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「天、徳を予に生ず」

  • 2014年06月12日(木) 12時00分


◆柴田善臣騎手はその徳を自覚しているからこそ、使命を果たせたのではないか

 天が自分に与えた使命だから、果たさねばと尽す必死な姿には心打たれる。世界一の称号を背負ったジャスタウェイが、先に抜け出したグランプリボスを追う。急きょ騎乗依頼を受けた柴田善臣騎手の心中は、騎手冥利に尽きるとはいえ複雑だ。勝たねばの思いは、当然強い。不良馬場のタフな戦い、しかも、外に出せずに内からの懸命なスパート。あと200米を切っても1馬身はあった。人馬とも何とか抜かそうと残るは精神力のみ、それを支えたのが天が与えた使命だった。安田記念のジャスタウェイと柴田善臣騎手、この人馬の激闘ぶりをみていて、「天、徳を予(われ)に生ず」という孔子のことばが浮んだ。

 いまこうしてあるのは、広くは天が与えた使命で、どうして天が選んでくれたかと言えば、その存在を評価してくれたからだ。評価してくれて自分が得ているなにがしかのもの、それは、心に得たものだから、すなわち徳なのである。その徳を自覚しているからこそ、使命を果たせたのではないか。自分たちの力に「天、徳を予に生ず」がプラスされていたと思えてならない。

 競馬は、馬とそれにかかわる人という側面から見るのが楽しい。馬は語ることがないから、人が代弁する。ジャスタウェイの強靭な精神力を称えた柴田騎手のことばが、ジャスタウェイに天が与えた徳を指し示していた。その徳を得るための日々を、どれほど自覚しているか。思わず自分の足元を見てしまった。

「天、徳を予に生ず」を実現させるための努力、これを競馬にあてはめると分かりやすい。どの馬にも、そこへ踏み出す第一歩がある。上がり馬が集まるエプソムカップ、ここからそのきっかけをつかんだ馬は多い。かつて牡馬混合重賞を4勝した牝馬ワコーチカコの第一歩もエプソムカップだった。ここを勝って夏は函館記念、繁殖入り直前には京都金杯と京都記念を連勝し、この2つのレースで手綱を取ったオリビエ・ペリエ騎手に日本での初重賞勝利をもたらした。人馬に与えたものは大きかった。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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