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高橋康之調教師(2)『好きな馬の基準は今でもディープインパクト』

  • 2014年08月11日(月) 12時00分
おじゃ馬します!

▲池江泰郎元調教師が育てた名馬・ディープインパクト(撮影:下野雄規)


馬主となった池江泰郎元調教師の愛馬ネージュドール。出会いは、4月に中山競馬場で行われたブリーズアップセールでした。ブリーズアップセールとは、JRAが1歳市場で購買した馬を調教し、2歳の春に売却するシステム。昨年の売却馬では、クリスマスが函館2歳Sを勝利しています。活躍が期待されるネージュドールですが、その父は、師がかつて管理したステイゴールド。そのステイゴールドには、高橋康之調教師が騎手時代に調教でまたがっていたという縁。今週はネージュドールとの出会いと、ステイゴールドやディープインパクトといった池江厩舎の名馬のエピソードを語っていただきます。(第1回のつづき、取材:東奈緒美)

◆父譲りの賢さと、人懐っこさ


 ネージュドールとの出会いをお聞きしたいのですが、今年4月のブリーズアップセールで池江泰郎先生が購入されたステイゴールドの産駒。3240万円というのは、高額ですね。

高橋 事前に師匠から「康之のところで預かってもらっていいか?」って声を掛けていただいていて、ブリーズアップセールも一緒に行かせてもらったんです。師匠と2人でいるとさすがに目立ってしまうので、僕は少し離れた後ろで見ていたんですけど、まさか最初からこんなに高い馬を購入されると思っていなかったので…。「3240万円」って見た時は、「うちへ来る馬ではないんじゃないかな…」って思いました。

 「この仔はどこかほかの厩舎に行くんじゃないかなって」って。

高橋 そうそう(笑)。そんなことを考えながらポーッと見ていたら、師匠に「康之!」って呼ばれて。そのまま一緒に購入の手続をさせてもらって。「あ、うちに入れてもらえるんだ!」って、それがうれしかったですね。

 師弟の愛情ですね。購入手続は調教師さんも一緒にされるんですね。

高橋 ブリーズアップセールはちょっと特別で、そのままトレセンに入厩できるんです。競馬場からトレセンっていう競馬会の施設間の移動なので、普通なら検疫を通さないといけないところ、厩舎が決まっていれば直接入れらるんですね。その手続をするのに、一緒にさせていただいたんです。ブリーズアップセールが4月29日の火曜で、その週の5月2日の金曜にはもう入厩していましたよ。

 3日後にはもう厩舎に。その後、6月12日にゲート試験に合格と。

高橋 ブリーズアップセールの前に、競馬会がゲートも追い切りもしっかりやってくれているので、ある程度体も出来ていましたし、特に問題なく進みました。ただ、ブリーズアップはトレーニングセールですので、思いっ切り走ってきたこともあって、もう競馬をしたようなものでもあるんですね。体がしっかり出来ていない小学生が、運動会で思いっきり走るようなものですので、若干疲労もあります。状態を見ながら、疲れを取りながらのゲート試験になったので、少し時間はかかりました。ただ、疲労は見られるんですが、暑くなる前の時期ですので、そこまで負担は大きくないです。牧場で育成されている馬よりも走ってきているので、すぐにレースを迎えられるというのは強みかなと思いますね。

 性格的にはいかがですか? ステイゴールドと似ているというお話もありますが。

高橋 とっぽい感じといいますか、よく人を見る賢さというのは、ステイゴールドに似ていますね。似ていないところは、ステイゴールドは人に対してきついところがあったんですけれど、この仔はすごく人懐っこくて、“ヒ〜ン”って鳴いて寄ってくるんですよ。

おじゃ馬します!

▲高橋「よく人を見る賢さがステイゴールドに似ています」


 かわいいですね。

高橋 かわいいです! でも、しつこく触っていると、ガブッてやられます(笑)。つかず離れずの距離がいいようです。体は小柄ですね。今で430〜440kgぐらい。来た時もそんなに大きくはなかったですが、今回ので少し休養できたので、ふわっと肉付きはよくなったかなと思います。それはプラスだと思いますね。

 騎手でいらした頃、池江泰郎厩舎に9年所属されていたということで、その時に見てきたステイゴールドの子供を預かるというのもご縁ですね。

高橋 ステイゴールドが全盛期の時、僕も調教に乗っていましたのでね。走ったり走らなかったり波があった馬なので、どっちかというとしんどかった思いの方が強いんですが(苦笑)。結構ガーッと行く馬でしたからね。でも、ネージュドールの扱いとしては、お父さんを知っているところで、「あ、似ているな」というところも分かりますし、「こういう性格の馬だから、こういうふうにしたらいい」というのは、ノウハウとしてはありますね。

おじゃ馬します!

▲2001年の日経新春杯優勝時のステイゴールド


幼少期のディープインパクトは…


 当時の池江厩舎には、名馬と呼ばれる馬がたくさんいましたね。

高橋 あの時代はサンデーサイレンスの全盛期でしたからね。一筋縄ではいかないというか、ステイゴールドのようにとっぽい馬が多かったです。入って来た新馬のうち、8割は立ち上がる馬でしたよ。

 それは、調教も結構苦労されたんじゃないですか?

高橋 ええ。ただ、厩舎には馬乗りが達者な方が多かったですので、その人達が乗っているのをよく見たり、矯正してもらってから乗ったり、そういう技術や馬の扱いというのは、ものすごく勉強になりました。ディープインパクトには、入厩してゲート試験に受かって、競馬に使う前々週ぐらいまで乗せてもらったんですけど、あれもよく立ち上がる馬でしたね。厩舎に来た時からずっと立ち上がっていました。

 利口なイメージがありますが、そんなにうるさかったんですか。

高橋 ちょっときつい扶助を与えないと、人の言うことを聞かない部分もありましたからね。体も小柄でしたので、急に横に飛んだり、ちょっと危ないところもあったんですよね。

 当時は、僕ともう一人の助手さんと交代で乗っていたんですけど、意外かもしれませんが、走る動きは平凡でした。普通に乗っている時は、特別「すごいな」というのはあまりなくて…。でも、ゲート試験に受かったぐらいですかね。15-15を超えるスピードを出してから、動きがガラッと変わって。あんなに走るセンスのある馬に出会ったのは、僕の中ではディープただ一頭ですね。僕の好きな馬の基準というのは、今でもディープインパクトの走り方です。

おじゃ馬します!

▲2006年有馬記念、ディープインパクトのラストラン(撮影:下野雄規)


 武豊さんがおっしゃっていた“飛ぶ”感覚を、味わっていらっしゃったんですね。

高橋 イメージで言うと、スーパーボールってあるじゃないですか。あれを投げた時にトトトトトンッて行きますよね。あの上に乗っている感覚です。って、スーパーボールには乗ったことないんですけど(笑)。地面に着いてから次に上がる瞬間が速いんです。トントントーンと行くので、それが「飛んでいる」という表現になるのかなと、僕はそういうふうに想像していました。

 「飛ぶ」って聞くと、もっとふわっとした感じなのかなと思っていたんですけど。着地している時間が短いということなんですね。

高橋 そうそう。滞空時間が長いとスピードは乗らないものなんですけど、トントントントンと行くのが速いので、地面に着いているかいないかという感覚でスッスッと行くから、飛んでいる感じなんです。ドーンドーンとストライドが大きい走りだと、そんなにスピードは乗らないはずなんです。地面を蹴らないとスピードは乗らないので、地面を蹴って着いて、すぐにまた蹴り上げるストライドが、ディープの特徴だったのかなと思いますね。

それに、クッションが柔らかいので、地面に着いた時の反動もないんですよ。乗馬馬で障害を飛んだ時みたいにガックンというのがない。だから余計にスーッと行っているような感覚になるのは、よく分かりますね。そこに、豊さんの天性のスプリングというか、関節をうまく抜く乗り方がすごく合っていたのかなと思います。

 あれだけの名馬の背中を知っているというのは、これからの馬作りで大きな財産ですね。(次週へつづく)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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