて、関東関西でそれぞれ60人くらい。北海道支部も作りたいと言ってもらっているんです。

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▲厩舎のロゴ、ハートと蹄鉄をモチーフに、それぞれ「M」と「N」ともかけている


◆ふたりで凱旋門賞に行きたい

 実際、調教師になられてお忙しい毎日だと思うんですけど、今のお気持ちってどうですか?

森田 楽しいですね。開業したらいろいろ気を遣うって聞いて、そうなのかなと思っていたんですけど、僕は全然気を遣ったことはないんです。むしろ、馬主さんと一緒に飲んだりするのが楽しい。この前、11時ぐらいまで飲んでいて、パッと目が覚めたら着信があるから、「オーナー、こんな時間になにかあったんですか?」って電話したら、「飲んでるから来いよ」って。それで3時ぐらいまでまた飲んで。そうやって誘ってもらうこと自体がありがたいですし、飲んで大騒ぎして踊ったりしていると、オーナーもゲラゲラ笑ってくれますしね。

 すごく接待上手じゃないですか(笑)。

森田 やっぱりそうじゃないとダメだと思うんですよ。初めは僕も緊張していたんですけど、そうするとみんなよそよそしくなるんですよね。「これではダメだな」と思いました。それで、真面目にかしこまっているんじゃなくて、素の自分で接しようと思って、飲んでいるときに大騒ぎしてみたら、みんな大喜びしてくれたんですよ。「あぁ、これでいいんや」って。

 みんな、楽しくなりたいから飲むんですもんね。オーナーさんからしても、フランクに接してもらえるのが新鮮なのかもしれませんね。

森田 この前パドックにある大物のオーナーがいらして、みんな緊張するわけですよ。そのオーナーが僕の所に来るから、みんな「なんだ?」と思ったみたいなんですけど、馬の話をしているかと思いきや、意外とくだらない話をしていたり(笑)。

 森田流の付き合い方が確立されていますね。

森田 ただね、矢作さんに言われるんです。「大騒ぎしたりするのはええけど、酔って馬主さんに変なこと言うなよ。それだけが心配や」って。なので、そこはちゃんと気をつけています。

 最後に、これからどんな厩舎にしていきたいですか。

森田 まずは馬主、生産者、その馬に関わった人みんなに喜んでもらえるような馬作りをしたいですね。あとは、これは開業時にみんなに言ったんですけど、昔って厩務員同士がライバルみたいな感じで争っていたんですけど、うちの厩舎では厩務員同士は争わずにいてほしい。

本当のライバルは他の厩舎であり、大きいことを言うようですけど、世界の厩舎がライバルですから。そういう気持ちを持ってやってほしいなと。最終的には、矢作さんとふたりで凱旋門賞に出たいですね。

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▲森田「夢は矢作さんとふたりで凱旋門賞に出ることです」


 素敵な目標ですね。

森田 これからもね、矢作さんとは協力してやっていきたいんです。開業前は、ちょっと心配もしていたんです。開業したらライバルなわけですから、牧場も1人で回らないといけないのかなと思って。そうしたら、一緒に飲んでいる時に「森田、開業してからも一緒に牧場回りしような」って。受かる前から「俺はな、あんたと一緒に牧場を回って、温泉に入ったりしたいねん」って言ってくれていたんです。ありがたいですね。

 厳しい勝負の世界で、お互いに高め合えるって素晴らしい関係ですね。これからも注目していますので、頑張ってください。(了)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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