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今季の欧州における凄まじいガリレオの勢力

  • 2014年07月02日(水) 12時00分


◆第2位との収得賞金の差はダブルスコアどころか比率にして2.7倍もの大差がついている

 日本におけるディープインパクト旋風も相当な猛威だが、これを上回るスケールを誇っているのが、今季の欧州におけるガリレオの勢力である。

 先週土曜日に愛国のカラ競馬場で行われたG1愛ダービー(芝12F)で、産駒のオーストラリア(牡3)、キングフィッシャー(牡3)、オーケストラ(牡3)の3頭が上位3着までを独占。翌日曜日に仏国のサンクルー競馬場で行われたG1サンクルー大賞(芝2400m)でも、産駒のスピリットジム(牡4)、ノーブルミッション(牡5)の2頭が1・2着を独占という、まさに猛威としか言いようのない席巻ぶりを見せているのだ。

 レイシングポスト紙の集計によるリーディングサイヤーランキング(6月30日現在)で、首位を行くガリレオの収得賞金353万9619ポンドに対し、第2位につけるインヴィンシブルスピリットの収得賞金は129万3546ポンドと、ダブルスコアどころか比率にして2.7倍もの大差がついている。同じ段階で、日本で首位を走るディープインパクトの賞金が30億6255万円に対し、第2位のキングカメハメハが22億4476万円であるのと比較すれば、欧州におけるガリレオがいかに突出した存在であるかが、お判りいただけよう。

 先週末に愛国と仏国でガリレオ産駒が上位を独占したのは、いずれも12F路線のレースだった。

 例えば英国では今週末に、ロイヤルアスコットのG1プリンスオヴウェールズS(芝10F)で牡馬を完封したザフューグ(牝5)ら古馬の精鋭に、今年のG1二千ギニー(芝8F)勝ち馬ナイトオヴサンダー(牡3)を筆頭とした活きの良い3歳馬がぶつかることでおおいに話題となっているG1エクリプスS(芝10F7y)が行なわれるが、5日前登録を済ませた12頭の出走予定馬に、ガリレオ産駒は1頭も存在しない。

 2歳戦でも時折目立つ勝ち馬を出しているし、何より6Fのスピードを10Fまで持続したフランケルという不世出の天才を生みだしたガリレオではあるが、リーディング首位を独走する原動力となっているのは、12Fとそれを超える距離の路線で類稀なる優秀性を発揮している産駒たちであることは、明白と言えそうだ。

 当然の帰結として秋の凱旋門賞でも、先週末に行なわれた12F路線のG1上位組に、ロイヤルアスコットのG2ハードウィックS(芝12F)を7馬身差で快勝したテレスコープ(牡4)らが加わるガリレオ軍団が、日本馬の前に立ちはだかる壁となることを、私たちも覚悟しておかねばなるまい。

 そのスーパーサイヤー・ガリレオだが、欧州における大活躍とは裏腹に、日本に入って来た産駒たちの成績は、有体に言って地味である。

 初年度産駒である03年生まれ世代から、各世代コンスタントに1〜3頭のガリレオ産駒が日本でデビューしているが、準オープンまで行ったミッションモードが出世頭で、重賞勝ち馬は1頭も現れていない。

 母がG2独セントレジャー勝ち馬である、そのミッションモードをはじめ、日本に導入されたガリレオ産駒はそれぞれ牝系も優秀な馬ばかりだ。それにも関わらず、日本での成績と欧州での成績にこれだけ大きな差があるからには、残念ながらガリレオの直仔は日本の競馬への適性が欠けていると、断じる他なさそうである。

 地域によって産駒の成績にばらつきがあるという種牡馬は、決して珍しくはない。

 典型的な例が、ガリレオの父サドラーズウェルズだった。英仏愛の3か国で通算17回もリーディングサイヤーの座に就いたサドラーズウェルズだが、日本における産駒は、サージュウェルズによるG3ステイヤーズS(芝3600m)制覇が唯一の重賞制覇で、欧州における産駒とは比べるべくもない不振に終わっている。

 サドラーズウェルズの仔もガリレオの仔も、端的に言うと重たく、器用さに欠ける面もあって、例えば1、2完歩でトップスピードに乗れる仔が多いサンデーサイレンス系と相まみえると、まるで歯が立たなかったのである。

 だが、それではサドラーズウェルズの血脈は日本で全く無力なのかと言うと、実はそうではない。サドラーズウェルズは母の父として、エルコンドルパサー、シーザリオ、ヘヴンリーロマンス、フサイチコンコルド、アンライバルド、エイシンアポロンといった超ド級のG1勝ち馬を、日本で送りだしているのだ。すなわち、一世代間に挟むことで、サドラーズウェルズの優秀性は日本でも存分に発揮されるようになったのである。

 さきほども名前の出た、今年の英二千ギニー勝ち馬ナイトオヴサンダーは、母の父がガリレオである。欧州におけるガリレオは、直仔が猛威をふるう一方で、母の父としても強い影響力を行使する時代を迎えようとしている。

 サドラーズウェルズの例を見ても、日本で「母の父ガリレオ」が有効に機能する可能性は非常に高いと筆者は見ている。ガリレオ牝馬に先行投資を惜しまなかった生産者が、日の目を見る時代が必ず来るはずで、POG戦略でも、ガリレオ牝馬にSS系種牡馬の配合がトレンドになる日が来ておかしくないと思っている。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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