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広い視野を持つためには

  • 2014年08月21日(木) 12時00分


予めどのようなイメージを持つか

 ヨーロッパ最古の大学と言われるイタリアのボローニャ大学には、こんな教えが受け継がれている。「問題を悩みにかえないで、問題を問題として解決する」と。そこから、劇作家で小説家だった井上ひさしは、「困難が生まれたら、過去から勉強する」と述べていた。すべてが過去と一本の糸でつながっているのだ。この過去から勉強するとは、広い視野を持つことに通じる。そして、困難にあってもへこたれない強い意志力がもとめられる。

 広い視野と強い意志力、論語ではこれを「弘毅(こうき)」とあらわし、「士は以って弘毅ならざるべからず」としている。人の上に立つ者は広い視野と強い意志を持てと叱咤激励しているのだが、洋の東西を問わず言わんとする心はひとつだ。もちろん、わが競馬とて無関係ではない。ひとつひとつのレースを積み重ねていくうちに課題が見えてきて、そこから新たな戦い方をどう見い出していくかなのだ。勝者の弁は、いともたやすく成し遂げたように見えるのだが、実はそんなに簡単である筈がない。予めどうイメージして戦うか、それを見い出すことからスタートしている。関屋記念をテン乗りのクラレントで勝った田辺裕信騎手は、思った通りのポジションが取れ、折り合いに専念できたと語っていた。七夕賞のメイショウナルトもテン乗りでの勝利だったが、虚心に自分なりの思いで戦えたのが大きかった。競馬をよく考え、強い意志で見すえるうちに勝利の道がひらけているように思えてならない。人の思いと馬の気持が通いあっているのだ。

 かつて、強い意志、強い決断で牝馬として17年ぶりに天皇賞を制覇したエアグルーヴが思い出される。熱発明けのため、走ろうと思えば走れた桜花賞を捨てオークスを期待通り勝ち、古馬になって骨折明けから立ち直ると秋の王道を見すえて夏の札幌記念を選び、皐月賞とマイルCSを勝っているジェニュインを下して自信を深め、天皇賞、ジャパンC、有馬記念と戦い抜いたのだった。陣営が予め抱いたイメージが、決断を促していたとも言える。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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