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凱旋門賞は「欧州3歳世代」vs「日本勢」か、今期の欧州中距離戦線の動向

  • 2014年09月24日(水) 12時00分


今季の欧州中距離戦線は、3歳世代にタレントが豊富な一方で、古馬勢はやや手薄という状況

 ジャスタウェイ(牡5、父ハーツクライ)、ゴールドシップ(牡5、父ステイゴールド)、ハープスター(牝3、父ディープインパクト)の3頭が、悲願の日本馬初優勝に挑むG1凱旋門賞まであと10日余りとなったこの機会を捉え、今季の欧州中距離戦線の動向を改めて整理検証しておきたいと思う。

 既に各所で多くの方々が御指摘のように、今季の欧州中距離戦線は、3歳世代にタレントが豊富な一方で、古馬勢はやや手薄という状況でここまで進んでいる。

 古馬勢の勢力が「もうひとつ」と言われるゆえんは、本来であれば路線の中核をなすべき馬たちが、いずれもシーズン前半から躓きを見せ、戦線の屋台骨を背負うことが出来なかった点にある。「本来であれば路線の中核をなすべき馬たち」とは、言うまでもなく、昨年のこの路線を引っ張った馬たちで、今季も現役に残ったビッグネームたちである。

 その筆頭は昨年、5馬身差で圧勝したG1凱旋門賞を含む4戦4勝の成績を挙げ、欧州年度代表馬に選出されたトレヴ(牝4、父モティヴェイター)だ。今季初戦のG1ガネイ賞(芝2100m)でシリュスデゼーグル(セン8、父イーヴントップ)の2着に敗れた際には、連勝がストップしたことは残念だったものの、休み明けの上に不良馬場で道悪巧者のシリュスデゼーグルの短首差2着なら「悪い競馬ではない」との見方が大勢を占めていた。だが、続くG1プリンスオヴウェールズS(芝10F)では同じ牝馬のザフューグ(牝5、父ダンシリ)に2.3/4馬身差をつけられての3着に完敗。更に、じっくりと立て直しを図られて再登場したG1ヴェルメイユ賞(芝2400m)では4着に敗退と、結果だけでなく競馬の内容も徐々に悪くなりつつ3連敗を喫し、凱旋門賞連覇に黄信号が灯っている。

 あるいは、昨秋のG1BCターフ(芝12F)勝ち馬マジシャン(牡4、父ガリレオ)。今季初戦のG1ドバイシーマクラシック(芝2400m)で6着に敗れると、弱敵相手のG3ムーアスブリッジS(芝10F)こそ勝利を収めたものの、以降はG1タタソールズGC(芝10F110y)、G1プリンスオヴウェールズS、G1キングジョージ6世&クイ−ンエリザベスS(芝12F)、G1アーリントンミリオン(芝10F)と4連敗。期待に応えられているとはとても言えない成績に終わっている。

 凱旋門賞ということで言えば、本来なら今頃は最有力候補の1頭と目されていておかしくはないのが、昨年のG2ニエル賞(芝2400m)勝ち馬で、G1凱旋門賞4着のキズナ(牡4、父ディープインパクト)だ。だが、御存知のように同馬はG1天皇賞・春(芝3200m)のレース中に故障を発症し、戦線を離れてしまっている。

 あるいは、昨年のG1英ダービー馬ルーラーオヴザワールド(牡4、父ガリレオ)。今季初戦のG1ドバイワ−ルドC(AW2000m)で13着に大敗すると、プッツリと戦線から姿を消すことになった。更には、昨年のG1パリ大賞(芝2400m)勝ち馬フリントシャー。今季初戦のG1コロネーションC(芝12F)でシリュスデゼーグルの2着となった競馬は悪くなかったが、続くG1サンクルー大賞(芝2400m)は1番人気を裏切り4着に敗れ、続いて出走を予定したG1キングジョージは熱発で取り消しと、今季ここまで未勝利で来ている。そして、昨年のG1愛ダービー勝ち馬トレイディングレザー(牡4、父テオフィロ)もまた、今季ここまで4戦し未勝利に終わっている。

 このうち、ルーラーオヴザワールドとフリントシャーは、14日のG2フォワ賞(芝2400m)に出走し、ともに悪くない競馬で1、2着となった。ことに、5か月半振りの復帰戦で、昨年のG1英ダービー以来となる勝利を手中にしたルーラーオヴザワールドの「復活」は、この路線の古馬戦線における数少ない朗報の1つとなったが、俯瞰で眺めてみると、今季の欧州中距離古馬戦線がいかに「期待外れ」に終わっているかが、改めておわかりいただけると思う。

 そんな路線を支えたのは、G1ドバイシーマクラシック(芝2400m)こそジェンティルドンナ(牝5、父ディープインパクト)の2着に敗れたものの、その後はG1ガネイ賞、G1イスパーン賞(芝1850m)、G1コロネーションCを3連勝した古豪のシリュスデゼーグル(セン8)だったが、これも既に御案内のように、セン馬のシリュスデゼーグルには凱旋門賞出走資格がない。

 そんな中、あの怪物フランケルの全弟で、5月のG1タタソールズGCで待望のG1初制覇を果したノーブルミッション(牡5、父ガリレオ)という新興勢力の台頭はあったものの、戦線の屋台骨を背負うまでには至っておらず、「凱旋門賞戦線」という意味では、あえて「不作」の二文字を使ってもおかしくないほど低迷したのが、今季の古馬勢であった。

 一方で、冒頭でも記したように「キャラの立った」タレントが複数登場したのが、今季の中距離路線における3歳世代だった。

 英国と愛国でこの路線を牽引したのは、言うまでもなく、両国のダービーを制したオーストラリア(牡3、父ガリレオ)である。世界4カ国で7つのG1を制した名牝ウィジャボードの4番仔という良血で、2歳9月にレパーズタウンのG3BCジュヴェナイルターフトライアル(芝8F)を6馬身差で制して、クラシック候補ともて囃されることになった同馬。見事にその期待に応えたわけだが、その後、管理するA・オブライエン師が、この馬のベストは10Fと公言し、その言葉通りに次走はG1インターナショナルS(芝10F88y)に駒を進め、ここも快勝。ところが、続くG1愛チャンピオンS(芝10F)で2着と思わぬ不覚をとった後、陣営から「凱旋門賞は回避濃厚」とのコメントが出て、ブックメーカー各社は同馬を凱旋門賞の前売りリストから外すことになった。

 オーストラリアに代わって、凱旋門賞で英国3歳牡馬の代表を務めそうなのが、G1英ダービー(芝12F10y)2着馬キングストンヒル(牡3、父マスタークラフツマン)である。古馬に挑んだG1エクリプスS(芝10F7y)は、苦手の硬い馬場になったこともあって4着に敗れたが、再び3歳同士の争いとなった3冠最終戦のG1セントレジャー(芝14F132y)は、1番人気に応えて完勝。今季ここまで4戦、秋はセントレジャー1戦のみと、使い込まれていないことから、次走はG1凱旋門賞に向かって来るものと見られている。

 仏国で、英国におけるオーストラリア同様、この世代を担う存在になるとシーズン前から期待されていたのがエクト(牡3、父ハリケーンラン)だった。2歳時、デビュー2戦目のメイドンから4連勝でG1クリテリウムインターナショナル(芝1600m)に優勝。今季初戦となったG3フォンテンブロー賞(芝1600m)でも、次走G1仏二千ギニー(芝1600m)を制するカラコンティ(牡3、父バーンスタイン)を2着に退けて優勝。ところが、その後故障を発症して春の2冠は欠場し、ようやく出走態勢が整って5か月振りにファンの前に姿を現したのが、14日のG2ニエル賞(芝2400m)だった。ここで、「久々」と「一気の距離延長」という2つの障壁を軽々と乗り越えて優勝したエクトは、一躍、凱旋門賞上位人気に浮上することになった。

 G1仏ダービー(芝2100m)を制したのは英国調教馬のザグレイギャツビー(牡3、父マスタークラフツマン)で、G1パリ大賞(芝2400m)は距離不向きで6着に敗れたものの、10F路線に戻ったG1インターナショナルSで同馬は古馬に先んじてオーストラリアの2着を確保。7万5千ポンドの追加登録料を払って出走した続くG1愛チャンピオンS(芝10F)では、見事にオーストラリアを撃破して優勝。同馬は完全に10F路線の馬で、次走はチャンピオンズデイ(10月18日)のG1英チャンピオンS(芝10F)に向かう予定だ。

 そんな中、ドイツに出現した異才が09年の世界チャンピオン・シーザスターズの初年度産駒の1頭として生まれたシーザムーン(牡3、父シーザスターズ)だった。デビューから3連勝で臨んだG1独ダービー(芝2400m)を、1番人気に応えて快勝。逃げて、4コーナーでは1頭だけ外埒沿いまで飛んで行き、ゴール前1Fは鞍上C・スミヨンが全く追うことなく、2着ラッキーライオン(牡3、父ハイチャパラル)に11馬身差をつけるという圧勝だった。レース後、手綱をとったC・スミヨン騎手が「雰囲気がオルフェーヴルに似ている」とコメントしたことから、日本でもおおいに話題となった同馬。その後、G1バイエルンツヒトレンネン(芝2000m)に駒を進めたラッキーライオンが、英国から遠征したノーブルミッション(牡5)を撃破し優勝。益々評判が高まったシーザムーンは、凱旋門賞前売りの1番人気の座に就いた時期もあったが、秋初戦のG1バーデン大賞(芝2400m)でアイヴァンホウウィー(牡4、父ソルジャーホロウ)の2着に敗れて連勝がストップ。その後、故障が見つかって現役を退くことが発表され、凱旋門賞戦線から姿を消すことになった。

 今年3歳世代には、牝馬にも卓越した能力を持つ馬が、英国と仏国に現れている。

 英国の女王が、今季初戦のLRプリティポリーS(芝10F)を6馬身差で制し、2戦2勝の成績で臨んだG1英オークス(芝12F10F)も3.3/4馬身差で快勝したタグルーダ(牝3、父シーザスターズ)だ。当初は次走G1愛オークス(芝12F)に向かう予定だったが、直前に矛先を変えて出走したG1キングジョージで、古馬の牡馬を一蹴して3馬身差で快勝。38年振り史上3頭目となる3歳牝馬によるキングジョージ制覇を達成した。その後、G1ヨークシャーオークス(芝12F)で、同じ3歳世代のG1愛オークス(芝12F)2着馬タペストリー(牝3、父ガリレオ)の2着に敗れて連勝が止まり、やや評価を下げることになったが、凱旋門賞参戦という当初のプランに変更はなく、前売り市場では依然として根強い人気を誇っている。

 仏国の女王が、デビューから無敗のままG1仏千ギニー(芝1600m)、G1仏オークス(芝2100m)の2冠を制したアヴニールセルタン(牝3、父ルアーヴル)だ。前半は後方に控え、直線で切れ味鋭い末脚を発揮する馬で、アルカナ10月1歳市場にて4万5千ユーロ(約465万円)という廉価で購入されている点も含めて、1年前のトレヴと重ねる点が多い(トレヴは同市場にて主取り)馬である。8月19日にドーヴィルで行われたG3ノネット賞(芝2000m)を使われ、ここも白星で通過。無敗のまま本番を迎える同馬の、唯一の懸念材料と言われているのが、初めて走る2400mの距離である。当初陣営は同馬をマイラーと評価し、G1仏オークスを使われた際には、距離に対する懸念から「道中は後方で息を潜め、追い出しは出来るだけ我慢するように」との指示が鞍上のG・ブノワ騎手に出されていたほどだった。300mの距離延長を克服すれば、3歳シーズンの結末までもがトレヴと重なる可能性はおおいにあると見られている。

 中には、一頓挫があったり戦線を離脱する馬もいたりしたものの、依然として3歳世代は手駒が豊富で、「欧州3歳世代」vs「日本勢」の図式が出来上がりつつあるのが、現段階での凱旋門賞戦線と言えそうである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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