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佐藤哲三騎手(4)『白熱の安田記念“いいレースを見せてもらいました”』

  • 2014年07月28日(月) 12時00分
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佐藤哲三騎手インタビュー最終回の今回は、騎手視点から春のGI戦線を振り返ります。横山典弘騎手が橋口弘次郎調教師にダービータイトルをプレセントし、蛯名正義騎手はイスラボニータでクラシック戦線をにぎわせました。三浦皇成騎手はNHKマイルCと安田記念でブービー人気を2着に食い込ませ、川田将雅騎手は怪物と負けられない戦いに挑みました。ジョッキーたちの技と執念の戦いをもう一度!(第3回のつづき、聞き手:赤見千尋)

◆後藤浩輝騎手と自分は「合う」

赤見 今は外から競馬を見られていて、そういう機会ってあまりなかったと思うのですが、エスポワールシチーの最後は後藤騎手に手綱を託し、レース前にはお2人ですごくお話しされたって聞きました。

佐藤 ごっちゃんも怪我して大変だろうなと思っていましたしね。「哲三さんみたいに乗りたい」って聞いてきてくれたので、それなら何でも話そうと思って。僕も彼の乗り方を、勉強させてもらっていたんですよ。アメリカとかよく海外に行くから、日本に帰ってきて変わったところを盗ませてもらったりして、「自分と合うな」と思っていたんです。だから、僕が一番気をつけていることを言えば、分かってくれると思いました。

僕のやり方は「あれしたい、これしたい」じゃなくて、「あれとこれは絶対にしたらダメ」ということだけなんです。「あれしてやろう、これしてやろう」なんて思っても、できてないですからね。だからごっちゃんには、「こういうところがある」「こうなったらこうなる」「こういうときはこれをしたらだめ」「これをしなかったら走ってくれる」って伝えて。彼自身の良さも出しながら、僕の乗り方もイメージして乗ってくれてたのが、嬉しかったですね。

赤見 まさにお2人で手にした勝利という感じでした。後藤騎手、最後は哲三騎手のガッツポーズを(笑)。

佐藤 僕のことを心配してアピールしてくれたのか、自分がしたいのか、よく分からなかったですけど(笑)。でも、そういうふうに一緒に戦ったみたいな雰囲気を出してくれたのが嬉しかったです。

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▲哲三騎手が信頼する後藤騎手、初コンビの南部杯を見事勝利(撮影:高橋正和)


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◆ずっと尊敬している蛯名正義騎手

赤見 ご自分以外のジョッキーの乗り方を改めて見るということは、刺激になるのかなと思うのですが。

佐藤 ジョッキーの中で「考えているんだな」っていう人は見ていて分かりますし、すごいなって思いますね。先輩ジョッキーはみんな尊敬していますが、なかでも蛯名さんのことはずっと尊敬しています。乗り方について試行錯誤されて、変えていますよね。特に今年は、それで結果を出されているからすごいなと思います。

昔の馬って、切れ味を生かすために「1、2、3、4」ぐらいまでタメを効かせないとだめだったんです。でも、今の馬はそんなタメを効かさなくても前に進むところがあるから、「2、3、4」でいいんです。「1、2、3、4、5」待てだったのを、「2、3、4」で前に行ける。それが外国人ジョッキーの乗り方で、蛯名さんもそういう感じがします。

赤見 外国人ジョッキーに近い。

佐藤 外国人ジョッキーとか蛯名さんの乗り方って、前に伸ばそうとするから、背中がワイドに使えるんです。ワイドに使えるということは、押す面積が広がる。それで、前に重心があって、馬の肩も強くなっているから、肩がちょっと浮く。その間に前にもう一回寄せたりする。やり方を間違ったら、回転が邪魔してしまうけど、今年の蛯名さんはそれがすごく合い出したんじゃないのかなと。最初はなかなか合わないと思うんですが、自分を信じてやっているのがすごいなって思います。

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▲蛯名騎手、イスラボニータで皐月賞制覇(撮影:下野雄規)


◆三浦皇成騎手、執念の安田記念

赤見 若手で目立ったのが三浦騎手。特に安田記念では、三浦騎手とベテラン・柴田善臣騎手の叩き合いが見応えありました。

佐藤 皇成も応援しているジョッキーなんですけど、若さだけでは、善臣さんには太刀打ちできなかったのかな。馬の力もあったかもしれないけど、知恵もあると思います。熱くならず冷静だったら、違う進路の取り方もあったのかなって。

直線で内に行って、ジャスタウェイも内にいるのは気配で分かっていたと思うんですね。だから併せ馬をしに行ったと思うんですけど、あの馬場で併せ馬に持ち込むか、ちょっとでも馬場の良い外を選ぶか。ダノンシャークがいる外に出せたと思うので、そこで外に出していたら、もしかしたら勝った馬はそこまで一生懸命になれなかったかもしれない。馬体を併せに行って伸び負けしているところもあったので、結果論ですけど、若さかなぁ。肉弾戦に持ち込みに行ったなって(笑)。

赤見 目の前にGI勝利が見えたら、必死になりますもんね。

佐藤 「勝ちたい」って一生懸命になったのは評価できるし、2着まで持って来たんですからね。でも、あそこまで持ってきても勝てないのがGIで。人気馬であればいいけど、そうではないんだったら、ジョッキーの元気さだけではなくて、馬に対してロスがないとか相手をいなすとか、そういうことも必要です。

もしかしたら併せ馬をしに行って、もっと内に閉じ込めるぐらいのことを考えていたのかもしれないですけど、そこは世界を獲った馬ですからね。まともに戦いに行っては…。でも、皇成は皇成で、自分の若さでやってやるという思いがあったんでしょうし、それはレースとしておもしろかったですね。選択肢が見えるレースと言うか。どっちがいいなんて分からないし、結果論でしかないわけで、それはそれで負けたけど、いいレースを見せてもらったなと思います。

赤見 本当に、勝負は一瞬の判断ですもんね。

佐藤 そうそう。あそこで外にっていうのは、僕だったらその選択肢だったかもしれないし、皇成と一緒の選択肢に行っていたかもしれない。でもそれは、乗っている人でないと分からないですからね。外からはそう見えても、実際はそういうふうに行かなかったかもしれない。僕も、誘い込まれて内に行って負けることもありますから。

それは経験となって、次にまた生きてくると思うから。皇成にとっては、勝ったことよりも負けたことの方が次につながるのかもしれない。むちゃくちゃ悔しいはずですからね。皇成は「もうちょっとでGIを勝てた」という味を覚えたので、「次は絶対勝ちたい、それには何が必要か」となったら、毎日何か頑張るものがあるかもしれない。その辺はまた見ていきたいなと思います。

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▲若さの三浦騎手vsベテラン柴田善騎手の戦い(撮影:下野雄規)


◆後輩の川田将雅騎手、藤岡佑介騎手へ

赤見 ベテランに食らいつく若手の姿勢というのも、競馬の面白さですよね。

佐藤 そうですよね。僕は(川田)将雅も応援しているから、将雅にも頑張って欲しいんですよね。将雅の根性とか乗り方は好きです。僕とは考え方も全く違うけど、将雅が考えていることは分かりますし、すごく考えてるなっていうのも分かるんです。そういう意識を持ってやっている人って、年下でもいいなと思いますね。

赤見 ジョッキー1人1人のことを見られているんですね。

佐藤 “ジョッキーオタク”じゃないですけど(笑)、今はそんなふうに見ていますね。将雅と、(福永)祐一と、あとは(藤岡)佑介ですね。佑介にもGIを勝って欲しい。フランスからの帰りに病院に寄ってくれるんですよ。「大丈夫ですか?」って、お見舞いに来てくれるんです。そんなの、むっちゃ可愛いじゃないですか。

赤見 優しいですね。競馬に対しても、すごく真面目な姿勢が伝わってきます。

佐藤 そうなんですよね。まぁ、今はちょっと悩んでいるのかな。考え過ぎて競馬が楽しそうじゃないなっていうのが分かったので、その話もしましたよ。教えているとかではないですけど、ヒントになるかなということは出して行って。

「足首が硬い」って昔から言っているんです。僕も足首が硬いっていうのはあるんですけど、佑介の場合は硬くないんですよ。別に使えてないわけではない。それを使える意識づけというのがあって、そういう意識を持ってやったら体に伝わりやすいとかいろいろあるので、その辺を話して。最近は乗り方も変わって、安定もしてきているから、そういう中で1つずつ、修正もしながら、土台作りをして欲しいですね。

赤見 藤岡騎手と川田騎手は同期ですよね。

佐藤 うん。だから将雅には負けたくないだろうし、祐一にも追いつきたいだろうし、弟の康太が重賞・GIを勝っているから、兄ちゃんとしても負けていられないだろうし。僕の乗り方とかじゃないけど、自分の考えと人の考えといろいろなものを取り入れて。応援団として佑介にも頑張って欲しいなと思っています。

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▲同期コンビの川田騎手と藤岡佑騎手


◆自分も競馬に乗りたくなってくる

赤見 現状に満足しないで、上を目指す姿勢ってかっこいいですよね。

佐藤 そうですよね。これもさすがだなと思うのが、(武)豊さん。蛯名さんと同期で、やはり乗り方を変えてきていますもんね。そういうのを見ていると、勝ち負けだけじゃなくて、「ジョッキーって、やっぱりいいな」って思うんです。そうやって頑張れて、そういうのをお客さんに見せられるっていうのはいいですよね。そういうジョッキーたちを見ていると、自分も乗りたくなりますね。今は頭の中が知恵とかアイデアでいっぱいなだけに、体で表現できないのがもどかしいんですが、そうやって考えていることがどこかで何かにつながってくるとも思いますしね。

赤見 技巧派の哲三騎手の騎乗を、たくさんのファンの方が待っていると思います。

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▲赤見「哲三さんの騎乗姿をたくさんのファンの方が待っています」


佐藤 そういうのが、本当にありがたく思います。最近メディアに出させてもらったり、応援の言葉をもらったりして、「頑張ろうかな」って思えるようになりました。頑張れば復帰が早まるのであれば、いっぱい頑張るものを見つけて、それにすがってでも毎日頑張ってやろうと思うかもしれませんが、今の状況はそういう焦りとかで毎日を過ごすより、淡々と過ごせた方がいいのかなとは思っています。それでも、腐って何もしなかったら、それですら遅れてくると思いますしね。ジョッキーとして馬に乗って、その姿をファンの人に見てもらいたい。それができるように頑張って、毎日を過ごしたいなと思っています。(了)

応援メッセージ募集

今回出演した佐藤哲三騎手への応援メッセージを募集します。いただいたメッセージは、佐藤哲三騎手ご本人へお届けします。皆さまからの温かいご声援をお待ちしています。

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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