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「一言も弱音を吐かなかった嫁の涙。あの涙の一粒が僕の原動力のすべてです」森田調教師にインタビュー

  • 2014年09月16日(火) 18時00分
競馬の職人

森田調教師(右)



森田調教師「合格を知った時、娘と大粒の涙をながして共に喜びました。嫁にも届くように大声で叫びました」

 サマースプリント王者に輝いた「雪の女王」とでもいえばいいでしょうか、芦毛のリトルゲルダ(牝5)が快勝。北九州記念に続いてセントウルSも勝利し重賞2勝を飾り、堂々の「雪の女王」。昨年の覇者、ハクサンムーンとのたたき合いの中、グイッと振り切る勝負根性を見せつけての勝利でしたね。いよいよ10月5日、新潟競馬場で行われるスプリンターズS(GI)に期待が高まってきましたね。鞍上の丸田騎手の左ステッキもピカイチでした。

 鮫島厩舎は、一昨年のサマースプリント王者パドトロワが今月3日に引退し種牡馬入りしたばかりで、「後を受け継いでくれてうれしいです」と鮫島厩舎からの声もありました。パドトロワがGI馬になれなかった分、ゲルダには期待がかかりますね。

 そしてもう一方のサマーマイルシリーズではクラレントがチャンピオンに輝きました。関屋記念と京成杯AHとこちらも重賞連覇。マイル重賞5勝は、ダイワメジャー、ウオッカとならびトップタイ。後は、GIタイトルに期待がかかりますね。田辺騎手の手腕もひかりましたね。残り100mにさしかかった時には、思わず「がんばれ!」と声を出していましたね。競馬場での生観戦はやっぱり迫力があります。

 凱旋門賞の前哨戦もTVにかじりついて見ていました。日本馬が出走していないのでちょっと残念でしたが、昨年の凱旋門賞馬トレヴがまさかの4着。英愛のダービー馬オーストラリア・独ダービー馬シーザムーンが出走しない可能性が高いとなると日本馬がかなり有利になってきますね。凱旋門賞が行われる10月5日まで1か月を切り、秋競馬の醍醐味ですね。世界で活躍するアスリートを応援しましょう。

 さて、今週は新規開業調教師シリーズ最終となります森田調教師です。森田先生は調教助手を経由せず、初めて厩務員から直接調教師になられました。苦労の数々をお聞きしてきました。

※この取材後、9月11日に浦和競馬場で行われたオーバルスプリントをキョウエイアシュラで優勝し、初重賞制覇を達成しました。森田先生、おめでとうございます。

常石 今日は、よろしくお願します。厩務員の作業をこなしながら調教師試験の勉強され、大変だったでしょう。勉強する時間は、どうやって作ったんですか?

森田 やー、今思えばよくやれたなって感じですね。調教師を目指したきっかけは、福島信晴厩舎で厩務員をしていた時、同じ厩舎で働く労働組合会長に「勉強する自信があるなら調教師試験を受けろ」とはっぱをかけられたことですね。厩務員なのでトップの成績を取らないと合格しないだろうなと思い、1日10時間は勉強しました。休みの日は20時間くらいしたかな?1次試験は通っても2次試験はなかなか通らず、やっぱり厩務員からは調教師にはなれないのかなと思いました。

常石 いつ寝ていたんですか?すごい根性ですね。その強い勝負根性は、どこから来ているんですか?

森田 常石さんには負けるけどな・・・。

常石 いえいえ・・・(苦笑)。

森田 調教師試験に合格するまでの間は家族が支えてくれました。ちょうど受験勉強を始めた年に嫁に癌があることがわかり調教師の受験をやめようと思いました。でも、がんと闘う嫁は、泣き言ひとつ言わないで「逃げたらだめ」と逆に励ましてくれました。その強い思いに応えねば、と思い「なせば成る為さねば成らぬ何事も成らぬは人の為さぬなりけり」の言葉を自分にしっかり言い聞かせて頑張りました。

 今でも絶対に忘れられない光景があるんですよ。嫁が「もう寝るね」と言って目を閉じた瞬間に左の眼から静かに涙が流れて・・・。翌日、息を引き取りました。

 最後の最後まで一言も弱音を吐かなかった嫁の涙。あの涙の一粒が僕の原動力のすべてです。その翌年に調教師試験に合格できました。合格を知った時、娘と大粒の涙をながして共に喜びました。嫁にも届くように大声で叫びました。

常石 すごい努力されたんですね。思いが実現し奥さんにも届いたでしょうね。森田先生のそばにはいつも応援してくれる重要な人たちがいらっしゃいますよね。

森田 そうなんです。ありがたいことです。たくさんの人が僕を支えてくれています。合格後は、見習い調教師として親友でもあり尊敬する大先輩でもある矢作調教師と一緒に馬主さんや牧場など紹介していただき、回らせていただきました。一人では何もできませんからね。いろんな人から助言をいただいたり意見をきいてスタッフのみんなと仲良くやっていきたいと思っています。

常石 だから森田厩舎のトレードマークがハート形なんですね。素敵なデザインですよね。

森田 ありがとうございます。森田のMをハート形にしそのハートのくぼみにあるのが蹄鉄と名前の直行のNをイメージしたものです。みんなが幸せになりますように願いを込めています。両腕に入った金色の印も坂路調教の時もモニターで見てすぐにわかるようにしてます。

競馬の職人

森田厩舎のロゴマーク入りジャンパーを着ている厩舎スタッフとパチリ



常石 モニターで見てわかるのは、いいですね。思いと工夫がようわかります。思いといえば、先生の馬つくりは、厩務員という立場から馬のことがよくわかりこだわりがあると思うんですが、これからどんな馬作りを目指していかれますか?

森田 厩務員として働いた福島信晴厩舎での経験が大きいですね。福島先生は、調教からえさの配分まで任せてくれたので勘だけではなくスポーツ科学や獣医学・栄養学まで勉強しました。やればやるほど面白くなってきました。

常石 勉強家ですね。これからの馬つくりや馬を見る視点など教えてください。

森田 まだまだ試行錯誤で教えることなんてとんでもないですが、自分のやり方を確立してきたので、自信を持って馬つくりをしていきたいと思っています。

「強い馬を作る」というのは、レースに勝つことだけではなく、怪我のない丈夫な精神力の強い馬を作ることだと思います。うちでは、まず坂路とプールを中心にした調教をしていきます。プールは、脚元に負担が少ないうえに肺活量も強くなりますからね。プールを何周したら毛細血管に負担がかかるのかを知るために、プール調教後に診療所に行き内視鏡で見て確かめていました。そうすることで馬にとっての適切な調教が見えてくるんですね。

 経験と勘だけでやっていけないということがよくわかってきました。経験と勘プラス勉強(分析化学かな)の3要素が必要だと思っています。見た目は適当にやっているように見えるんですがね(爆笑)

常石 そうですね。長年積み重ねた経験も勘も大事ですが化学の力も大切になっていち早く調教に取り入れていく先生の馬作りに興味が湧いてきますし、本当に楽しみです。馬を見る目はどうですか?

森田 女性を見るようなまなざしで上から下までじっくり眺めていますよ(爆笑)馬を壊さずに走らせることが一番。獣医・装蹄師・スタッフ・馬主・牧場・マスコミ・ファンなども含めてみんなで喜び合える馬作りをしていきたいです。

 詳しい森田流の馬つくりは秘密です(笑)。競馬場でじっくり馬を見てください。

常石 もう一つ気になっているんですが、調教師試験がかなり難しかったと聞くのですがどんな感じでしたか?

森田 問題が1000問ぐらいあったけど1次は何とかクリアできたけど2次の面接が難しかった。質問攻めにあうんですね。いくつかの回答を準備していたのですが、足りなくなるくらい質問攻めにあいましたね。いじめか?とおもうくらいでしたよ。

常石 筆記試験より2次試験のほうが難しいんですね。参考になりました。最後にファンのみなさんへメッセージをお願いします。

森田 健康な馬をつくって送り出しています。人と同じなんですね。健康だと歩様がしっかりして姿勢もいいのでそんな馬を見つけてください。応援よろしくお願いします。

常石 長い時間ありがとうございました。活躍楽しみにしています。

***

 森田先生は、風格とはちがってやさしい口調でじっくりお話ししてくださり親しみが持てました。奥様の思いもいっぱい詰まったデザインの厩舎服はかっこいいですね。何とか一着ゲットしたいです(笑)。

つねかつこと常石勝義でした。

常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。

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