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セリに向けて奮闘する日々

  • 2014年07月09日(水) 18時00分
今秋より新たに開業予定の前山友厚さん

今秋より新たに開業予定の前山友厚さん



前山友厚さん「資金もなければ顧客もいない。でも独立して自分の牧場を持ってコンサイナー業で生きて行きたいと思っていたわけです」

 来週からいよいよ1歳市場がスタートする。まず、「セレクトセール」、そして翌週には「セレクションセール」と続き、来月下旬には国内最大頭数の1歳馬が上場される「サマーセール」も控えている。

 牧草作業などあり、生産者は今が多忙のピークだが、セリに向けて1歳馬を預かり仕上げるコンサイナーも今が忙しさの頂点を迎えつつある。今回は今秋より新たに開業予定の1人のコンサイナーを紹介しようと思う。

 名前は前山友厚さん。32歳。神奈川県平塚市出身。19歳で北海道にやってきて以来、馬とともに13年のキャリアを持つ。現在、前山さんは、新ひだか町三石の三石橋本牧場分場にて「研修中」という立場だ。正式に開業するのは今秋から、ということになるが、すでにいくつかの牧場から、セレクションセールとサマーセールに向け1歳馬7頭の管理を託されている。

「独立したいとずって考えていました。しかし、資金もなければ顧客もいない。でも独立して自分の牧場を持って、コンサイナー業で生きて行きたいと思っていたわけです。そんな時、たまたま知人が三石橋本牧場の橋本義次さんを紹介してくれて、お世話になることになりました」

 独立するには、まず拠点となる牧場が必要だが、自分の牧場を所有するには多額の資金が求められる。幸いなことに、三石橋本牧場は本場の道路を挟んで分場があり、厩舎と放牧地がすでにあった。そこを使ってやってみたらどうか、という誘いを受け、看板を上げることを決めた。牧場の名前は「セールスプレップサービス」と付けた。そしてまず、橋本義次さんの生産馬の他、近隣の数軒の牧場から1歳馬を預かる形でスタートした。

 前山さんは、競馬や馬とは無縁の普通の家庭に育った。小中高と平塚で過ごし、野球やサッカーに熱中する普通の少年であった。

 ところが、中学生の時、たまたま始めた「ダービースタリオン」にはまり、どんどん競馬にのめり込んでいった。友人たちと情報交換をしながらゲームに熱中するうちに、自然の流れとして本物の競馬にも興味がわいてきた。もともと父親が競馬好きであったらしい。「夏の家族旅行はたいてい競馬場のあるところに行って、父と一緒に競馬場に出かけるというのが定番でした」と前山さん。「夏と言えば新潟の関屋記念などが記憶に残っていますね。なぜか目的地は新潟が多かったです」

 決定的に心を揺さぶられたのはサイレンススズカのアクシデントであった。馬の命を救う仕事をしたいと本気で考え、高校時代に獣医を目指す決意を固めた。

「実は私は、いわゆるペットの類がどちらかというと嫌いで、未だに犬も猫も飼いたいとは思わないんです。しかし、馬だけは別格で、とにかく馬に獣医師になりたいという一心でした」

 高校は理数系クラスにいたので受験には有利であった。だが、獣医学部はかなりの難関で現役ではついに合格を果たせなかった。やむを得ず、1年間浪人することにした。

「で、2年目ですが、自分ではかなり勉強したつもりだったにもかかわらず、また入試を失敗しまして、さすがに2浪目は無理だと思い、獣医師への道は諦めることにしました」

 そこで潔く前山さんは北海道に来ることにした。いくつかの牧場の面接を受け、日高町にある大手の下河辺牧場に就職することになった。

「未経験者でもOKという条件のところに面接に行ったんです。結果的には下河辺牧場さんにお世話になったのですが、とても良い経験になりました」

 6年間勤務した。その間、セリに向けての馴致や仕上げを学び、今度は海外に出かけてみたくなった。「下河辺さんからしきりに海外のお話を伺ううちに、私もできることなら行って働いてみたいと強く思うようになりました」

 25歳でカナダに渡った。「下河辺さんから紹介状を書いて頂き、ウインドフィールズファーム(ノーザンダンサーの生産牧場)に就職できました」

 カナダでは1年間の就労ビザが下りた。「キーンランドのセールに馬を連れて行って引く経験などもできて本当に有意義な1年間を送らせてもらいましたね」と前山さん。

 その後、オーストラリアに渡り1年間過ごし、2年間の海外生活を終え帰国した。再び日高にやってきて、今度は新ひだか町のグランド牧場に就職。そこで4年間働き退職したのが昨年6月のこと。コンサイナーとして独立することを考えながら、何軒かの牧場を見て歩き、候補を探してみたりした。

「しかし、いざそこを借りるとか買うとかいう話になると条件が厳しくて、なかなか思うように進まず独立の計画が頓挫していたんです。そこに三石橋本牧場の橋本義次さんが救いの手を差し伸べてくれて、ここに居を構えることができました」

セールスプレップサービスの看板

三石橋本牧場に居を構えているセールスプレップサービスの看板


 当面は預かっている1歳馬のセリ上場に向けて、休日返上の日々が続く。朝は午前5時起床。「1歳馬たちは基本引き運動と放牧で体を造って行きます。ゆくゆくはもう一人、パートナーを確保したいですね。2人いると仕事もどんどん進むし何かと便利なのですが、こればかりはなかなか思うように行きません」と前山さん。

 さしあたり7月22日の北海道市場で開催されるセレクションセールが“デビュー”になる。冒頭でふれたように、今後、休業や廃業が進み空き家の牧場が目につくようになった日高には、前山さんのような新規参入組がもっと現れて欲しいところだ。資金はなくとも、前山さんのように、技術と熱意さえあれば独立することが可能な時代になってきている。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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