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4日間で6頭もの現役馬が予後不良となる異常事態が発生したデルマー競馬場

  • 2014年07月30日(水) 12時00分


どれだけ予防対策を講じても起きてしまうのが競走馬のアクシデントだが…

 北米西海岸のデルマー競馬場で、7月24日から27日の4日間で、6頭もの現役馬が故障を発症して予後不良と診断され安楽死処分になるという、異常事態が発生している。

 発端となったのは、24日(木曜日)朝に起こった悲劇だった。26日(土曜日)のG2サンディエゴH(AW8.5F)に出走予定だったダンスウィズフェイト(牡3、父トゥーステップサルサ)が、調教中にバックストレッチで頭絡が外れて制御不能となり、右側に逸走して外埒に激突。右後肢の後膝を骨折し、回復は困難という現場獣医師による判断で安楽死処分となった。騎乗していたエクセサイズライダーのジョー・ダーカンも、ろっ骨と鎖骨を折る重傷を負っている。

 ダンスウィズフェイトは、今年4月にキーンランドで行われたG1ブルーグラスS(AW9F)勝ち馬で、2歳時にもG1デルマーフューチュリティ(AW7F)やG1フロントランナーS(d8.5F)で2着となっている強豪だ。G1ケンタッキーダービー(d10F)で6着となった後にひと息入れて、今年後半戦のビッグレースへ向けて再始動しようとしていた矢先の悲劇だった。

 翌25日(金曜日)。デルマー開催の第6競走に組まれていた3歳以上の牝馬による条件戦(芝5F)で、4番手で3コーナーに突入したイエスシーズアンユージュアル(牝4、父イエスイッツトゥルー)が故障を発生して転倒。これに躓いた後続の2頭が転倒し、アクシデントを避けるために大きく外に寄れた1頭を含めて、4頭が競走を中止するという大事故が起きた。幸いにも、イエスシーズアンユージュアルに騎乗していたブライス・ブランクをはじめ、巻き込まれた騎手たちに大きな怪我を負った者はなかったが、その一方で、アクシデントを引き起こしたイエスシーズアンユージュアルは、残念ながら予後不良で安楽死処分となった。

 その36分後。この日の開催のメイン競走として行なわれた3歳以上のG2クーガーH(AW12F)でも事故は起きた。4番手を追走していたロングビュードライヴ(牡5、父プルピット)が、向こう正面に入ると故障を発生して競走を中止。馬運車で退場した後、診療所で前脚に種子骨骨折を発症していることが判り、予後不良と診断された同馬は安楽死処分となった。

 2歳時から重賞戦線に名を連ねていたロングビュードライヴは、5歳を迎えた今季もG3オールアメリカンS(AW8F)2着、G3サンフランシスコマイル(芝8F)4着など重賞で好走を重ねた後、前走プレザントンの準重賞オークツリーH(d9F)を制してこのレースに臨んでいた。

 1頭は調教中の事故で、競走中に故障を発症した1頭は芝コース、1頭はオールウェザーコースが舞台と、それぞれの事案に関連性は希薄ながら、不幸が続き沈鬱な雰囲気が漂う中で行われた26日(土曜日)の開催で、関係者の心胆を寒からしめるアクシデントが更に2つ続いた。

 第5競走に組まれていた3歳以上の牝馬による条件戦(芝8.5F)で、5番手で直線に向いたリルスイスエコー(牝5、父デカーチー)が、ゴール寸前で前脚に故障を発生して転倒。動けなくなったリルスイスエコーは、残念ながらその場で安楽死処分がとられた。騎乗していたドレイデン・ヴァンダイク騎手には大きな怪我はなかったものの、週末の騎乗を取り止めている。

 そして、この日のメイン競走のG2サンディエゴHが無事に施行された後の第9競走で、またも事故が起きた。3歳以上のメイドン戦(芝8.5F)で、3番手で第3コーナーに差しかかったジェイカット(牡3、父ホースグリーリー)が突然歩様を乱し、鞍上のコーリー・ナカタニが馬を止めて競走を中止。馬運車で退場したジェイカットは、診療所で予後不良と診断されて安楽死処分となった。

 3日間で5頭目の事故死で、しかもこのうち3頭は芝コースでのレース中に起きたアクシデントだった。実は、遡ること9日前、夏のデルマー開催開幕日の7月17日にも、芝のレースを走った後に故障が見つかり、回復が難しいと診断されて安楽死処分となった馬が1頭出ていたから、今開催で芝を走って致命傷を負った馬は、ジェイカットで4頭目だったのである。

 競馬場関係者にとっては悲願だったブリーダーズCを、2017年に開催することが決定したばかりなのがデルマー競馬場だ。ブリーダーズCを誘致するにあたり、ネックとなっていたのが芝コースの狭さで、デルマーは昨年の夏開催が終わると芝コースの改修に着手。芝を張り替えた上で幅員を6フィート(約183cm)広げ、移動柵の位置を変えることで6つものコース設定が可能になるという、新たな芝コースのお披露目となったのが、今年の夏開催だった。

 騎乗者たちからは、時計の速い馬場ではあるものの、クッションの良いコースとの声が聞こえていた。だが、事故が多発したことを受けて主催者は対策を緊急協議。26日の開催が終わった時点で、翌27日に予定されていた2つの芝のレースを、メイントラック(オールウェザー)に移設して施行することを決定。更に、月曜日・火曜日のダークデーを使って、芝コースの内埒を18フィート(約5m48cm)ほど移動させ、なおかつ、適度に散水した上で30日(水曜日)の開催を迎えることを明らかにした。

 早急に手を打ったデルマー競馬場ではあったのだが………。

 翌27日(日曜日)。朝の調教中に、8月1日のメイドンでデビューを予定していた未出走馬チルドムース(牡2、父パンプルムース)が、オールウェザートラックで追い切られ、4F=50秒2の時計を出した後、止め際に故障を発生。予後不良と診断されて安楽死処分となる事故が起きた。

 どんなに気を付けていても、どれだけ予防対策を講じても、起きてしまうのが競走馬のアクシデントだが、それにしても先週後半にデルマーで起きた悲劇の連鎖は異常である。

 2日間のダークデーを挟んで、日本時間の木曜日未明にデルマー開催は再開され、芝のレース3つを含む8競走が行なわれる。全出走馬が無事に完走することを、心より祈ってやまない。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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