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「(ダービー制覇を)夢で終わらせたくない」橋口調教師にインタビュー

  • 2014年05月27日(火) 18時00分
競馬の職人




 オークスでハープスターが残り1ハロンをものすごい勢いで駆け上がってきた時には「イケイケー!」とこぶしを握り、ゴール板を突き抜ける瞬間は息を呑みました。終わってみれば歓声とため息が入り混じり複雑な心境。勝ったヌーヴォレコルトは落ち着いていて、最後までしっかり脚をため抜け出してから粘る勝負強さを発揮し、見事でした。

 さあー、いよいよ今週はダービーウイーク。今年のダービーに出走する11年産まれのサラブレッドは、7123頭。その頂点に立つのはどの馬か? ダービー馬は、ダービー馬からと・・・父母から仔へ血統を未来へ受け継がれていくことが競馬史の深さを感じます。

 2005年にダービーを制覇したディープインパクトの仔が2012年、2013年と連続制覇を成し遂げています。もし今年もディープの仔が制覇したら3連覇となります。1998年から2000年にはサンデーサイレンスの仔が3連覇していますが、これも歴史的快挙ですよね。

 そして今年は2005年有馬記念、2006年ドバイシーマクラシックを勝利したハーツクライの仔に注目したいと思います。ハーツクライの仔といえば、2013年天皇賞・秋、2014年ドバイデューティフリーを勝利したジャスタウェイ、先週オークスを制覇したヌーヴォレコルト、そして今週ダービーに挑むワンアンドオンリーと今年も活躍しています。

今回はワンアンドオンリーをダービーへ送り出す名伯楽・橋口弘次郎調教師に密着です。

常石 ハーツクライがディープに先着した唯一の日本馬。そしてドバイシーマクラシックをも制覇している凄い馬でしたね。そのハーツのこどもたちが大活躍し楽しみです。

橋口 そうだね。他の厩舎の馬でも活躍してくれるのは嬉しいね。特にジャスタウェイは、ハーツと同じドバイの地でGI勝って、まして日本の騎手であるユーイチで勝ったのは喜んでいますよ。

常石 今年のダービーはワンアンドオンリーでチャンスがやってきましたね。ダービー挑戦は9度目ですか? ダービーに1999年から2006年まで8年連続で出走させることは凄いことですよね。

橋口 いやいや・・・なかなか勝てないです。でもね、ダービーに出せる有力馬がいるということがよろこびです。出すだけではなくひょっとしたら・・・チャンスあるぞーと思えることがいいじゃないの。

競馬の職人

ワンアンドオンリーにニンジンを与える橋口調教師



常石 ダンスインザダーク・ハーツクライ・リーチザクラウン・ローズキングダムと4度の2着と悔しいレースでしたね。僕が特に覚えているのがダンスインザダークです。

橋口 長いことやってきましたが、やっぱりダンスインザダークの思い入れが深いね。故障してしまって残念なことになったが、僕の中では、今でも世界に通じる最強馬だと思っています。ダークはデビュー初戦からダービーを視野に入れてのローテーションで競馬をやってきました。

 遅生まれだったので成長もちょっとゆっくりだったかな。ダービートライアルのプリンシパルSを勝ってダービーへ。そのダービーでは皐月賞馬を抑えて1番人気。直線で先頭に立ち後続を突き放していったので「よっし!」と確信した瞬間フサイチコンコルドに交わされてしまった。

 このときは負けるなんて考えてなくどんな勝ち方をするのかと思っていたんだよ。

 頭の中が真っ白になってしまったね。後から思えばコンコルドは強い馬だと思っていたが前哨戦で出会わなかったのでマークが薄かったかもしれないですね。今でも悔しい一戦です。

 春の悔しさを晴らすべく、クラシック最終戦・菊花賞ではいろんな不利を受けながら見事に1冠を制してくれました。あの時の武豊騎手の手綱さばきは見事でしたね。

ダービーには、ずっとこだわってきましたからね。ダービーに始まりダービーで終わるのがこの世界だと思ってますよ。(笑い)

常石 競馬界の最高峰ですしね。ベテラン騎手でもダービーは緊張し、ちょっと違うといいますね。そんなダービーに今年もハーツの仔、ワンアンドオンリーで臨むお気持ちはいかがですか?

橋口 うれしいですね。ここまでこれるとは思っていなかったのでチャンスがありよかったです。オンリーが強いと感じたのは未勝利を勝った瞬間でしたね。なかなか力があると感じました。そして6戦目のラジオNIKKEI杯2歳Sでは7番人気だったんですが馬場のど真ん中を突き抜ける快勝でした。

 学習能力もいいしどんどん成長している。ハイレベルのメンバーが揃い簡単ではないと思うけど、オンリーの一番いいところを出し切って欲しい。折り合いも時計のかかる馬場でも不安はない。末脚がしっかりしているのでいかせる競馬ができたらチャンスは大いにあると思っている。

 直線の長いコースは、プラス材料でしょう。どう乗るかは騎手に任せます。オンリーのこともその父(ハーツ)のことも十分知ってるので信頼しています。

 僕たちは、万全に体調を整えて送り出すことですね。

 ハーツの仔が活躍していますが今度はうちの番かな?チャンスは十分あると思い臨みます。お父さんの悔しさを仔で頑張って欲しいです。

常石 オンリーを見せていただきましたが、姿勢がよく脚がのびやかですね。毛艶もよく脂がのってきた感じがします。甲斐調教助手さんにお聞きしたんですがマイペースでおっとりした面はあるけどスイッチが入ると目つきがかわり発汗もしてくる、と教えてくれました。

競馬の職人

ワンアンドオンリー



橋口 ハーツの仔らしく肘離れがよくフォームも大きく落ち着いてきましたね。

常石 ダービー制覇ますます楽しみになってきました。
ほかにも先生はいろんな記録を持っていますよね。薔薇一族の重賞16勝はすべて橋口厩舎の馬で挙げたものですよね。バラ一族はあまり大きくはなかったが生き生きし華やかでしたね。

橋口 そうだね。ローズキングダムもダービーは2着で悔しい思いをしたけどよく走ってくれましたね。北海道・門別でダート1700mの「ローズキングダム賞」というレースがあったんだよ。先日は「オルフェーヴルカップ」というレースもあった。名前のついたレースがあれば嬉しいですね。

常石 そして現在JRAでの勝利数が937勝(2014年5月26日現在)という大記録ですが1000勝も見えてきましたね。現役では藤沢和雄調教師だけが1000勝を挙げています。関西ではトップの座にいますが、馬作りで特にこだわってることはありますか?

橋口 いやー、あと2年しかないので1000勝は無理でしょう。それよりもダービー制覇です。ここまできたら有力馬で臨めるダービーがあるわけですし、夢で終わらせたくないですね。

常石 今年で開業何年目ですか?

橋口 んー今年で35年目だったかな? ここまで長いことやってきたね。特にこだわってることはないですね。坂路が出来たときは、誰よりも早く調教に取り入れました。若手の調教師さんもみんなよく頑張っているからいいなと思うことは取り入れています。独りよがりはよくないと思います。

 昔に比べて調教方法も飼い葉もグッと向上しましたね。技術調教師の頃、1か月ほど欧米の厩舎へ研修に行かせて頂いた時、何でも教えてくれ気楽に過ごさせていただきましたが、肥料だけは絶対に教えてくれませんでした。それだけ大事にしているということですね。

 食べないと体力がつきませんからね。アスリートだから元気とパワーがないとね。馬を選ぶ時は、第一印象で何か感じるものがビビッとね(笑)それに格好良さとかわいい仔を選んでいますよ。

 開業以来ずっと厩舎に住んでいます。ここが一番落ち着きますよ。常君も厩舎に住んだことあるからわかるでしょう(笑)

競馬の職人

洗い場で指示を出す橋口調教師



常石 はい(笑)。ドアを開けてのぞくと一斉に顔向けてくる時なんかは、みんな元気やなとほっとしますね。先生がダービーにこだわるのは、どうしてですか?

橋口 何年か前に常石君にもビデオあげたよな。「まぼろしの馬」というビデオを見てからです。その馬を作るために人馬ともに生きる姿に感動しましたね。

常石 今日は長い時間、ありがとうございました。最後にファンの方にメッセージをおねがいします。

橋口 馬も人もダービーというひとつの栄冠にむかって挑戦しづづけ真剣勝負する姿を見てほしいですね。何でもゼロからのスタートに一つ一つ、積み上げて形になっていくと思うのですが、その過程はおもしろいですよ。

***

 いつもおだやかで優しい笑顔で話してくださる先生の話には奥が深くておもしろいです。人間も馬もかわいい仔がいいそうです。見た目ではなく全体からあふれるいきいきさ、だそうです。

6月1日に81代日本ダービー馬が誕生した日から地方競馬のダービーウイークも開幕します。佐賀・盛岡・門別・大井・園田・名古屋の順に6日間連続で行われます。お近くの方は是非お出かけください。中央とは違った『面白さ』の発見があると思います。つねかつこと常石勝義ことでした。[取材:常石勝義/栗東]

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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