スマートフォン版へ

マーケットの様々なカテゴリーからクラシックホースが現れた英仏春の3歳クラシック

  • 2014年06月18日(水) 12時00分


◆サンデーサイレンスを高く評価している欧州の生産者たちから熱い視線を注がれる存在のカラコンティ

 15日に仏国シャンティー競馬場でG1ディアーヌ賞(=仏オークス、芝2100m)が行なわれ、これで英仏2か国の春の3歳クラシック8競走が全て終わったことになる。

 仏国牝馬路線に2冠馬が出現したため、英仏で誕生した3歳クラシックホースは7頭。その出自を辿ると、オーナーブリーダーによる自家生産馬(生産者がパートナーと共同所有する馬を含む)が3頭。残りの4頭はセールを通じて購買された馬で、英国ではタタソールズ出身馬2頭が、仏国ではアルカナ出身馬2頭が、それぞれクラシックホースとなり、各々の国におけるメジャーな市場としての存在感を改めて示す結果となっている。

 5月最初の週末にニューマーケットで行なわれた英国のギニーズ。3日(土曜日)に行なわれた牡馬のG1二千ギニー(芝8F)を制したのは、11番人気だったナイトオヴサンダー(牡3、父ドゥバウィー)だった。同馬は12年のタタソールズ・オクトーバーセール・ブック1に上場され、3万2千ギニー(当時のレートで約421万円)という廉価で購入された馬だった。

 父ドゥバウィーは産駒が世界各地でバカっ走りしている旬な種牡馬で、12年に欧州各地で開催された1歳市場における産駒の平均価格がギニー換算で11万4363ギニー(ちなみに13年の平均価格は36万6349ギニー)であることを考えると、平均価格の3分の1以下というナイトオヴサンダーの価格は随分と控えめだ。4代前のフォレストフラワーまで遡らないとG1勝ち馬が出て来ないという牝系の脆弱さと、初仔でそれほど見映えのしない馬体であったことなどが廉価の理由と推察されるが、母の父は現在のスーパーサイヤー・ガリレオで、言ってみれば「ベスト×ベスト」の配合を施された個体と見ることも出来る。こうした、次世代のトレンドともなりうる血統構成を持った好素材を、500頭を超える上場馬から発掘した購買者の慧眼には、素直に敬意を表する以外なさそうである。

 翌4日(日曜日)に行なわれた牝馬のG1千ギニーを制したのは、仏国の名門生産者ヴィルデンシュタイン家が育んだミスフランス(牝3、父ダンシリ)だった。

 ダニエル・ヴィルデンシュタイン氏のオーナーブリーディングホースとして、2歳G1マルセルブーサック賞(芝1600m)を制した他、G1仏オークス(芝2100m)2着、G1ヴェルメイユ賞(芝2400m)3着などの成績を残したミスタヒチの9番仔にあたるのがミスフランスだ。01年にダニエル・ヴィルデンシュタイン氏が亡くなった後、ファミリーの生産組織はデイントン・インヴェストメンツ社という法人になり、ミスフランスはダニエル・ヴィルデンシュタイン氏の孫にあたるダイアン・ヴィルデンシュタイン氏を中心とした組織バリーモア・サラブレッド社の所有馬として現役生活を送っている。“仏国の名門生産者”と前述はしたものの、父ダンシリは英国のジャドモントファーム供用種牡馬で、ミスフランス自身は愛国産馬と、ヴィルデンシュタイン家のオペレーションは今や広く欧州各国を網羅するものとなっている。

 5月2週目の週末にロンシャンで行われた仏国版のギニーズ。牡馬のG1プールデッセデプーラン(芝1600m)を制したのは、ヴィルデンシュタイン家と双璧をなす仏国の名門生産者ニアルカス家が育んだカラコンティ(牡3、父バーンスタイン)だった。

 既に各所で報道されているように、現役時代はニアルコス家の所有馬で現在は日本で供用中の種牡馬バゴを交配すべく、日本へ送った繁殖牝馬サンイズアップが、前年北米で受胎した父バーンスタインの仔を新冠で出産。1歳4月まで日本で育った後、仏国へ渡ったのが今日のカラコンティである。母のサンイズアップもまた、その母ムーンイズアップが日本へ渡り、サンデーサイレンスを交配されて日本で出産した馬だから、本馬も母も日本産馬という血統背景を持つ馬が仏国のクラシックレースを制したわけである。カラコンティは今、サンデーサイレンスの偉大さを今更ながら高く評価している欧州の生産者たちから、将来の種牡馬候補として熱い視線を注がれる存在となっている。

 5月11日にロンシャンで行なわれた仏国版千ギニーのG1プールデッセデプーリッシュ(芝1600m)を制したのに続いて、6月15日にロンシャンで行われた仏国版オークスのG1ディアーヌ賞も制し、見事に2冠を達成したアヴニールセルタン(牝3、父ルアーヴル)は、12年のアルカナ・オクトーバーセールにて4万5千ユーロ(当時のレートで約465万円)と、英二千ギニー馬ナイトオヴサンダーに負けず劣らずの廉価で購買された馬だった。

 だが、アルカナ・オクトーバーは、アルカナ・オーガストをプレミアマーケットとすると一般市場にあたるマーケットだ。母ブジーは英国の2歳G2ロックフェルS(7F)勝ち馬と、悪い牝系ではなかったが、この世代が初年度産駒だった父ルアーヴルの、初年度の種付け料は5千ユーロ(約60万円)で、初年度産駒はこの年の欧州市場にて平均価格3万0875ギニー(約406万円)で購買されているから、この馬の価格はほぼ相場通りと言えそうだ。それでも、新種牡馬ルアーヴルを高く評価していなければ出来なかった購買で、これも購買担当者の眼力は敬服に値するものである。

 6月1日にシャンティーで行われたG1仏ダービー(芝2100m)を制したのは、12年のアルカナ・オクトーバーセールにて2万4千ユーロ(約248万円)でピンフックされた後、13年5月にサンクルーで行われたアルカナ・ブリーズアップセールにて12万ユーロ(約1581万円)で転売されたザグレイギャツビー(牡3、父マスタークラフツマン)だった。

 マスタークラフツマンもこの世代が初年度産駒で、こちらは初年度の種付け料2万ユーロ(約242万円)。欧州1歳市場における初年度産駒は平均価格4万6806ギニー(約616万円)で購買されている。ザグレイギャツビーの3代母が名牝マキシモーヴァであることを考えると、同馬の1歳市場における購買価格は相場以下の廉価と言えそうである。馴致を行なってみたら良い動きを見せたからこそ、2歳セールでは仕入れ値の5倍の価格が付いたわけで、これはピンフッカーの勝利だし、また1581万円で未来のクラシック馬を手に入れた馬主さんの勝利でもあると言えそうだ。同時に、欧州でも2歳市場が一流馬のマーケットとして機能する場となっていることを明示する結果となっている。

 6月6日にエプソムで行われたG1オークス(芝12F10y)を制したのは、ドバイのシェイク・ハムダンによるオーナーブリーディングホースのタグルーダ(牝3、父シーザスターズ)だった。

 メアリー・マクドナルド女史の所有馬としてLRサヴァルベッグS(14F)に勝ちG2ランカシャーオークス(12F)で2着となるなどの成績を残した牝馬エジーマが、現役を退いた08年の暮れにタタソールズ・オクトーバーセールに上場されたところ、シェイク・ハムダンの生産組織シャドウェル・エステイト社が32万ギニー(約4818万円)で購買。その2番仔となるのが、09年の世界チャンピオン・シーザスターズを交配して生まれたタグルーダだ。父の10年の種付け料は8万5千ユーロ(約1030万円)だったから、両親あわせて6千万円近い元手がかかっているという、アラブの王族ならではの生産馬である。しかし、将来の繁殖牝馬としての価値を含めれば、無敗でオークスを制した同馬の現在の価値は、元手の遥か上を行くものとなっているはずだ。

 そして、6月7日にエプソムで行われたG1ダービー(芝12F10y)を制したのは、12年のタタソールズ・オクトーバーセール・ブック1にて52万5千ギニー(約6947万円)で購買されたオーストラリア(牡3、父ガリレオ)であった。

 高馬であったことは間違いないが、しかし、世界4カ国で7つのG1を制したウイジャボードの4番仔で、父はスーパーサイヤーのガリレオであることを鑑みると、法外な金額では決してない。セール開催当時、4歳秋を迎えていた長兄ヴードゥープリンス(父キングマンボ)は未勝利戦とハンデ戦を2勝しただけの下級条件馬で、3歳秋を迎えていた次兄エゲアス(父モンスン)は4戦して未勝利と、兄2頭が期待外れに終わっていたことが、落ち着いた金額でも落札となった主な要因と言われている。その後、長兄は豪州にわたって重賞勝ち馬となり、4番仔はダービー馬となったゆえ、この牝系の現在の価値は2年前の秋とは比べ物にならぬほど高いものとなっている。ちなみに、ウイジャボードに12年生まれの仔はおらず、現在1歳の13年生まれは父ドゥバウィーの牡馬である。生産者のダービー卿は今、この馬を秋の1歳馬市場に出すかどうか、思案投げ首と言われている。

 プレミアマーケットにおける高馬あり、一般市場におけるお値打ち価格での購買馬もあり、2歳市場で発掘された馬もありと、マーケットの様々なカテゴリーからクラシックホースが現れた春となった。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング