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青森紀行(3)〜スーパーナカヤマ、トップガンジョー、タカラシャーディーを訪ねて【動画有り】

  • 2014年09月02日(火) 18時00分
第二のストーリー

▲十和田馬術協会の皆さん、左から福士超文君(中学3年生)、トップガンジョー、宮野進会長、スーパーナカヤマ、中沢乙子さん


優しくて馬望の厚い“ナカちゃん”


 車は八戸方面から十和田市にある十和田馬術協会へと向かっていた。十和田とは、アイヌ語のトー(湖)とワタラ(岩、崖)が語源らしい。青森、岩手、秋田など東北地方には、アイヌ語由来の地名が多いと言われているが、このあたりにもその昔、北海道の先住民族・アイヌの人々が暮らしていたのだと想像すると、神秘的でもあり不思議な感じがする。さらに十和田は、かつて軍馬の生産が盛んに行われており、馬に縁の深い土地柄でもあった。

 目指す十和田馬術協会に到着する。道路側に緑の放牧地があり、その少し下に馬場があった。両脇に厩舎や事務所とおぼしき建物がある。放牧地には2頭の馬がいた。黒っぽい毛色の馬がスーパーナカヤマ(セン20)。栗毛の馬がトップガンジョー(セン12)だ。

第二のストーリー

▲左がトップガンジョー、右がスーパーナカヤマ


 スーパーナカヤマはアメリカ生まれのいわゆるマル外で、美浦・小西一男厩舎から1996年9月にデビュー。4歳(旧馬齢表記)時にはNHKマイルC(GI・8着)にも出走している。その後、芝・ダート問わず活躍し、1998年にはダートの重賞・ガーネットS(GIII)に優勝している。

 トップガンジョーは、2004年6月に美浦・和田正道厩舎からデビュー。スプリングS(GII)で3着となり、皐月賞(GI・10着)にも出走している。4歳時には、エプソムC(GIII)、新潟記念(GIII)と重賞2連勝を果たしている。その後、脚部不安で長期の休養を挟み、復帰するものの精彩を欠き、2009年8月27日に競走馬登録を抹消されていた。

 お土産の人参を取り出すと、スーパーナカヤマがグイグイこちらに向かって歩いてきた。あまりに近づいてくるので、思わず1本そのまま差し出すと、ズズッと口の中に全部滑り込ませてしまった。しばらく口の中でモゴモゴしていたかと思ったら、ほとんど無傷の人参が口から滑り出てきてボトッと草地に落ちた。

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▲お土産の人参を見てグイグイ向かってくるスーパーナカヤマ


「前歯があまりないので、奥歯にうまく引っ掛からないと食べられないんですよね」と、放牧地に案内してくれた中沢乙子さんが明るい声で教えてくれる。それなのに人参ちょうだいと、再びどんどん近づいてくる。トップガンジョーも一緒になってこちらにズンズンやって来た。現役時代は500キロ前後の馬体重で走っていた2頭。大きい体で迫られると、さすがに気圧され気味になったが、一方で何の警戒心も抱かずに侵入者に近づいてくる馬たちにも少し驚いた。

「ナカちゃん(スーパーナカヤマ)やジョーが競馬で走っていたというイメージが全然湧かないですね。当時を知らないですし。すごい馬だったという話は聞くのですけど。たまにYouTubeでレースを見ると、私の知っているナカちゃんじゃない(笑)」と中沢さん。

「ナカちゃんは大人しいですよ。どの馬が来ても、噛んだり威嚇したりは全くしないですし、喧嘩もしないです。以前、東日本大震災の時に福島で被災した馬を十和田の駒っこランドで引き受けたのですけど、被災馬が慣れるまでナカちゃんが一緒にいたんですよね。人にも馬にも優しくて、ホントすごいんですよ。ナカちゃんはセラピーホースなんです」中沢さんは、ナカちゃんを心底尊敬しているようだ。

 誰にでも優しく心が広いナカちゃんは、人望ならぬ馬望も厚いと思うのだが、だからと言ってボスではないという。「一番強いのはプラです。来た当初から強かったですね」。プラというのは、父にアドマイヤベガを持ち、プラネタリウムという名前で走っていた馬だ。トップガンジョーと同じく和田正道厩舎の管理馬だった。

 中沢さんとのやり取りを柔和な表情で聞いていた当協会会長の宮野進さんも口を開いた。「ナカヤマ君はプライドも高いし、重賞を勝っている馬だから自信もあるしね。相手にしないんだな」「そうですね、プラが強いというよりは相手にしないんですね」と中沢さんがそれを受けた。

 つまりナカちゃんは、プラネタリウムに花を持たせてあげるくらいの強さと余裕があるということなのだ。人参を丸まんま1本口に入れて、結局食べられずにそのまま地面に落とした姿とのギャップもおもしろい。さすがのナカちゃんも、食べ物には弱いようだ。

トップガンジョー改め“十和田”


 一方、トップガンジョーの方はというと「臆病なところがありますね」(中沢さん)、「あるなあ」(宮野会長)と2人の意見が一致している。

「キラーパンサーという白い馬と仲が良いですよ。すごいベタベタしていますしね(笑)」(中沢さん)

「一緒の馬房に入っていることもありますよ(笑)」と、国体選手を目指し、宮野会長の指導を受けている中学3年生の福士超文君も笑顔で話す。

「それはジョーとキラーパンサーだけではなくて、他の馬もそうです。ナカちゃんもたまに他の馬と一緒の馬房に入っていったりもしますし(笑)。時間があったら、夕方の飼い付けの様子を見ていかれるとおもしろいですよ。その時間になると、馬が勝手に自分の馬房に入ってくれるんですよ」(中沢さん)

 馬たちのほのぼのとしたエピソードを聞いているうちに、自然と笑顔になっている自分に気づいた。

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▲現在は競技馬としての調教を積まれているトップガンジョー


 トップガンジョーは、当初は功労馬として助成金を受けていたが、馬術競技用の馬としての素質が高いために、現在はそれを返上して競技馬としての調教を積まれている。「歩様も良いし、きれいに走れる馬ですよ。力もありますし、ジャンプも飛びますから。トップの馬になるという意味を込めて、競技馬としての名前を十和田にしました」

 十和田馬術協会、そして十和田の地を代表する馬になるように。そういう願いが込められているのだろう。ちなみに、キラーパンサーの競技用の馬名は、生月(いけづき)。平家物語の宇治川の先陣争いに登場する名馬・生食(いけずき)の誕生の地が青森県七戸だという伝承が残っていることから「生月」という馬名をつけた。十和田と生月、2頭揃っての馬術競技会での活躍を期待したい。

タカラシャーディーは超がつくほどのマイペース


 十和田馬術協会と同じ敷地内には、乗馬クラブアクシス十和田がある。そこに功労馬として繋養されているのが、2003年の毎日杯(GIII)に優勝したタカラシャーディー(セン14)だ。「大人しいですね。子供に対しても何もしないですし、大人しいです」と、インストラクターの澤下祐生さん。しかしこうも続けた。

「人にはあまり興味がないんですよね」(澤下さん)、こちらに背を向けて、ずっと外を眺めていた姿からもそれは感じた。興味がないというか、マイペース。それも超がつくほどの。「それでも午前中は好意的なんですよ。自分から寄ってきますし(笑)」(澤下さん)。

 しかしそれには、彼なりの重大な理由があった。「放牧の時間だから、寄ってきてくれるんです(笑)」(澤下さん)。1日のスケジュールにも、こだわりの順番がある。「人間側の都合で順番が狂うと、機嫌が悪くなります。こちらの思い通りにはならないですねえ(笑)。自分というものを持ちすぎていて、協力的ではないです(笑)」と澤下さんは、半ば諦め顔で笑っていた。
マイペースは人間に対してだけではなく、他の馬に対しても貫かれている。

「洗い場に繋がれている時などに、他の馬に喧嘩を売られることがあっても、買うことは滅多にないですね。もちろん自分からは、喧嘩は売りませんし」。人は人、馬は馬、自分は自分。それをあくまで貫き通す。それがタカラシャーディーなのだ。

 馬房の前で粘りに粘って、ようやくシャーディーがこちらを向いた。鼻先が白くて愛嬌のある表情。そして前髪がボワボワしていて、おでこから浮き上がっている。例えて言うならば歌舞伎役者がよく舞台で着けるカツラみたいな感じだろうか。「どんなに前髪を梳かしても、まっすぐにはならないんですよねえ(笑)」(澤下さん)。人間の思う通りにはならなぞというシャーディーの強い意志が、前髪にも見事に現れていた。

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▲前髪が特徴的なタカラシャーディー


 シャーディーの元を去ろうとすると、隣にいた馬がこちらに愛想を振りまいている。「この馬、オータムホーク(現在はパルトネール)という馬名で走っていたのですけど、競馬好きの方が来たら、結構知っているんですよ」(澤下さん)。調べてみると父がシーホークで、武豊騎手が乗って新馬勝ちしている。皐月賞馬・ハクタイセイが勝った若駒S(1990年)で5着になったことのある馬だった。

「女の人には、馴れ馴れしくて愛想良いんですよ(笑)」(澤下さん)。27歳とは思えない若々しい表情は、きっと女好きだからかなと勝手な妄想をさせていただいた。

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▲武豊騎乗で新馬戦を勝っているオータムホーク、現在の名前はパルトネール


 乗馬クラブアクシス十和田の厩舎を出ると、夕方の飼い付けの時間になっていた。それまで思い思いの場所で過ごしていた馬たちが、飼い葉の用意ができると、敷地内の通路を取って勝手に戻ってくる。それを見るために、十和田馬術協会の厩舎前に向かった。飼い葉の用意が着々と進む厩舎内に、1頭の派手な栗毛馬がいた。メジロランバート(セン19)だ。好きな馬だった。長距離の重賞路線でいつも健闘していた姿が脳裡に甦ってくる。1つは重賞を勝たせてあげたかったけど、今が元気ならそれで良いような気もした。ちなみにランバートの競技用の馬名は稲生という。

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▲長距離の重賞路線で活躍したメジロランバート、現在は19歳に


 ここには2004年の弥生賞(GII)でコスモバルクの3着になったこともあるメテオバースト(セン13)もいたが、今は岩手大学の馬術部に移動しているとのことだった。

◆飼い付けの時間に起きたハプニング


 そしていよいよ飼い付けの時間。馬たちが次々に厩舎前に戻ってきて、勝手に厩舎に入れないように仕切られた棒の前で、今か今かと待ち構えている。棒が外されると、中沢さんの言葉を借りれば「強い馬の順に」厩舎の中へと速歩で入って行き、自分の馬房にそれぞれ収まった。そしていよいよ、ナカちゃんとジョーが放牧地から通路を通って、戻ってきた。結構勢いが良くて、カメラが追いつかない。


 ちょっとしたハプニングが起きた。ナカちゃんが、別の馬房に入ったのだ。「ここじゃないよ」と中澤さんに連れ出され、自分の馬房に収まった。聞けば、以前使っていた馬房に入ったのだという。なるほど、丸っきり検討違いでもなかったようだ。
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▲トップガンジョーと放牧地から戻ってきたが、別の馬房に入ってしまい、連れ戻されるスーパーナカヤマ


 馬たちの飼い葉を食む心地良い音が、いつしか厩舎の中に響いていた。外に出ると日は暮れかかっていた。十和田馬術協会の1日が終わった。

 のびのびと過ごすナカちゃんやジョー、タカラシャーディー、そして関わる人々の温かさに触れて、とても幸せな気持ちになった。しかしかつて十和田は、軍馬の生産が盛んに行われており、この地からたくさんの馬たちが戦地へと赴いては、人間の起こした愚かな戦争のために命を落としたのだ。今こうして馬たちに出会う旅ができる幸せと、今も昔も人間のために働いてくれる馬たちに、感謝の気持ちを忘れてはいけない。十和田を後にする車中で、その思いを噛みしめていた。

(取材・文・写真:佐々木祥恵)

■赤見千尋さんのコラム「競馬の職人」でも、八戸市場や青森の牧場のレポートを公開中です。併せてお楽しみください!
→記事はこちら

※十和田馬術協会のスーパーナカヤマ、トップガンジョー、乗馬クラブアクシス十和田のタカラシャーディーは見学可です。

◆十和田馬術協会
住所 十和田市三本木字里の沢66
年間見学可能
夏 7:00〜17:00  冬 9:00〜15:00
事前連絡必要(2日前までファックスで申し込み、団体は1週間前までファックスで申し込み)
詳細は最寄のふるさと案内所まで。

◆乗馬クラブ アクシス 十和田
住所 十和田市三本木里の沢75-1
年間見学可能(時期によっては不可)
夏期 10:00〜12:00 14:00〜19:00
冬期 10:00〜12:00 13:00〜15:00
事前連絡必要(2〜3日前に) 団体見学は不可
詳細は最寄のふるさと案内所まで。

◆競走馬ふるさと案内所 東北連絡センター
電話 0178−51−8765
FAX 0178−84−2829
(9:00〜17:00)
休館 日・祝、8月中旬の4日間、年末年始

競走馬ふるさと案内所
→http://uma-furusato.com/

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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