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移籍騎手の活躍

  • 2014年08月29日(金) 18時00分


活躍の裏にある向上心

 8月13日、大井競馬場で行われた3歳馬による地方全国交流・黒潮盃を制したのは、東京ダービーでも2着だったスマイルピース。鞍上は、昨年3月に廃止となった福山から大井に移籍した楢崎功祐騎手で、南関東移籍後では重賞初制覇となった。

地方競馬に吠える

スマイルピースと楢崎功祐騎手(撮影:斎藤修)


 楢崎騎手は1999年10月に福山競馬でデビュー。2009、2010年には2年連続で福山リーディングとなり、まさに騎手としての充実期における福山競馬の廃止だった。

 とはいえ賞金的に恵まれている南関東・大井へ移籍できたのは、そうしたリーディング上位での活躍があってのことと思われる。福山廃止時に南関東へ移籍できた騎手はほかに2名。楢崎騎手のあと、2011、2012年に福山リーディングとなった三村展久騎手も同じく大井に移籍したが、南関東では5勝を挙げたのみで、体調などの問題もあり騎手免許を返上。川崎に移籍した佐原秀泰騎手は、南関東で3勝を挙げたのみで、その後、高知に移籍している。福山でトップジョッキーだったとはいえ、4場で合わせて100名近くの騎手がいる南関東でいきなり結果を出すというのは容易なことではないのだろう。

 そうしたなかで楢崎騎手は、移籍した昨年(4月以降)は南関東で56勝。途中怪我で1か月ほどの休養があり、実質8か月ほどでの数字だ。そして今年は、8月27日現在で59勝、南関東リーディング(期間限定や他地区の騎手は除く)で10位と存在感を示している。

 南関東での重賞初制覇は相当に嬉しいのではないかと思ったのだが、レース直後のインタビューを聞いた限りでは、もともと穏やかな性格ということもあるのかもしれないが、意外なほど素っ気ない感じに思えた。ならば本心はどうなのか、後日あらためて感想を聞いてみた。

「南関東に来て1年ちょっとですか、やっと勝てたなという感じです」

 先にも示したとおり、移籍2年目の今年、ここまで59勝、リーディング10位という成績は、見る者にとっては相当な活躍だと思うのだが…

「なかなかうまくいかないなあという感じです。(リーディング10位も)全然満足できないですね。乗り役も多いですし、本人は危機感でいっぱいです」

 では、満足していない点は?と聞いてみた。

「もっと勝てたレースもいっぱいあったんじゃないかと思うし、(福山より)頭数が多いことでなかなか勝てないこともあるし、(4場ある)競馬場によって乗り方が変わってくるし、というのは大変です。ただ、乗せてもらっている関係者やファンが見て、納得してもらえるレースができるようにとは思っています」

 危機感や問題意識の裏返しは向上心だ。それが今の楢崎騎手の活躍につながっていると見た。

 そうしてみると、最近は移籍した騎手の活躍が目立っている。

 南関東では、内田博幸騎手、続いて戸崎圭太騎手が、2位以下を離してダントツの時期があった。その2人が順に中央に移籍したあと、昨年南関東のリーディングトップに立ったのは、2002年の益田競馬廃止後に大井に移籍し、かねてから期待の大きかった御神本訓史騎手だった。そして今年、南関東のトップに立っているのは、足利・宇都宮の廃止後に船橋に移籍した森泰斗騎手で、8月27日現在151勝は、2位の御神本騎手に16勝の差をつけている。

 また笠松で現在トップに立っているのは、2002年の新潟県競馬廃止から移籍した向山牧騎手で、49歳のベテラン。

 廃止での移籍ではないが、昨年全国リーディングのトップに立ったのは、2005年に笠松から兵庫に移籍した川原正一騎手。年間267勝は、54歳にしての自身の年間最多勝でもあった。

 さらに少し前、2006年には、宇都宮廃止後に北海道に移籍した山口竜一騎手(現調教師)が、1位とは1着同数で2着の差で惜しくも北海道リーディングの2位ということもあった。

 競馬場の廃止は避けられればそれに越したことはないが、廃止によって騎手(調教師も)が行き場を失くすのではなく(もちろんすべての騎手の移籍が叶うわけではないとはいえ)、実力のある騎手が移籍しても活躍できる環境にあるということは、悪いことではないように思う。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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