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陣営の得た自信は大きい/札幌記念

  • 2014年08月25日(月) 18時00分


ファンの期待に迫力のレースで応えた2頭

 札幌までは遠い道内のファンだけでなく、この日に合わせ、新装なった札幌競馬場に駆けつけた全国のファンも多かったのだろう。夏の札幌に「4万6097人」の入場者はすごい。

 札幌記念当日の入場者数に限れば、もう10数年も前に連覇したエアグルーヴの1勝目、1997年の4万9736人に迫った。近年の入場者数の推移を思えば、素晴らしいことである。

 さすがに、トウショウボーイ、クライムカイザー、グレートセイカンの対決に沸いた約40年近くも以前の、1976年の札幌記念「ダート2000m」当日の6万0549人には及ばないが、あの当時は、若いファンが掃いて捨てるほど存在した時代だった。現代の人口構成図や取り巻く社会状況からすれば、実際にはレコードにも匹敵する記録ではないかと思えるほどである。

 徹夜組を含め、午前6時の時点で開門を待っていたファンは1000人を超えていたという。北海道のファンは身近にGI馬がいても、実際にGI馬のレースをナマで見られる機会は少ない。ハープスターゴールドシップの、後続を5馬身も離したレースに納得してくれたはずである。

 駆けつけた多くのファンの期待に、迫力のレースで応えた3歳牝馬ハープスター(父ディープインパクト)、5歳牡馬ゴールドシップ(父ステイゴールド)は、さすがにエースだった。

 というより、凱旋門賞挑戦(ともに海外初遠征)を前に、両陣営が体調の整え方に苦心したのが約1カ月半前になるこの札幌記念だから、期待を上回るレース内容で抜け出して勝ったハープスターも、2000mだからやっぱり行き脚つかずになりつつ、力強く進出して底力を示したゴールドシップも、マッチレースを展開したこの2頭は、じつに偉かった。

 ハープスターは、陣営が事前に「変わらない状態」「変わらないのが一番」とやけに強調したように、本当はもっと大きく変わって欲しい期待があったが、オークス当時に比較して進境著しいというほどの状態でもなかった。海外遠征を前にして、余裕残しという意味ではなく、「素晴らしい状態に近づきつつある」というほどの状態ではなかったという意味である。

 それを思うと、落ち着いたレース運びをみせ、3コーナー過ぎからごく自然なスパート態勢に入ることができた。レース上がり36秒3に対し、ハープスターは35秒5。外からゴールドシップが並びかけてきた最後の1ハロンも、少しも脚いろ乱れることなく12秒0だった。陣営の得た自信は大きい。ここまでにもっとも鋭いレースをみせた新潟2歳Sと、桜花賞は、一度使って約1カ月半後にあたる叩き2戦目である。さらに、これまではスパートの合図があっても(そこがレース全体のペースアップ地点でもあるから)、どうもエンジン全開に時間がかかる印象もあったが、今回のスパートは実にスムーズだった。

 向こう正面に入ってハープスターは後方から2番手。3コーナー手前で後ろを振り向いて、ゴールドシップが自分より5馬身近くも後方を追走していることを知った川田将雅騎手は、自らスパート態勢に入ると、ハープスターは外を回ってこれまでよりずっと自然に動けた。小回りコースでこの動きができるなら、馬群の密集する凱旋門賞でもスペースを探して好ましいポジションをとることができるかもしれない。本当にロンシャンの2400mが合うタイプなのか、スタミナ型というよりマイラーに近いのではないか、ロスの生じる外々を回ることになるのではないか…、など、凱旋門賞の課題は多いが、そんなことを言い出せばどの馬だって難問はいくらでもある。

 ハープスター、ゴールドシップ、ジャスタウェイは、みんなそろって9月20日に出国し、3頭そろってシャンティの小林調教師の厩舎に滞在することになったという。ライバルではあるが、ハープスターはゴールドシップとジャスタウェイに、守ってもらえる3歳牝馬だ。視界は開けた。

 ゴールドシップはスタート直後、横山典弘騎手がちょっと気合を入れたようにも見えたが、行き脚がつかず、わが道を行くように最後方追走になったのは、小回りの2000mだけに考えられた前半だった。どんどん離され加減で、逃げたトウケイヘイローの前半1000m通過「58秒4」が画面に表示された地点では、どうみても先頭との差は20馬身近くあった。札幌の2000mだから、さすがに横山典弘騎手が手を動かしムチを入れスパート開始は3コーナーの手前。一度はハープスターに並びかけるシーンもあったが、ハープスターは鈍らない。ゴールでは4分の3馬身及ばなかった。しかし、ゴールドシップの前後半は推定「60秒7-58秒5」=1分59秒2である。上がり3ハロンは最速の35秒3だった。

 高速の芝コース向きではないとされるゴールドシップは、札幌の洋芝で、自身の他場の2000m前後のレースを上回るくらいの記録を残せるのだから、早くからささやかれていたように明らかにタフな洋芝向き。ロンシャンの芝にフットワークが乱れる危険は少ない。

 タイプは少々異なるが、同じようにレースの時計に注文のついたヒルノダムール(父マンハッタンカフェ)が、デインドリームが2分24秒49の快時計で勝った2011年の凱旋門賞では上がりが高速すぎて見どころなく終わっているように、あまりに高速の凱旋門賞は歓迎しないが、2分30秒前後の決着なら気分良くスパートしてくれるはずである。追い込むゴールドシップに切れるイメージはないが、ひとたび抜け出して先頭に立ったゴールドシップは、弾むようなフットワークに転じることができる。そんなシーンが訪れることを期待しよう。

ロゴタイプは秋の復活も、ホエールキャプチャもまだまだ主役

 復活が期待されたロゴタイプ(父ローエングリン)は、休み明けのためか前半から行きたがってしまった。ハイペースで飛ばすトウケイヘイローを追いかける形で失速してしまったが、体つきは大幅に良くなっている。そろそろビシビシ追える芯の強さも備わってきて不思議ない。たしかに今回は案外だったが、この行きっぷりが戻ったのだから、秋の復活があるはずである。

 3番人気のトウケイヘイローは思い切って行ったというより、カッーとなって最初からスイッチが入ってしまった。対戦の相手が悪かったか、逃げタイプが自分を失っては仕方がない。主導権を握るはずが、はからずも逃げ(出す)ことになってしまった。次は落ち着きを取り戻すだろう。

 レース巧者ぶりを発揮したのは、ベテラン牝馬ホエールキャプチャ。2000mにしてはペースが速すぎるとみた蛯名正義騎手が、向こう正面に入ると少しずつ下げるように控えたレース運びも印象的だった。追い切りのストライドなど以前よりむしろしなやかに映るから素晴らしい。6歳のこの秋も、まだまだ牝馬陣では主役の1頭である。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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